上 下
2 / 3

しおりを挟む
『なら、イジメている人を殺したらいかがですか?』

 私は思った。
 人の命をなんだと思っているのだろうか。

 天使の言った当たり前のような言葉に私はおののいた。

「あなたが自殺したとしましょう」

 人であれば、私の様子が落ち着くまで待ってくれたであろう。(あぁ、人と言ってもイジメてくるような人を除くが)けれど、天使は私が驚きつつも心の中でその言葉に興味を持つぐらいの余裕と、早く聞きたくなっているのを察知したかのように話を続ける。

「あなたは地獄で千年単位で罰を受けるでしょう。そして、あなたをイジメていた人たち、彼女らはおそらく天国に行きます」

「えっ・・・」

「あなたが遺書を残さないのもありますが、彼女らは社会的制裁も受けませんし、罪悪感もありません。なんなら、あなたが死んだことによる不快感をあなたのせいにします」

「・・・」

「天界としても、彼らがすぐになんらかの理由で死んだ場合、あなたを自殺に追い込んだ制裁として数年から数十年の罰を地獄で与えることになるでしょう。しかし、彼らはすぐに死ぬ予定はありません。なので、罰を与えることはないでしょう」

「そんな、なんですぐじゃないと駄目なんですか?」

「生きると言うことはそれだけで価値があり、徳を重ねていくのです。生きる上で誰かに迷惑をかけるのは当たり前であり、我々は人々の善なる行動を評価していきます。罪を一生背負うというような発想は天にも地にもありません」

 それじゃあ・・・私は・・・

「そうです。馬鹿みたい・・・というか「馬鹿」なのです、「憐れ」なのです」

 心のどこかで私が地獄に行くのだから、彼女達も地獄、それも私以上の罰を受けること期待していた。けれど、天使は私の苦しみをちっとも理解してくれない。

「私たちはあなた方人類が作った司法よりも適切です。あなたが恨みを持つことも理解はできますが、適切な判断を行っています」

 理解なんて嘘に決まっている。適切って・・・やっぱり、私がいけないの?

「あなたは善ではありません。かといって、今のところ悪でもありません」

 私に寄り添ってくれるわけではないけれど、勝手に私の頭を覗き込んで回答してくる天使。

「ですので、殺したらいかがですか、と提案しているのです」

「そんなこと・・・」

「あなただってわかっているはずです。あなたをイジメている人はあなたより偉いわけではありませんし、社会にとっての価値も私から見ればほとんど差異がありません。しょせん、あなた方の命は同じ価値なのです」

 




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〜友情〜

らそまやかな
青春
はー…同じクラスの友達と喧嘩(私が悪いんだけど)をしちゃったんだよね。その友達はさよって言うんだけど…あることがあって消えろって言われたの。正直ショックだった。やったことは悪かったけどわざとじゃなくて…どうしよう

淡い罪

Olivia
青春
あれは現実だったのか、それとも私の妄想だったのか・・・

期末テストで一番になれなかったら死ぬ

村井なお
青春
努力の意味を見失った少女。ひたむきに生きる病弱な少年。 二人はその言葉に一生懸命だった。 鶴崎舞夕は高校二年生である。 昔の彼女は成績優秀だった。 鹿島怜央は高校二年生である。 彼は成績優秀である。 夏も近いある日、舞夕は鹿島と出会う。 そして彼女は彼に惹かれていく。 彼の口にした一言が、どうしても忘れられなくて。

十月の葉桜を見上げて

ポテろんぐ
青春
小説家を夢見るけど、自分に自信がなくて前に踏み出す勇気のなかった高校生の私の前に突然、アナタは現れた。 桜の木のベンチに腰掛けながら、私はアナタとの日々を思い出す。 アナタは私の友達でも親友でもなかった。けど、アナタは私の人生の大切な人。 私は今でもアナタのために小説を書いている。

真夏の温泉物語

矢木羽研
青春
山奥の温泉にのんびり浸かっていた俺の前に現れた謎の少女は何者……?ちょっとエッチ(R15)で切ない、真夏の白昼夢。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

「ユリって雑草だよね」

ちありや
青春
誰の手も借りる事無く気高く咲く花がある。 彼女はその花の様になりたかった……。

私のなかの、なにか

ちがさき紗季
青春
中学三年生の二月のある朝、川奈莉子の両親は消えた。叔母の曜子に引き取られて、大切に育てられるが、心に刻まれた深い傷は癒えない。そればかりか両親失踪事件をあざ笑う同級生によって、ネットに残酷な書きこみが連鎖し、対人恐怖症になって引きこもる。 やがて自分のなかに芽生える〝なにか〟に気づく莉子。かつては気持ちを満たす幸せの象徴だったそれが、不穏な負の象徴に変化しているのを自覚する。同時に両親が大好きだったビートルズの名曲『Something』を聴くことすらできなくなる。 春が訪れる。曜子の勧めで、独自の教育方針の私立高校に入学。修と咲南に出会い、音楽を通じてどこかに生きているはずの両親に想いを届けようと考えはじめる。 大学一年の夏、莉子は修と再会する。特別な歌声と特異の音域を持つ莉子の才能に気づいていた修の熱心な説得により、ふたたび歌うようになる。その後、修はネットの音楽配信サービスに楽曲をアップロードする。間もなく、二人の世界が動きはじめた。 大手レコード会社の新人発掘プロデューサー澤と出会い、修とともにライブに出演する。しかし、両親の失踪以来、莉子のなかに巣食う不穏な〝なにか〟が膨張し、大勢の観客を前にしてパニックに陥り、倒れてしまう。それでも奮起し、ぎりぎりのメンタルで歌いつづけるものの、さらに難題がのしかかる。音楽フェスのオープニングアクトの出演が決定した。直後、おぼろげに悟る両親の死によって希望を失いつつあった莉子は、プレッシャーからついに心が折れ、プロデビューを辞退するも、曜子から耳を疑う内容の電話を受ける。それは、両親が生きている、という信じがたい話だった。 歌えなくなった莉子は、葛藤や混乱と闘いながら――。

ずっと君を想ってる~未来の君へ~

犬飼るか
青春
「三年後の夏─。気持ちが変わらなかったら会いに来て。」高校の卒業式。これが最後と、好きだと伝えようとした〈俺─喜多見和人〉に〈君─美由紀〉が言った言葉。 そして君は一通の手紙を渡した。 時間は遡り─過去へ─そして時は流れ─。三年後─。 俺は今から美由紀に会いに行く。

処理中です...