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 栄光?
 あれのどこが―――

「ひどい話ですね」

 話相手が王子であり、なんとか体裁を保とうとするけれど、失われた時間と消したい過去、そして、ロベルトみたいなひどい人と婚約者だという経歴。それもさっき解放されたばかりの私は冷静な淑女の態度を取れない。

「あぁ、国宝、三種の神器を盗むなんてひどい話だろ?」

 私の皮肉はシャルル王子には通じなかったらしい。
 もしかしたら、シャルル王子は人が良くそういうのに無頓着なのかもしれない。けれど、国を治める王家がそれじゃあ―――

(国が乱れるのも必然かもしれませんね・・・)

「王家は・・・・・・ああいった人の心を操る物を使ってきたのですか?」

 権力によって私たち貴族はもちろん、平民や奴隷たちは自分たちは思うようにできないことや、考えることも禁止され、心に思ったことを曲げなければならない。それはその王権によって守られている部分もあるからで、それでも心を貫きたいなら、私たちには亡命や革命を起こす選択肢が用意されている。でも、力は選択肢も納得もなく無理やり従わされてしまう。

 そんなの王家であっても許したくない。
 それで強くて他に幸せを与えてくれる国家でも私は嬉しくない。

「いやいや、違うよ。あれは、そんなものじゃないよ」

 シャルル王子は手を振りながら否定し、驚いた顔をしていた。

「あれはね、神様からご先祖さまから授かった物で、国民みんなにちっちゃな幸せを分散する神器だよ。そんな力は・・・・・・うーん、あっでも、古い書物でそんなことを書いてあったような・・・・・・」

 大事な物の管理もそうだけれど、効果などが記録されているにも関わらず、それを把握していないずさんな状況が、私を苛立たせたし、そうであれば、この国で暴動が起きたりするのも必然だと思った。

(この御方は・・・ダメだ。やっぱり、お父様か誰かの協力を得ないと・・・)

「ぐすんっ」

 えっ。
 シャルル王子は蒼い瞳をうるうるさせて涙を流していた。

「なんで、みんな盗んだり、争ったりするんだろう」

 歳は私と同じくらい。
 それなのに子どもでも言わないような純粋なこと言うシャルル王子。
 平和ボケしていると言えばそれまでだけど、その純粋さが羨ましくて・・・眩しかった。

「全てを持っている御方には分からないんですよ」

 世界が不幸に包まれていたのに、呪いのネックレスの効果で全てを手に入れた気になっていた私。でも、私は何も持ってなんていなかった。

「それは違うと思うよ。だって・・・・・・」

 シャルル王子はニコッと笑った。

「キミはあんまり持っていなそうだけど、そういうのを悲しめる素敵な女性だ」

 ハッキリ言って、王子様と言っても何様って感じだ。
 私とは初対面で私のことなんか何も知らないし、間抜けだし、無神経だし。

 でも、素直な人のその言葉は、普通に嬉しかった。
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