私には何もありませんよ? 影の薄い末っ子王女は王の遺言書に名前が無い。何もかも失った私は―――

西東友一

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2章

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 ジャスティンに呼び止められたロゼッタは出入り口で足を止めるが、ふり返らない。

「なぁ、ロゼッタ様。なぜ、あんたは一人なんだい?」

 布袋を被されていて見えはしなかったけれど、足音とジャスティンの嫌な臭いが開けて貰った布袋の隙間からしたから近づいてきたのが分かった。

「私は一人で彼女を運べる。何か問題があるか?」

「いえね、皆さん来るときは複数でいらっしゃいますし、何なら腹パンの一つや二つして、気絶させて連れて行くので、ロゼッタ様のように、そんな丁寧に運ぶ方は見たことが無かったので・・・・・・」

 ジャスティンはロゼッタをじろじろと見ているのだろう。足音が私たちの周りを何度も回った。

「ふっ。わかっていないな、ジャスティン。お前は王族を誘拐するのは初めてだろう?」

「ええまぁ・・・・・・」

「そして、私との交渉は初めてだ」

「・・・・・・」

「いいか。俺は商品を丁寧に扱う。その結果、お客様から厚い信頼とお前に払う莫大な金が手に入るのだ。仕事が影響して、俺自身の持ち物も完璧でないと許さない。だから、俺は奴隷にしても王族を選んだのだ。とやかく言うようであれば、例え商品がどんなによかろうと、取引相手が三流であればこの話は無しだ。アーサー国王にも・・・・・・」

「あっ、いや。すいません」

 アーサー国王の名前を出されると、途端にジャスティンは疑惑の態度から慌てた態度に変わった。

「ですが・・・・・・」

 慌てたもののやはり、ジャスティンにはロゼッタを怪しんでいる様子だ。

「どうでしょう」

 ロビン先生がここに来て、なぜか軽やかな声でロゼッタに話しかけた。

「ロゼッタ様。こんな三流・・・・・・いえ、八流の人間など挟まずに私と直接取引をするのはどうでしょうか?」

 私を抱っこして微動だにせず直立していたロゼッタが、その言葉を聞いてわずかに反応した。ロビン先生もロビン先生だけれど、このロゼッタという男にも結局安く買い叩きたい浅はかさが見えた気がして少し幻滅した。

(そうよね・・・・・・)

 わずかに私を連れ去る男性が優秀な人であり、奴隷として扱われるのであっても、尽くしがいがある男性であることを期待したり、場合によっては何も失うものがない私は、反感を買おうとも自身が学んだ帝王学などを踏まえた助言をして、立場の改善を目指そうなんて、妄想をしていたけれど、人生というのはそんなに甘くない。ようやく目が覚めた。

 夜に目が覚めるなら、この悪夢からも覚めればいいのに。
 私は冷めた気持ちでロゼッタに身を預けて、大人しくしていた。
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