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1章

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「そんなにキョロキョロしないでよ、ララ」

 澄ましていて少し気に食わないと思いつつも、宰相としての凛々しいリチャードの声はかっこよくて好きだった。だけど、今のように優しく親し気な声のリチャードはもっと・・・・・・。

「そうは言っても、リチャードには将来があるんだから」

 私は周囲の警戒を怠らない。
 私はこれで王族ではなく臣民になろうとしているので、今まで築き上げたつもりでいる品位なんてものは、これからも維持する重要度は低くなったけれど、リチャードは違う。仮にも今は王族の私にフランクに話しているところを見つかれば、立場が危うい。

 だって、今は宰相という地位だけれど、国王がお父様からお兄様のアーサー国王に代わった。リチャードが優秀なのは知っているし、他に実力としての対抗馬はいないと思う。

 実力では。 

 私は帝王学を学んできたけれど、時には優れている者を相応の役職に就けるのではなく、利害関係が発生している貴族やその親族を役職に就けて、より関係を強固にすることもあると書いてあった。なので、流石に宰相の地位に実力にそぐわない人を就けることはないと思うけれど、情報通ではない私にはアーサー国王の交友関係の全ては把握できていないからわからない。

「大丈夫だよ。僕は」

 私の不安をくみ取ったのか、リチャードは柔らかい笑顔で微笑みながら優しく言ってくれた。その笑顔を見たら、少しだけ緊張で凝り固まった私の気持ちが柔らかくなった気がした。

 それから私たちはゆっくりと歩きながら、思い出に花を咲かせた。
 ゆっくりと歩いたのは、リチャードが重たい荷物を持っていたから・・・・・・違うわ。
 
(この時間が永遠なら・・・・・・)

 どちらが言った訳でもない。
 私たちは廊下で立ち止まった。

 そして、お互いを見つめ合う。
 リチャードの瞳に私は吸い込まれそうだったし、リチャードの瞳は私を求めている気がした。

「あっ」

 リチャードが持っていくれていた荷物が私に触れて、お互い我に返り、私は思わず視線を逸らす。

(わたし? それとも・・・・・・)

 荷物がぶつかるような距離ではなかった気がする。
 相手に歩みを進めたのはどちらだったのだろうと思いながら、ゆっくりとリチャードを見ると、リチャードは嬉しそうな顔をして笑っていた。

(私か・・・っ)

 そう思うと、顔や耳が熱くなるのが分かった。
 
(もし、荷物が無かったら・・・・・・)

 私はリチャードに抱き着いていたのだろうか。
 そうしたら、リチャードは・・・・・・・・・

 私を受け入れてくれたのだろうか?

 さっきのような事故ではなく、心と心が求め合う意味で、リチャードに・・・・・・
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