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 ―――そうだ、私。あいつに無理やりネックレスを

 目が覚めると、私は廊下で横たわっていた。
 どうやら、あのまま妹のジャーネットに置き去りにされてしまったようだ。
 まだ、暗いから深夜なようだ。

「急がなきゃ・・・」

 私は全てを思い出した。
 無理やりロベルトにネックレスを着けさせられて、自分の心が無くなり、妄信的にロベルトを好きになっていたのだ。

「・・・気持ち悪い」

 吐き気がしたが、今はそれどころじゃない。
 まずはジャーネットを・・・

「大丈夫ですか」

 暗闇が揺れて、暗闇から声がした。
 いや、違う。
 黒いマントだ。

 黒い制服に包まれて、目と鼻を隠す黒いカラスの仮面を被った男性がいた。彼が私に近づき跪くと、バラの香りがした。

「よろしければ、このハンカチをお使いください」

 そう言って、彼は白い絹のハンカチを私に渡した。

「ありがとう、ございます」

 私は彼から貰ったハンカチで口を拭いた。
 近づいた彼は先ほどよりもよく見えて、私と同じ金色の髪はサラサラしていて、肌もきめが細かい白い肌だった。
 唇は色っぽい赤で・・・・・・

「・・・・・・」

 私を見つめる澄んだ蒼い瞳はとても綺麗だった。
 とはいえ、目が合っても見つめられているのはなんだかとても恥ずかしい。

「・・・どうかされました?」

「・・・あぁ、すまない」

 うっとりとした蒼い瞳が真剣な眼差しへと変わった。

「クロエお嬢様はどこにいるか知っていますか?」

「えーっと、私・・・・・・ですが」

 名乗った後にやってしまったかと少し焦った。
 
 だって、私はこの男性を知らないし、マントや仮面なんかがある服装からして使用人ではなさそうだ。身に着けているものがとても高級感があるから、盗人というわけではないかもしれないけれど、結婚前夜の花嫁をこんな深夜に訪れるような人は貴族であっても、いささか常識に欠けるし、不審者だ。

(そうだ、結婚)

 ジャーネットを追ってネックレスを着けると呪いがあることを教えなければならないし、ロベルトとの婚約も破棄しなければならない。それも、彼は暴力と人智を超えた力で無理やり、私と結婚しようとした男。お父様に相談して、何人かの使用人と向かうべきか・・・・・・。

「はははっ。ご冗談を」

 こっちが真剣に考えているのに、男性は面白そうに笑った。

「冗談・・・・・・そうですね、今、冗談に付き合っている暇はないので私はこれで・・・」

 冗談なんか言ってないのに。そう思いながらも、相手にせずに行こうとすると、彼が私の腕を掴む。

「なんの、御冗談ですか?」

「キミこそ。クロエは、キミみたいに絶世の美女ではないはずだよ?」

 男性はウインクなんてしながら、キザに口説いてきた。
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