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2章

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 ―――わかるわよね、リチャード

 私は強い眼光でリチャードに訴えて、

「はいっ」

 笑顔で箱を受け取ろうとする。
 リチャードは何かもの言いたげそうだったけれど、私は譲る気は全くない。そうすれば、万が一にもリチャードが私を優先させようとしたとしても、私にも失礼だと考えるに違いない。アーサー国王は私たちを見ていないけれど、側近は見ているし、ここで不審なことをすれば、スパイだと難癖をつけられて殺されることだってある。

 兄弟姉妹の継承争いが一番怖い。

 それが、私が読んだ帝王学の一文だ。
 
「・・・では、お願いします」

 そう言って、リチャードは私が持つのを確認しながら、荷物をゆっくりと預けて、アーサー国王を追う。

(さようなら・・・・・・・・・私の・・・・・・・・・)

 重たい箱を持っているから全身力を引き締めているはずなのに、涙腺だけは緩んで前がよく見えなかった。


 ◇◇

「ふう・・・・・・」

 私はロビン先生の家の前に着き、一息ついた。
 重たい荷物を運んで疲れたのもある。
 でも、十六年の短くも長い人生を振り返えるには数日あっても足りない。ましてやこの瞬間になんて土台無理な話だ。

 ただ、これは私の人生の節目だ。
 この扉を開いて、過去を捨て、未来へと足を進める。
 なら、一時くらい気持ちの整理が必要だ。

 濃厚な王家としての記憶を徐々に消していく。
 臣民になるのであれば、今までしてきた帝王学は無意味・・・・・・いいえ、無意味というよりも障害になるかもしれない。

 郷に入っては郷に従え

 コンコンッ

 私は扉を叩く。

「・・・・・・」

 けれど、返事がない。
 今日伺うことは事前に手紙で伝えておいたつもりだったけれど、どうしたのだろうか。
 私はダメ元で扉の取っ手に手を掛けると、扉には鍵がかかっていなかった。

「先生・・・・・・? ロビン先生?」

 私は扉を少し開けて声を掛けてみる。

「・・・・・・いい話じゃないか」

「そうでしょ?」

 誰と話をしているのだろう?
 ロビン先生が知らない男性と話している声が聞こえたので、私は失礼ながらも扉を開けると、茶色のヒゲをたくさん生やした男性だった。

「あら、ララ様じゃないですか」

「ロビン先生」

 私たちは抱擁を交わした。
 ロビン先生の髪は白髪が増えていたけれど、昔と変わらない懐かしい香りがして、ほっとした。

「お久しぶりです、ロビン先生」

「あぁ・・・本当に大きくなって・・・・・・。それもフフっ。美しい女性になりましたね」

「そんな風に言ってくださるのは、ロビン先生くらいですよ」

「そうかしら? 貴女のことを好きだった男の子はたくさんいらっしゃいましたよ?」

 それは光栄なことではあるけれど、意中の相手とは何も無かった。

「これはこれは・・・・・・」

 私はロビン先生との久しぶりの再会を喜びあっていて、男が品定めでもするような目で私を見ていることに全く気付かなかった。
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