私には何もありませんよ? 影の薄い末っ子王女は王の遺言書に名前が無い。何もかも失った私は―――

西東友一

文字の大きさ
上 下
9 / 21
1章

しおりを挟む
「そんなにキョロキョロしないでよ、ララ」

 澄ましていて少し気に食わないと思いつつも、宰相としての凛々しいリチャードの声はかっこよくて好きだった。だけど、今のように優しく親し気な声のリチャードはもっと・・・・・・。

「そうは言っても、リチャードには将来があるんだから」

 私は周囲の警戒を怠らない。
 私はこれで王族ではなく臣民になろうとしているので、今まで築き上げたつもりでいる品位なんてものは、これからも維持する重要度は低くなったけれど、リチャードは違う。仮にも今は王族の私にフランクに話しているところを見つかれば、立場が危うい。

 だって、今は宰相という地位だけれど、国王がお父様からお兄様のアーサー国王に代わった。リチャードが優秀なのは知っているし、他に実力としての対抗馬はいないと思う。

 実力では。 

 私は帝王学を学んできたけれど、時には優れている者を相応の役職に就けるのではなく、利害関係が発生している貴族やその親族を役職に就けて、より関係を強固にすることもあると書いてあった。なので、流石に宰相の地位に実力にそぐわない人を就けることはないと思うけれど、情報通ではない私にはアーサー国王の交友関係の全ては把握できていないからわからない。

「大丈夫だよ。僕は」

 私の不安をくみ取ったのか、リチャードは柔らかい笑顔で微笑みながら優しく言ってくれた。その笑顔を見たら、少しだけ緊張で凝り固まった私の気持ちが柔らかくなった気がした。

 それから私たちはゆっくりと歩きながら、思い出に花を咲かせた。
 ゆっくりと歩いたのは、リチャードが重たい荷物を持っていたから・・・・・・違うわ。
 
(この時間が永遠なら・・・・・・)

 どちらが言った訳でもない。
 私たちは廊下で立ち止まった。

 そして、お互いを見つめ合う。
 リチャードの瞳に私は吸い込まれそうだったし、リチャードの瞳は私を求めている気がした。

「あっ」

 リチャードが持っていくれていた荷物が私に触れて、お互い我に返り、私は思わず視線を逸らす。

(わたし? それとも・・・・・・)

 荷物がぶつかるような距離ではなかった気がする。
 相手に歩みを進めたのはどちらだったのだろうと思いながら、ゆっくりとリチャードを見ると、リチャードは嬉しそうな顔をして笑っていた。

(私か・・・っ)

 そう思うと、顔や耳が熱くなるのが分かった。
 
(もし、荷物が無かったら・・・・・・)

 私はリチャードに抱き着いていたのだろうか。
 そうしたら、リチャードは・・・・・・・・・

 私を受け入れてくれたのだろうか?

 さっきのような事故ではなく、心と心が求め合う意味で、リチャードに・・・・・・
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

本当の聖女は私です〜偽物聖女の結婚式のどさくさに紛れて逃げようと思います〜

桜町琴音
恋愛
「見て、マーガレット様とアーサー王太子様よ」 歓声が上がる。 今日はこの国の聖女と王太子の結婚式だ。 私はどさくさに紛れてこの国から去る。 本当の聖女が私だということは誰も知らない。 元々、父と妹が始めたことだった。 私の祖母が聖女だった。その能力を一番受け継いだ私が時期聖女候補だった。 家のもの以外は知らなかった。 しかし、父が「身長もデカく、気の強そうな顔のお前より小さく、可憐なマーガレットの方が聖女に向いている。お前はマーガレットの後ろに隠れ、聖力を使う時その能力を使え。分かったな。」 「そういうことなの。よろしくね。私の為にしっかり働いてね。お姉様。」 私は教会の柱の影に隠れ、マーガレットがタンタンと床を踏んだら、私は聖力を使うという生活をしていた。 そして、マーガレットは戦で傷を負った皇太子の傷を癒やした。 マーガレットに惚れ込んだ王太子は求婚をし結ばれた。 現在、結婚パレードの最中だ。 この後、二人はお城で式を挙げる。 逃げるなら今だ。 ※間違えて皇太子って書いていましたが王太子です。 すみません

私が王女だと婚約者は知らない ~平民の子供だと勘違いして妹を選んでももう遅い。私は公爵様に溺愛されます~

上下左右
恋愛
 クレアの婚約者であるルインは、彼女の妹と不自然なほどに仲が良かった。  疑いを持ったクレアが彼の部屋を訪れると、二人の逢瀬の現場を目撃する。だが彼は「平民の血を引く貴様のことが嫌いだった!」と居直った上に、婚約の破棄を宣言する。  絶望するクレアに、救いの手を差し伸べたのは、ギルフォード公爵だった。彼はクレアを溺愛しており、不義理を働いたルインを許せないと報復を誓う。  一方のルインは、後に彼女が王族だと知る。妹を捨ててでも、なんとか復縁しようと縋るが、後悔してももう遅い。クレアはその要求を冷たく跳ねのけるのだった。  本物語は平民の子だと誤解されて婚約破棄された令嬢が、公爵に溺愛され、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

子供の言い分 大人の領分

ひおむし
恋愛
第二王子は、苛立っていた。身分を超えて絆を結んだ、元平民の子爵令嬢を苛む悪辣な婚約者に。気持ちを同じくする宰相子息、騎士団長子息は、ともに正義の鉄槌をくださんと立ち上がろうーーーとしたら、何故か即効で生徒指導室に放り込まれた。 「はーい、全員揃ってるかなー」 王道婚約破棄VSダウナー系教師。 いつも学園モノの婚約破棄見るたびに『いや教師何やってんの、学校なのに』と思っていた作者の鬱憤をつめた作品です。

(完結)王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる

青空一夏
恋愛
父親が亡くなってから実の母と妹に虐げられてきた主人公。冬の雪が舞い落ちる日に、仕事を探してこいと言われて当てもなく歩き回るうちに路上に倒れてしまう。そこから、はじめる意外な展開。 ハッピーエンド。ショートショートなので、あまり入り組んでいない設定です。ご都合主義。 Hotランキング21位(10/28 60,362pt  12:18時点)

処理中です...