4 / 7
1
しおりを挟む
「いやっ!!」
壇上の上で、東社長から「ヤツ」が貰おうとしているトロフィーに、私は席から手を伸ばした。すると、座っているはずなのにトロフィーに近づいてゆき、ヤツと社長が怪訝な顔で私を見ている。
「でも、私の物だっ!!!」
私が瞬きをすると、オレンジ色の光に包まれていたはずなのに、白い光、もとい普通の発光色というか朝日に代わっていた。
ピピピピピピ・・・・・・・・・・・・ッ
私は鳴り出した目覚ましのアラームを消す。
「もっと早く鳴ってよ」
私は設定した5時50分に鳴った目覚まし時計に無理な文句を言う。でも、あの日から2年以上経っているのに、まるで昨日のことのように鮮明に思い出してしまい、とてもブルーになる。1年目の年末年始は、本当は実家に帰るつもりだったけれど、ショック過ぎて親とも連絡を取らずに、家に引きこもっていて、大晦日に心配で様子を見に来た母に発見されて、渋々実家に帰った。おかげで、正月太りもせずに体重が2キロも減った。
「ふんっ」
私はクリスタルでできたトロフィーを見る。
そのトロフィーは私の物。
もちろん新人賞のトロフィーじゃない。
今見ていた夢が過去の再現VTRじゃなくて、あくまでも夢で、本当は新人賞のトロフィーが事実とかだったとか私の認識違いを祈るけれど、やっぱり新人賞のトロフィーじゃない。でも時々、朝に目が覚めた時に、誰かがタイムリープでもして、過去改ざんが行われたとか、実は誰かに催眠術をかけられていたけれど、目を覚ました時にすべてを思い出した、とかでこの事実が変わっていればいいのにとガチで思っている。
覆水盆に返らず、なんてことわざあるけれど、「そういうのいいから、知らんからっ!! はよっ、戻してっ!!」って言いたくなる。それも心の底から思うのは私だけだろうか。
トロフィーを触る。
新人賞以下のくせして、肌触りはとてもよくて一度触るとしばらく触っていたくなる。
刻まれているのは「2020年 新人特別賞 峰村真凛」
「敗者のトロフィーよね・・・」
2年前、新人賞をヤツが取り、絶望して「私なんかゴミだ」とか思いながら、放心状態になっていると、山田さんに呼ばれてるぞと肩を叩かれた。どうやら東社長は話を続けて、僅差で悩んだ社員がいるため、新たに新人特別賞というのを創設して、それが私だったらしい。登壇して隣にいた「ヤツ」が「おめでとう。真凛のおかげだよ」と笑顔で言ったのが鮮明に覚えている。それに対して、いつものように神対応をしたのか、塩対応をしたのか、残念ながらその後のことはほとんど覚えていない。
だって、せっかく用意してもらった賞とはいえ、私にとっては、その賞はブービー賞と何ら変わらない。私は「勝者」か「敗者」ということを人一倍気にする。だから、負けた人の中から、選ばれたに過ぎないその賞は「お前は敗者だ」と言われたのと同じだ。
見ているだけで不愉快な気持ちになり、ヤツの家に似たような形をして、同時期に作られた兄弟のようなトロフィーがおそろいであると思うと気持ち悪さまで覚える。それも、ヤツは私にトロフィーをどうしたか聞いてきて、飾っていると伝えると「峰村さん、まだ飾ってるの? じゃあ、俺も飾っとこうっと」なんて、マウントの取り方をしてくるのだ。屈辱でしかない。
けれど、私は丁寧にクリスタルトロフィーを元に戻す。風の噂…というか、ヤツが喋っているのを聞いたところによると、ヤツの新人賞と書かれたクリスタルトロフィーは、ホコリを被っているらしい。トロフィーもかわいそうだ。私に獲得されていれば、このトロフィーのようにピッカピカに保管してあげるのに。なんなら、そろそろこのトロフィーにケースを買ってあげようかと悩んでいるくらいだ。
…なぜ、こんなにも不愉快な思いをしながらも丁寧に扱うか?
それは私が臥薪嘗胆という言葉を知っているからだ。
意味は将来の成功のために、悔しい気持ちを忘れずに、敢えて自分を追い込むみたいなことわざだ。
由来は中国の春秋戦国時代に遡る。当時、呉と越という国があったが、呉の王が越の国に倒されてしまい、呉の
王子がその悔しさを忘れないように薪の上で寝て、越の王を倒した。そしたら、今度は越の王が苦い肝を舐めて、復讐を忘れずに呉の王子を倒したという歴史的事実を四字でまとめたものだ。
だから、私も悔しさを忘れずにトロフィーが目に入る場所に置いている。
もともとはこんな言葉、眼中に無かった。だって、そもそも論で負けているからだ。敗者の理論なんて、勝者には必要ない。なんなら、こんな言葉を意識している自分すら嫌になる。
もちろん、私は学生時代に学力がトップだったわけではない。中学の時はほぼトップだったが、高校では上位、行った大学も日本で一番頭がいい東大でもない。
ただ、私はトップを取りに行ったら、トップを取るのだ。
だから、新人賞と言うトップを狙ったにも関わらず外したのが、ショックで2年過ぎても忘れられない。
自分ルールだと罵りたければ罵ればいい。勝てそうなルールだけで、戦って勝った気分になるとかダサいとか、それで、負けるとか超ダサいとか言われても、別に気にしない。だって、私はダサいんだから。
「あぁ、最悪」
今日は天気がとてもいいのに、こんなにも気分が優れないのは全部、神崎湊、ヤツのせいだ。
壇上の上で、東社長から「ヤツ」が貰おうとしているトロフィーに、私は席から手を伸ばした。すると、座っているはずなのにトロフィーに近づいてゆき、ヤツと社長が怪訝な顔で私を見ている。
「でも、私の物だっ!!!」
私が瞬きをすると、オレンジ色の光に包まれていたはずなのに、白い光、もとい普通の発光色というか朝日に代わっていた。
ピピピピピピ・・・・・・・・・・・・ッ
私は鳴り出した目覚ましのアラームを消す。
「もっと早く鳴ってよ」
私は設定した5時50分に鳴った目覚まし時計に無理な文句を言う。でも、あの日から2年以上経っているのに、まるで昨日のことのように鮮明に思い出してしまい、とてもブルーになる。1年目の年末年始は、本当は実家に帰るつもりだったけれど、ショック過ぎて親とも連絡を取らずに、家に引きこもっていて、大晦日に心配で様子を見に来た母に発見されて、渋々実家に帰った。おかげで、正月太りもせずに体重が2キロも減った。
「ふんっ」
私はクリスタルでできたトロフィーを見る。
そのトロフィーは私の物。
もちろん新人賞のトロフィーじゃない。
今見ていた夢が過去の再現VTRじゃなくて、あくまでも夢で、本当は新人賞のトロフィーが事実とかだったとか私の認識違いを祈るけれど、やっぱり新人賞のトロフィーじゃない。でも時々、朝に目が覚めた時に、誰かがタイムリープでもして、過去改ざんが行われたとか、実は誰かに催眠術をかけられていたけれど、目を覚ました時にすべてを思い出した、とかでこの事実が変わっていればいいのにとガチで思っている。
覆水盆に返らず、なんてことわざあるけれど、「そういうのいいから、知らんからっ!! はよっ、戻してっ!!」って言いたくなる。それも心の底から思うのは私だけだろうか。
トロフィーを触る。
新人賞以下のくせして、肌触りはとてもよくて一度触るとしばらく触っていたくなる。
刻まれているのは「2020年 新人特別賞 峰村真凛」
「敗者のトロフィーよね・・・」
2年前、新人賞をヤツが取り、絶望して「私なんかゴミだ」とか思いながら、放心状態になっていると、山田さんに呼ばれてるぞと肩を叩かれた。どうやら東社長は話を続けて、僅差で悩んだ社員がいるため、新たに新人特別賞というのを創設して、それが私だったらしい。登壇して隣にいた「ヤツ」が「おめでとう。真凛のおかげだよ」と笑顔で言ったのが鮮明に覚えている。それに対して、いつものように神対応をしたのか、塩対応をしたのか、残念ながらその後のことはほとんど覚えていない。
だって、せっかく用意してもらった賞とはいえ、私にとっては、その賞はブービー賞と何ら変わらない。私は「勝者」か「敗者」ということを人一倍気にする。だから、負けた人の中から、選ばれたに過ぎないその賞は「お前は敗者だ」と言われたのと同じだ。
見ているだけで不愉快な気持ちになり、ヤツの家に似たような形をして、同時期に作られた兄弟のようなトロフィーがおそろいであると思うと気持ち悪さまで覚える。それも、ヤツは私にトロフィーをどうしたか聞いてきて、飾っていると伝えると「峰村さん、まだ飾ってるの? じゃあ、俺も飾っとこうっと」なんて、マウントの取り方をしてくるのだ。屈辱でしかない。
けれど、私は丁寧にクリスタルトロフィーを元に戻す。風の噂…というか、ヤツが喋っているのを聞いたところによると、ヤツの新人賞と書かれたクリスタルトロフィーは、ホコリを被っているらしい。トロフィーもかわいそうだ。私に獲得されていれば、このトロフィーのようにピッカピカに保管してあげるのに。なんなら、そろそろこのトロフィーにケースを買ってあげようかと悩んでいるくらいだ。
…なぜ、こんなにも不愉快な思いをしながらも丁寧に扱うか?
それは私が臥薪嘗胆という言葉を知っているからだ。
意味は将来の成功のために、悔しい気持ちを忘れずに、敢えて自分を追い込むみたいなことわざだ。
由来は中国の春秋戦国時代に遡る。当時、呉と越という国があったが、呉の王が越の国に倒されてしまい、呉の
王子がその悔しさを忘れないように薪の上で寝て、越の王を倒した。そしたら、今度は越の王が苦い肝を舐めて、復讐を忘れずに呉の王子を倒したという歴史的事実を四字でまとめたものだ。
だから、私も悔しさを忘れずにトロフィーが目に入る場所に置いている。
もともとはこんな言葉、眼中に無かった。だって、そもそも論で負けているからだ。敗者の理論なんて、勝者には必要ない。なんなら、こんな言葉を意識している自分すら嫌になる。
もちろん、私は学生時代に学力がトップだったわけではない。中学の時はほぼトップだったが、高校では上位、行った大学も日本で一番頭がいい東大でもない。
ただ、私はトップを取りに行ったら、トップを取るのだ。
だから、新人賞と言うトップを狙ったにも関わらず外したのが、ショックで2年過ぎても忘れられない。
自分ルールだと罵りたければ罵ればいい。勝てそうなルールだけで、戦って勝った気分になるとかダサいとか、それで、負けるとか超ダサいとか言われても、別に気にしない。だって、私はダサいんだから。
「あぁ、最悪」
今日は天気がとてもいいのに、こんなにも気分が優れないのは全部、神崎湊、ヤツのせいだ。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる