私には何もありませんよ? 影の薄い末っ子王女は王の遺言書に名前が無い。何もかも失った私は―――

西東友一

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1章

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「・・・第十一王女ミネルヴァには、残りの資産とウェストンの別荘地を与える・・・・・・以上」

 宰相リチャードがお父様のラファエル国王の遺言書を読み終えると、お兄様やお姉様たちの緊張の糸が解けた気がした。

「ちょっと、それだけ!?」

 ミネルヴァお姉様がリチャードに食って掛かる。

「ええ。ここに」

 リチャードはミネルヴァお姉様を恐れることなく、毅然とした態度で遺言書を見せる。

「そんなの無効よっ。お父様はあんなにもわたくしを愛してくださいましたわっ。きっと、新しい物を書くつもりだったのよ」

「いいえ、そういったことはラファエル国王は仰っておりませんでした。これは国王の意志です。従ってください」

「はぁ!? 貴方がごときがお父様の意志を語るなんて・・・・・・いくら、お父様の右腕だともてはやされても、それはあくまでも臣下としてよ? 臣民ごときが、王族のことに口出しするんじゃないわっ」

「まぁまぁ、止さないか」

「アーサーお兄様はたくさんお父様から相続できたからいいですよっ! でも、私なんかたったこれだけなんですよっ!?」

 ミネルヴァお姉様を筆頭に緊張が解けたお兄様とお姉様たちは感情を表に出し始めた。お父様からの手厚い相続があったお兄様やお姉様は目元が笑っていたし、不服だと感じていたお兄様やお姉様は眉間にしわを作っていた。特に年功序列が逆転している方々は露骨だった。

 そんな中で感情を表に出さなかったのは二人。
 そのうちの一人が―――

「ミネルヴァ。私は王だ。発言は慎みたまえ」

 アーサーお兄様・・・・・・いいえ、アーサー新国王は笑っていた。
 笑っているからと言って愉悦で笑っているわけでもなく、その笑顔は仮面のような笑顔で心の底は全く見えなかった。

 その威厳に再び場の空気が引き締まり、まるでアーサー国王の絶対的な力に感情を吸い取られたかのようにみんなの表情から感情が消えた。

「みんなも別にいいんだよ? 「前」国王の父上の判断が気に食わないのであれば、「現」国王である私が再度配置と資産を分配しよう」 

 誰も意見を言わず下を向いていて、周りを見ていた私とアーサー国王で目が合うけれど、アーサー国王は何も見なかったようにすぐに目線を他の方へ移し、宰相のリチャードを見た。

「それもまた国王の意志だろ? リチャード」

 アーサー国王が言った「国王の意志」の「国王」がお父様を指しているのか、アーサー国王ご自身を指しているのか私にはわからなかったけれど、その言葉を聞いて、お父様が本当に元国王になってしまった気がした。

「はっ。もちろんでございます」

 リチャードが礼節を持って答えると、アーサー国王は笑った。その笑顔は本物だと私は感じた。

「あっ、そうだ。兄弟同士の争いは「前」国王も望んでいないだろうし、国の秩序が乱れるからなぁ。やはり、検量や富は一極集中した方がいいかもなぁ。どうだろ、アレキサンダー」

「えっ? あっ、それは・・・・・・」

 軍で功績をあげて、宰相のリチャードに噛みつく勢いがあったアレキサンダーお兄様の威勢は無くなり、たどたどしくなる。

「はははっ。冗談だよ。じょーだん」

 そんなアレキサンダーお兄様を見て、乾いた笑いをするアーサー国王。

「じゃあ、とりあえず現状のままで異論はないね? ミネルヴァ」

「はっ、はいっ!」

「皆も異論があれば聞くけれど?」

 もちろん誰も答えなかった。

「よし、じゃあ終わりだ。戴冠式には招待状を出すから皆来てくれ」

 誰も背筋を伸ばしたまま動かず、アーサー国王はそれを嬉しそうに眺めて、ゆっくり立ち上がると、私を含めみんなが立ち上って直立し、扉から出て行くアーサー国王を見送り、一礼した。

 これからの身の振り方を兄弟姉妹同士で話し合うみんな。
 でも、お兄様も、いつもイジメてくるお姉様たちも私には誰も話しかけてきませんでした。
 だって・・・・・・



 私は唯一遺言書に名のない子。

 

 
 存在感も影も薄かったせいなのか。
 ショック過ぎて、存在と共に感情も消えてしまいました。
 
 
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