最優テイマーの手抜きライフ。悪役令嬢に転生しても、追放されても、私は辺境の地でこの魔物たちと仲良く暮らします。

西東友一

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 死を受け入れた桜には痛みは無かった。

 吹き飛ばされる中、桜はこれまでの人生が走馬灯のように流れた。桜は自分の人生を振り返るが、現実世界でいい思い出は無く、目線を逸らしたくなった。けれど、そんな彼女の目に溜まった記憶があった。それは初めて乙女ゲームを買った時の背徳感と高揚感を味わいながらパッケージを開けて、ソフトを挿入した記憶や、新作のゲームの発売を知ったときの喜びなどを懐かしく思い出していた。

(はっ!!?)

 桜は目を見開いてとても重要なことを思い出す。

(まだだっ)

「ああっ!」

 生きたい、と願うと全身に痛みが走る。その痛みを感じただけでショック死してしまいそうな痛みだ。けれど、それでも桜は願った。

(私の胸には・・・世界がっ。吟遊詩女の、私の理想郷が・・・)

 桜は意識を保とうと思ったけれど、身体は言うことを聞かず、麻酔をかけられたようにどんどん自分の身体が自分の身体ではないようになり、耳も遠く聞こえ、瞳もぼやけてきて、必死に瞼を開けようとするも瞼はゆっくりと桜の視界を遮った。

 桜の心と身体が遮断された。
 
 心を核にした桜の魂。

 魂には目や耳など感覚器官はない。桜に唯一わかるのは、無限に広がる宇宙のような空間に弱々しい自分が一人、裸の状態で放り出されたかのように身体とどんどん離れていく感覚になり、今までの身体とは二度と巡り合うことはできないと気がした。

 魂は広大な空間を彷徨う。
 
 最初は無作為だった。
 右往左往して、同じ場所を行ったり来たりしていた桜の魂。
 どこに行っていいのかわからない魂。少しずつ分解されて行き、どんどん小さくなっていく。本来であれば、そのまま消えてしまうはずだった魂。
 
 けれど、桜の魂には無駄な部分が削がれていく中で、純粋さだけが取り残されて行き、急にゴールがわかったかのように勢いよく飛んでいく。まるでそれは自分の行きたかった場所を見つけて、はしゃぐ子供のように。まっすぐ、まっすぐと進んでいった。

 すると、ホワイトホールのような輝く渦を見つけた。輝きすぎて中身がなんなのかわからなかったけれど、桜の魂はそれを見つけると、さらにスピードを上げる。そしてホワイトホールの方も呼応するように桜の魂を呼び込む。桜の魂がそのホワイトホールの向こう側へ行くと、ホワイトホールは役目を終えたように消失し、再び無限に広がる宇宙のようなその空間は沈黙になり、何もかもが不規則に無秩序に、無作為に浮遊するだけの空間になった。
 


 
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