営業成績一位の神崎くんは私に褒められたい。(でも、私は神崎くんに勝ちたい)

西東友一

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 株式会社レインボーデイ。
 オフィスは新しめのビルの5階をレンタルしており、自分用のデスクの他に、打ち合わせスペースなども充実しており、とても快適な環境で仕事ができる。

「おはよう」

「おはようございます」

 私が仕事をしていると、眠そうな顔をした山田さんが就業開始5分前くらいに来た。

「あんまり、無理すると、続かないぞ?」

「ご心配ありがとうございます。でも、大丈夫です。仕事が好きなので」

 私は作業を止めて、山田さんに身体を向けて話す。

「いやー、僕が続かないかなーーなんつって」

「うふふふっ、頑張ってくださいよ、山田さん」

 とりあえず、私は笑っておく。山田さんはやる気のない先輩だけれど、色々お世話になった先輩。後輩の私が山田さんの仕事に口出すなんてことは、山田さんが不愉快な思いをするだろうからしない。

「みっ・・・・・・ねっ、むらああああああっ!!!」

 声変わりはしているけれど、高校生くらいの男性の声が聞こえる。

 神崎湊、ヤツだ。
 

 私は変な夢を見たせいで睡眠が浅かったのか、目のあたりの筋肉がぴくっと動いた。ヤツは私の席まで一直線にやってきた。

「おはよう、神崎くん」

 私は作業を続けながら、やってきたヤツに挨拶をする。

「うんっ、峰村さん。おはようっ!!」

 キラキラした目で私に挨拶を返すヤツ。まったくコイツは相も変わらず、天真爛漫だ。私なら相手の態度で怖気づくというか、リアクションを見ながら対応を変えるけれど、天才と言われるコイツは自分が魅力だからそのままでいいと思っているのだろう。人に気を遣うのが当たり前にできる私は、相手の幸せになれるなら基本的に苦に感じないけれど、仕事をしていれば、無理なお願いなどもしなければならないし、察してやらなければいけないこともある。そういった部分も無視できるコイツが私は羨ましかった。

「ねぇ、聞いてよ。昨日、グラウンドファーマーのプロポーザルがあったんだけどさ・・・」

 「グラウンドファーマー」という言葉を聞いて私はヤツに顔を向けると、ヤツはとても嬉しそうな顔をする。癪に障るけれど「グラウンドファーマー」という言葉を聞いてしまえば、関心を示さないわけにいかない。「グラウンドファーマー」と言えば、日本の農業関係者で知らない人はもぐりと言われるくらい有名な会社で、農機具の製造・販売から始まり、バイオ研究や新鮮な野菜や果物の栽培や販売まで行っている大手企業だ。テレビCMも行っているし、雑誌でも広告で見ることは多い。

「色々質問あったんだけど、すごい興味津々だったかな」

「へぇ、すごいね。流石、神崎くん」

「へへへっ」

 心の底から嬉しそうなコイツの顔。
 はっきり言って、私に向けるのは止めて欲しい。
 
 コイツのベビーフェイスに天真爛漫さは多くの女性社員から人気がある。周りをちらっと見ると、何人かの女性社員がコイツのそんな顔に注目していた。コイツの顔を見て、癒されるみたいな穏やかな顔をしている方々はいい。でも、中には・・・

「許せん」

 あぁ、デスクのシマが2つくらい遠いのに、なんとなく聞こえるくらいの圧が私の背中を襲っている。その女性の社員の名前は篠原たゑ子さんだ。篠原さんを筆頭にコイツのファンクラブがこの会社には非公式で存在するらしく、何人かが私を目の敵に・・・いや、目の敵にしているのは篠原さんくらいか。あとの人たちは羨ましがるぐらいで、みんな優しい。ちなみに非公式のファンクラブなのに、それをコイツは喜んで公認しているのが、またなんとも言い難い。

「じゃあ、今日は報告書のまとめがあると思うけど、頑張ってね」

「おうっ。頑張る。だから、まり・・・・・・」

「ん?」

 私は笑顔を絶やさない。だけど、下の名前で呼ぶんじゃねーぞというオーラを篠原さん並に出す。

「みっ、峰村さんも頑張ろうね」

「うん、頑張ろう」

 私はヤツに手を振る。もう、話しは受け付けませんのサインだ。ヤツはまた元気に自分の席へと戻っていった。私はヤツの背中を見送り、パソコンの画面を見ながら、キーボードを素早く叩く。



 ―――ヤツに負けてたまるかっ

 






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