営業成績一位の神崎くんは私に褒められたい。(でも、私は神崎くんに勝ちたい)

西東友一

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「ねぇ、峰村さん」

 私が作業していると困った顔で小宮山さんがやってきた。手にはカラー印刷した用紙がちらっと見える。

「はい、何でしょうか?」

 私は作業を止めて、その小宮山さんに身体を向ける。

「今、僕が持っている仕事でロゴを考える仕事をしていて女性の意見も聞きたいんだけど、このロゴどう思う?」

 そう言って、小宮山さんは私に案が描かれた用紙を渡してきた。デザインはポップな感じで全体的にラクダ色のロゴだった。

「えーっと、業種は何で、ターゲット層はどこで、クライアントの要望や意見を差し支えなければ聞いていいでしょうか?」

 デザインは悪くないし、完成度も高い。でも、これは仕事だ。中途半端に意見なんて言ってしまえば、小宮山さんも私も、そして依頼主もやってます感だけで、何も得られない。


「えーっと、古着屋さんで、今は30代くらいの女性がメインで、多く来ているんだけれど、20代や男性にも来てほしいかなって言ってる」

「なるほど」

 私は今いただいた情報をアップデートさせてもう一度デザインを見る。

「私なら陰影をもう少し大胆につけますね。そうすると、もう少しポップさが出ていいんじゃないかなと思います」

「なるほど・・・試してみようかな」

「このロゴ、落ち着きがあってとっても素敵です。完成したら、また見せてくださいね」

「ああっ」

 そう言って、小宮山さんは席へと戻っていった。

「峰村先輩っ」

 小宮山さんの落ち着いた声とは対照的に明るい女性の声、林佳苗の声が聞こえた。

「林さん、先輩って言うのは止めて欲しいかな」

 私は笑顔で林さんに気持ちを伝えると、

「峰村は峰村先輩なんですっ。私は峰村先輩をとっても尊敬しているので、先輩なんです。先輩じゃなければ、師匠と・・・」

「それで、何かしら?」

 先輩はギリギリアウトだけど、師匠はアウトというかデッドだ。林さんはこれを機に師匠と呼ぼうとする気満々の目をしていたので、言葉を遮って用件を聞いてみる。

「あっ、はい。えーっとですね。コレですっ!!」

 タブレット端末を渡された。私はムービーのアプリを指さすと林さんは力強く頷く。本当は言語化していって欲しいけれど・・・



「すごい・・・・・・っ」



 彼女もまた、天才だ。ヤツと同じように。

 突然の始まりに意識が持っていかれて、様々な国の若者がダイナミックに動く。
 
「すごいよ、すごいっ。いいじゃん、林さん。これ、若者向けのシューズの動画でしょ?」

 林さんは目をキラキラさせて、鼻息を荒くして頷く。この動画、一見カラフルな服に目が言ってしまうのだけれど、要所要所でシューズが映し出されて存在感がある。動画の途中で言ってしまったけれど、うん、やっぱり最後はシューズが大きく映った。

 私は小宮山さんには条件を聞いた。ロゴと言うのが即効力が動画よりもない性質というのもあるけれど、林さんの作ったムービーは誰にどう刺すかがすぐにわかる。このムービーは私には作れない。そう思いながら、林さんを見る。

「それで・・・・・・また、入れる言葉とか一緒に考えて欲しいってことかな?」

「はいっ!!!」

 林さんはまだ1年目。当然私も教育係としてチェックはするけれど、林さんがまず作ることが重要だ。結論としては、林さんの文章能力だとほぼ全直し。その方が効率が良くても、林さんが成長する上で必要な過程だ。

(参考として、もう1回くらいやって見せてあげるか、それとも、そろそろ一人で考えてもらうか・・・)

 どうしようかな?
 
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