上 下
2 / 21
1章

しおりを挟む
「・・・第十一王女ミネルヴァには、残りの資産とウェストンの別荘地を与える・・・・・・以上」

 宰相リチャードがお父様のラファエル国王の遺言書を読み終えると、お兄様やお姉様たちの緊張の糸が解けた気がした。

「ちょっと、それだけ!?」

 ミネルヴァお姉様がリチャードに食って掛かる。

「ええ。ここに」

 リチャードはミネルヴァお姉様を恐れることなく、毅然とした態度で遺言書を見せる。

「そんなの無効よっ。お父様はあんなにもわたくしを愛してくださいましたわっ。きっと、新しい物を書くつもりだったのよ」

「いいえ、そういったことはラファエル国王は仰っておりませんでした。これは国王の意志です。従ってください」

「はぁ!? 貴方がごときがお父様の意志を語るなんて・・・・・・いくら、お父様の右腕だともてはやされても、それはあくまでも臣下としてよ? 臣民ごときが、王族のことに口出しするんじゃないわっ」

「まぁまぁ、止さないか」

「アーサーお兄様はたくさんお父様から相続できたからいいですよっ! でも、私なんかたったこれだけなんですよっ!?」

 ミネルヴァお姉様を筆頭に緊張が解けたお兄様とお姉様たちは感情を表に出し始めた。お父様からの手厚い相続があったお兄様やお姉様は目元が笑っていたし、不服だと感じていたお兄様やお姉様は眉間にしわを作っていた。特に年功序列が逆転している方々は露骨だった。

 そんな中で感情を表に出さなかったのは二人。
 そのうちの一人が―――

「ミネルヴァ。私は王だ。発言は慎みたまえ」

 アーサーお兄様・・・・・・いいえ、アーサー新国王は笑っていた。
 笑っているからと言って愉悦で笑っているわけでもなく、その笑顔は仮面のような笑顔で心の底は全く見えなかった。

 その威厳に再び場の空気が引き締まり、まるでアーサー国王の絶対的な力に感情を吸い取られたかのようにみんなの表情から感情が消えた。

「みんなも別にいいんだよ? 「前」国王の父上の判断が気に食わないのであれば、「現」国王である私が再度配置と資産を分配しよう」 

 誰も意見を言わず下を向いていて、周りを見ていた私とアーサー国王で目が合うけれど、アーサー国王は何も見なかったようにすぐに目線を他の方へ移し、宰相のリチャードを見た。

「それもまた国王の意志だろ? リチャード」

 アーサー国王が言った「国王の意志」の「国王」がお父様を指しているのか、アーサー国王ご自身を指しているのか私にはわからなかったけれど、その言葉を聞いて、お父様が本当に元国王になってしまった気がした。

「はっ。もちろんでございます」

 リチャードが礼節を持って答えると、アーサー国王は笑った。その笑顔は本物だと私は感じた。

「あっ、そうだ。兄弟同士の争いは「前」国王も望んでいないだろうし、国の秩序が乱れるからなぁ。やはり、検量や富は一極集中した方がいいかもなぁ。どうだろ、アレキサンダー」

「えっ? あっ、それは・・・・・・」

 軍で功績をあげて、宰相のリチャードに噛みつく勢いがあったアレキサンダーお兄様の威勢は無くなり、たどたどしくなる。

「はははっ。冗談だよ。じょーだん」

 そんなアレキサンダーお兄様を見て、乾いた笑いをするアーサー国王。

「じゃあ、とりあえず現状のままで異論はないね? ミネルヴァ」

「はっ、はいっ!」

「皆も異論があれば聞くけれど?」

 もちろん誰も答えなかった。

「よし、じゃあ終わりだ。戴冠式には招待状を出すから皆来てくれ」

 誰も背筋を伸ばしたまま動かず、アーサー国王はそれを嬉しそうに眺めて、ゆっくり立ち上がると、私を含めみんなが立ち上って直立し、扉から出て行くアーサー国王を見送り、一礼した。

 これからの身の振り方を兄弟姉妹同士で話し合うみんな。
 でも、お兄様も、いつもイジメてくるお姉様たちも私には誰も話しかけてきませんでした。
 だって・・・・・・



 私は唯一遺言書に名のない子。

 

 
 存在感も影も薄かったせいなのか。
 ショック過ぎて、存在と共に感情も消えてしまいました。
 
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

私が王女だと婚約者は知らない ~平民の子供だと勘違いして妹を選んでももう遅い。私は公爵様に溺愛されます~

上下左右
恋愛
 クレアの婚約者であるルインは、彼女の妹と不自然なほどに仲が良かった。  疑いを持ったクレアが彼の部屋を訪れると、二人の逢瀬の現場を目撃する。だが彼は「平民の血を引く貴様のことが嫌いだった!」と居直った上に、婚約の破棄を宣言する。  絶望するクレアに、救いの手を差し伸べたのは、ギルフォード公爵だった。彼はクレアを溺愛しており、不義理を働いたルインを許せないと報復を誓う。  一方のルインは、後に彼女が王族だと知る。妹を捨ててでも、なんとか復縁しようと縋るが、後悔してももう遅い。クレアはその要求を冷たく跳ねのけるのだった。  本物語は平民の子だと誤解されて婚約破棄された令嬢が、公爵に溺愛され、幸せになるまでのハッピーエンドの物語である

本当の聖女は私です〜偽物聖女の結婚式のどさくさに紛れて逃げようと思います〜

桜町琴音
恋愛
「見て、マーガレット様とアーサー王太子様よ」 歓声が上がる。 今日はこの国の聖女と王太子の結婚式だ。 私はどさくさに紛れてこの国から去る。 本当の聖女が私だということは誰も知らない。 元々、父と妹が始めたことだった。 私の祖母が聖女だった。その能力を一番受け継いだ私が時期聖女候補だった。 家のもの以外は知らなかった。 しかし、父が「身長もデカく、気の強そうな顔のお前より小さく、可憐なマーガレットの方が聖女に向いている。お前はマーガレットの後ろに隠れ、聖力を使う時その能力を使え。分かったな。」 「そういうことなの。よろしくね。私の為にしっかり働いてね。お姉様。」 私は教会の柱の影に隠れ、マーガレットがタンタンと床を踏んだら、私は聖力を使うという生活をしていた。 そして、マーガレットは戦で傷を負った皇太子の傷を癒やした。 マーガレットに惚れ込んだ王太子は求婚をし結ばれた。 現在、結婚パレードの最中だ。 この後、二人はお城で式を挙げる。 逃げるなら今だ。 ※間違えて皇太子って書いていましたが王太子です。 すみません

今日、大好きな婚約者の心を奪われます 【完結済み】

皇 翼
恋愛
昔から、自分や自分の周りについての未来を視てしまう公爵令嬢である少女・ヴィオレッタ。 彼女はある日、ウィステリア王国の第一王子にして大好きな婚約者であるアシュレイが隣国の王女に恋に落ちるという未来を視てしまう。 その日から少女は変わることを決意した。将来、大好きな彼の邪魔をしてしまう位なら、潔く身を引ける女性になろうと。 なろうで投稿している方に話が追いついたら、投稿頻度は下がります。 プロローグはヴィオレッタ視点、act.1は三人称、act.2はアシュレイ視点、act.3はヴィオレッタ視点となります。 繋がりのある作品:「先読みの姫巫女ですが、力を失ったので職を辞したいと思います」 URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/496593841/690369074

【完結】愛されない令嬢は全てを諦めた

ツカノ
恋愛
繰り返し夢を見る。それは男爵令嬢と真実の愛を見つけた婚約者に婚約破棄された挙げ句に処刑される夢。 夢を見る度に、婚約者との顔合わせの当日に巻き戻ってしまう。 令嬢が諦めの境地に至った時、いつもとは違う展開になったのだった。 三話完結予定。

お久しぶりですね、元婚約者様。わたしを捨てて幸せになれましたか?

柚木ゆず
恋愛
 こんなことがあるなんて、予想外でした。  わたしが伯爵令嬢ミント・ロヴィックという名前と立場を失う原因となった、8年前の婚約破棄。当時わたしを裏切った人と、偶然出会いました。  元婚約者のレオナルド様。貴方様は『お前がいると不幸になる』と言い出し、理不尽な形でわたしとの関係を絶ちましたよね?  あのあと。貴方様はわたしを捨てて、幸せになれましたか?

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

最後に笑うのは

りのりん
恋愛
『だって、姉妹でしょ お姉様〰︎』 ずるい 私の方が可愛いでしょ 性格も良いし 高貴だし お姉様に負ける所なんて ありませんわ 『妹?私に妹なんていませんよ』

処理中です...