11 / 21
2章
11
しおりを挟む
―――わかるわよね、リチャード
私は強い眼光でリチャードに訴えて、
「はいっ」
笑顔で箱を受け取ろうとする。
リチャードは何かもの言いたげそうだったけれど、私は譲る気は全くない。そうすれば、万が一にもリチャードが私を優先させようとしたとしても、私にも失礼だと考えるに違いない。アーサー国王は私たちを見ていないけれど、側近は見ているし、ここで不審なことをすれば、スパイだと難癖をつけられて殺されることだってある。
兄弟姉妹の継承争いが一番怖い。
それが、私が読んだ帝王学の一文だ。
「・・・では、お願いします」
そう言って、リチャードは私が持つのを確認しながら、荷物をゆっくりと預けて、アーサー国王を追う。
(さようなら・・・・・・・・・私の・・・・・・・・・)
重たい箱を持っているから全身力を引き締めているはずなのに、涙腺だけは緩んで前がよく見えなかった。
◇◇
「ふう・・・・・・」
私はロビン先生の家の前に着き、一息ついた。
重たい荷物を運んで疲れたのもある。
でも、十六年の短くも長い人生を振り返えるには数日あっても足りない。ましてやこの瞬間になんて土台無理な話だ。
ただ、これは私の人生の節目だ。
この扉を開いて、過去を捨て、未来へと足を進める。
なら、一時くらい気持ちの整理が必要だ。
濃厚な王家としての記憶を徐々に消していく。
臣民になるのであれば、今までしてきた帝王学は無意味・・・・・・いいえ、無意味というよりも障害になるかもしれない。
郷に入っては郷に従え
コンコンッ
私は扉を叩く。
「・・・・・・」
けれど、返事がない。
今日伺うことは事前に手紙で伝えておいたつもりだったけれど、どうしたのだろうか。
私はダメ元で扉の取っ手に手を掛けると、扉には鍵がかかっていなかった。
「先生・・・・・・? ロビン先生?」
私は扉を少し開けて声を掛けてみる。
「・・・・・・いい話じゃないか」
「そうでしょ?」
誰と話をしているのだろう?
ロビン先生が知らない男性と話している声が聞こえたので、私は失礼ながらも扉を開けると、茶色のヒゲをたくさん生やした男性だった。
「あら、ララ様じゃないですか」
「ロビン先生」
私たちは抱擁を交わした。
ロビン先生の髪は白髪が増えていたけれど、昔と変わらない懐かしい香りがして、ほっとした。
「お久しぶりです、ロビン先生」
「あぁ・・・本当に大きくなって・・・・・・。それもフフっ。美しい女性になりましたね」
「そんな風に言ってくださるのは、ロビン先生くらいですよ」
「そうかしら? 貴女のことを好きだった男の子はたくさんいらっしゃいましたよ?」
それは光栄なことではあるけれど、意中の相手とは何も無かった。
「これはこれは・・・・・・」
私はロビン先生との久しぶりの再会を喜びあっていて、男が品定めでもするような目で私を見ていることに全く気付かなかった。
私は強い眼光でリチャードに訴えて、
「はいっ」
笑顔で箱を受け取ろうとする。
リチャードは何かもの言いたげそうだったけれど、私は譲る気は全くない。そうすれば、万が一にもリチャードが私を優先させようとしたとしても、私にも失礼だと考えるに違いない。アーサー国王は私たちを見ていないけれど、側近は見ているし、ここで不審なことをすれば、スパイだと難癖をつけられて殺されることだってある。
兄弟姉妹の継承争いが一番怖い。
それが、私が読んだ帝王学の一文だ。
「・・・では、お願いします」
そう言って、リチャードは私が持つのを確認しながら、荷物をゆっくりと預けて、アーサー国王を追う。
(さようなら・・・・・・・・・私の・・・・・・・・・)
重たい箱を持っているから全身力を引き締めているはずなのに、涙腺だけは緩んで前がよく見えなかった。
◇◇
「ふう・・・・・・」
私はロビン先生の家の前に着き、一息ついた。
重たい荷物を運んで疲れたのもある。
でも、十六年の短くも長い人生を振り返えるには数日あっても足りない。ましてやこの瞬間になんて土台無理な話だ。
ただ、これは私の人生の節目だ。
この扉を開いて、過去を捨て、未来へと足を進める。
なら、一時くらい気持ちの整理が必要だ。
濃厚な王家としての記憶を徐々に消していく。
臣民になるのであれば、今までしてきた帝王学は無意味・・・・・・いいえ、無意味というよりも障害になるかもしれない。
郷に入っては郷に従え
コンコンッ
私は扉を叩く。
「・・・・・・」
けれど、返事がない。
今日伺うことは事前に手紙で伝えておいたつもりだったけれど、どうしたのだろうか。
私はダメ元で扉の取っ手に手を掛けると、扉には鍵がかかっていなかった。
「先生・・・・・・? ロビン先生?」
私は扉を少し開けて声を掛けてみる。
「・・・・・・いい話じゃないか」
「そうでしょ?」
誰と話をしているのだろう?
ロビン先生が知らない男性と話している声が聞こえたので、私は失礼ながらも扉を開けると、茶色のヒゲをたくさん生やした男性だった。
「あら、ララ様じゃないですか」
「ロビン先生」
私たちは抱擁を交わした。
ロビン先生の髪は白髪が増えていたけれど、昔と変わらない懐かしい香りがして、ほっとした。
「お久しぶりです、ロビン先生」
「あぁ・・・本当に大きくなって・・・・・・。それもフフっ。美しい女性になりましたね」
「そんな風に言ってくださるのは、ロビン先生くらいですよ」
「そうかしら? 貴女のことを好きだった男の子はたくさんいらっしゃいましたよ?」
それは光栄なことではあるけれど、意中の相手とは何も無かった。
「これはこれは・・・・・・」
私はロビン先生との久しぶりの再会を喜びあっていて、男が品定めでもするような目で私を見ていることに全く気付かなかった。
26
お気に入りに追加
256
あなたにおすすめの小説
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
本当の聖女は私です〜偽物聖女の結婚式のどさくさに紛れて逃げようと思います〜
桜町琴音
恋愛
「見て、マーガレット様とアーサー王太子様よ」
歓声が上がる。
今日はこの国の聖女と王太子の結婚式だ。
私はどさくさに紛れてこの国から去る。
本当の聖女が私だということは誰も知らない。
元々、父と妹が始めたことだった。
私の祖母が聖女だった。その能力を一番受け継いだ私が時期聖女候補だった。
家のもの以外は知らなかった。
しかし、父が「身長もデカく、気の強そうな顔のお前より小さく、可憐なマーガレットの方が聖女に向いている。お前はマーガレットの後ろに隠れ、聖力を使う時その能力を使え。分かったな。」
「そういうことなの。よろしくね。私の為にしっかり働いてね。お姉様。」
私は教会の柱の影に隠れ、マーガレットがタンタンと床を踏んだら、私は聖力を使うという生活をしていた。
そして、マーガレットは戦で傷を負った皇太子の傷を癒やした。
マーガレットに惚れ込んだ王太子は求婚をし結ばれた。
現在、結婚パレードの最中だ。
この後、二人はお城で式を挙げる。
逃げるなら今だ。
※間違えて皇太子って書いていましたが王太子です。
すみません
私が王女だと婚約者は知らない ~平民の子供だと勘違いして妹を選んでももう遅い。私は公爵様に溺愛されます~
上下左右
恋愛
クレアの婚約者であるルインは、彼女の妹と不自然なほどに仲が良かった。
疑いを持ったクレアが彼の部屋を訪れると、二人の逢瀬の現場を目撃する。だが彼は「平民の血を引く貴様のことが嫌いだった!」と居直った上に、婚約の破棄を宣言する。
絶望するクレアに、救いの手を差し伸べたのは、ギルフォード公爵だった。彼はクレアを溺愛しており、不義理を働いたルインを許せないと報復を誓う。
一方のルインは、後に彼女が王族だと知る。妹を捨ててでも、なんとか復縁しようと縋るが、後悔してももう遅い。クレアはその要求を冷たく跳ねのけるのだった。
本物語は平民の子だと誤解されて婚約破棄された令嬢が、公爵に溺愛され、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である
今日、大好きな婚約者の心を奪われます 【完結済み】
皇 翼
恋愛
昔から、自分や自分の周りについての未来を視てしまう公爵令嬢である少女・ヴィオレッタ。
彼女はある日、ウィステリア王国の第一王子にして大好きな婚約者であるアシュレイが隣国の王女に恋に落ちるという未来を視てしまう。
その日から少女は変わることを決意した。将来、大好きな彼の邪魔をしてしまう位なら、潔く身を引ける女性になろうと。
なろうで投稿している方に話が追いついたら、投稿頻度は下がります。
プロローグはヴィオレッタ視点、act.1は三人称、act.2はアシュレイ視点、act.3はヴィオレッタ視点となります。
繋がりのある作品:「先読みの姫巫女ですが、力を失ったので職を辞したいと思います」
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/496593841/690369074
【完結】愛されない令嬢は全てを諦めた
ツカノ
恋愛
繰り返し夢を見る。それは男爵令嬢と真実の愛を見つけた婚約者に婚約破棄された挙げ句に処刑される夢。
夢を見る度に、婚約者との顔合わせの当日に巻き戻ってしまう。
令嬢が諦めの境地に至った時、いつもとは違う展開になったのだった。
三話完結予定。
【完結】27王女様の護衛は、私の彼だった。
華蓮
恋愛
ラビートは、アリエンスのことが好きで、結婚したら少しでも贅沢できるように出世いいしたかった。
王女の護衛になる事になり、出世できたことを喜んだ。
王女は、ラビートのことを気に入り、休みの日も呼び出すようになり、ラビートは、休みも王女の護衛になり、アリエンスといる時間が少なくなっていった。
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
婚約者は私を愛していると言いますが、別の女のところに足しげく通うので、私は本当の愛を探します
早乙女 純
恋愛
私の婚約者であるアルベルトは、私に愛しているといつも言いますが、私以外の女の元に足しげく通います。そんな男なんて信用出来るはずもないので婚約を破棄して、私は新しいヒトを探します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる