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1章
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「荷物、お運びしますよ?」
再び私の手から荷物の重さが消えて行こうとする。リチャードの方が身長が高い分、私が持とうと思っていても力が入らない高さにされそうになってしまう。でも、これ以上、迷惑をかけたくないし、宰相であるリチャードはアーサー国王のモノだ。使用人にもお願いできない立場の私が、この国のブレーンでもあるリチャードに肉体労働をさせるわけにはいかない。なので、私は荷物を自分の方へと引っ張る。
「大丈夫です。お気遣いなく」
普通にいったつもりだった。
けれど、リチャードは寂しそうな悲しい顔をした。流石に過剰な反応過ぎたので、どうしてリチャードがそんな表情をしているのだろうと、考えていると、手の力も弱まり、それがわかったリチャードは荷物を抱え、
「これで・・・・・・最後ですから。お願いします」
と言った。
それを聞いて私はようやくピンときた。遺言書について慰めにきたリチャードに対して私は強い言葉で「これ以上関わらないで」と言ったのだった。普段、私は感情をあまり表に出してこなかったから、感情の出し方が下手だったせいで、かなり攻撃的な言い方で、無責任なことを言ってしまった。
そのせいで、どうやらリチャードと私の間にあった溝がさらに広くなった気がした。
(仕方ない・・・・・・わよね)
リチャードに対して、今さっき新たに自分に湧いてきた感情。でも、どうやらその感情に任せて一歩踏み出す勇気があったとしても、目の前にいるリチャードとの距離は進められないようだ。人との繋がりは一方が歩み寄ろうとしても、相手があること。
無責任に放った言葉であっても、大切な相手がそれを真摯に受け止めてしまった今。私にはそれを訂正する無粋さは無く、訂正したところで立場として私とリチャードの関係も今日までで、未来はないと思えば、はしたないこともできなかった。
「じゃあ・・・・・・リチャード。もう私って権力ないんだけれど、ひとつお願いしていいかしら? って私って元から権力ないか。あはははっ…・・・」
自分が傷つかないように保険をかけながら言ったせいか、乾いた声でしか笑えなかった。交渉術で学んだことの下の下の行為だと分かっていたけれど、世渡りが下手で、コミュニケーションが苦手で、良い人間関係を誰とも築いてこれなかった私にはこれが精いっぱいだった。
「なんなりと」
リチャードの返事は早かった。
困らせてしまうから悩むと思っていたので、次の言葉を言う準備ができていなかったけれど、私は最後のお願いくらい成長した自分をリチャードに見せたいと思いながら、
「荷物を運ぶ間だけでいいの。昔の頃のように気さくに話し合いたいの」
と告げた。
再び私の手から荷物の重さが消えて行こうとする。リチャードの方が身長が高い分、私が持とうと思っていても力が入らない高さにされそうになってしまう。でも、これ以上、迷惑をかけたくないし、宰相であるリチャードはアーサー国王のモノだ。使用人にもお願いできない立場の私が、この国のブレーンでもあるリチャードに肉体労働をさせるわけにはいかない。なので、私は荷物を自分の方へと引っ張る。
「大丈夫です。お気遣いなく」
普通にいったつもりだった。
けれど、リチャードは寂しそうな悲しい顔をした。流石に過剰な反応過ぎたので、どうしてリチャードがそんな表情をしているのだろうと、考えていると、手の力も弱まり、それがわかったリチャードは荷物を抱え、
「これで・・・・・・最後ですから。お願いします」
と言った。
それを聞いて私はようやくピンときた。遺言書について慰めにきたリチャードに対して私は強い言葉で「これ以上関わらないで」と言ったのだった。普段、私は感情をあまり表に出してこなかったから、感情の出し方が下手だったせいで、かなり攻撃的な言い方で、無責任なことを言ってしまった。
そのせいで、どうやらリチャードと私の間にあった溝がさらに広くなった気がした。
(仕方ない・・・・・・わよね)
リチャードに対して、今さっき新たに自分に湧いてきた感情。でも、どうやらその感情に任せて一歩踏み出す勇気があったとしても、目の前にいるリチャードとの距離は進められないようだ。人との繋がりは一方が歩み寄ろうとしても、相手があること。
無責任に放った言葉であっても、大切な相手がそれを真摯に受け止めてしまった今。私にはそれを訂正する無粋さは無く、訂正したところで立場として私とリチャードの関係も今日までで、未来はないと思えば、はしたないこともできなかった。
「じゃあ・・・・・・リチャード。もう私って権力ないんだけれど、ひとつお願いしていいかしら? って私って元から権力ないか。あはははっ…・・・」
自分が傷つかないように保険をかけながら言ったせいか、乾いた声でしか笑えなかった。交渉術で学んだことの下の下の行為だと分かっていたけれど、世渡りが下手で、コミュニケーションが苦手で、良い人間関係を誰とも築いてこれなかった私にはこれが精いっぱいだった。
「なんなりと」
リチャードの返事は早かった。
困らせてしまうから悩むと思っていたので、次の言葉を言う準備ができていなかったけれど、私は最後のお願いくらい成長した自分をリチャードに見せたいと思いながら、
「荷物を運ぶ間だけでいいの。昔の頃のように気さくに話し合いたいの」
と告げた。
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