【完結】両親が亡くなったら、婚約破棄されて追放されました。他国に亡命します。

西東友一

文字の大きさ
上 下
23 / 28

23

しおりを挟む
 リチャードは悲しそうだった。
 
 本当は父親であるザクセンブルク国王の葬儀を盛大に行いたかっただろうが、エドワード王子率いるワルタイト王国の侵略は止まらない。リチャードは大臣と共に防衛戦線を整える必要があった。
 リチャードが時間がないのもあったし、私自身セントリウスが亡くなったこともありふさぎ込み気味だったので、あまり会話することも無かった。

 これが、お父様が反対していた戦争。

 王宮の中にいた私は戦争が始まっても、どこか蚊帳の外で実感がなかったけれど、リチャードの父であるザクセンブルク国王と私たちの執事であり家族だったセントリウスの死をもって戦争の悲惨さを知った。

 エドワード王子はザクセンブルク国王の死亡を聞いて喜び、目の前にぶらさがった人参に後先考えず攻撃を開始し、戦場は苛烈を極めた。

 ザクセンブルク国王の崩御に加え、ザクセンブルク軍は前線を後退させたことで、地の利のアドバンテージを放棄し、殿しんがりを任された部隊はほぼ壊滅。かなり被害を被ったもののリチャードと大臣の采配と兵士の奮闘で戦はなんとか拮抗していた。

 戦には多大な費用を伴う。その上遠征しているエドワード王子たちの費用は防衛しているリチャード達以上。
 すぐに補給線は長くなっており、食料はすぐに尽きると思っていた。

 ・・・しかし、食料は尽きなかった。
 エドワード王子のしたたかさはもちろん、周辺諸国の中にもしたたかな国がおり、どちらが話を持ち掛けたのかはわからないけれど、利益に聡い国々もエドワード王子にの援助をし始めた。

 ザクセンブルク公国は、建国以来の最大の危機になった。
 
「リチャード・・・」

「ん、あぁ・・・アリアか・・・」

 私は夜中リチャードの元へと訪れた。
 昼間のリチャードを捕まえることなんて、ほぼ無理に等しい。多くの兵士や文官が代わる代わる報告に来て、処理に追われていた。夜だって早く寝てほしいけれど、灯りはこの城の中で一番最後に消えることが多かった。

「身体は・・・大丈夫?」

 今までにない緊張感。いつも安心感を与えてくれていたリチャードと話すのにこんなにピリピリするのは初めてで、リチャードに話しかけるのに言葉を選ぶ日が来るとは思っていなかった。
 
「あぁ、大丈夫だよ。それよりも・・・この国だ」

 自分よりも国を心配するリチャード。
 本来好戦的ではないリチャードが争いについて考えるというのは本当に痛ましい。リチャードはやつれてきていた。そして、私に視線を向ける余裕もないようだ。

 バサッ

 リチャードの背後から私は抱きしめた。
 さすがのリチャードもびっくりして、動きを止める。

「ねぇ、身体を大事にして・・・」

「だけど・・・」

「私には戦の知識は全くないけれど、こっ、こんなんじゃ、いい考えは浮かばないわよ」

 いつも通りを心掛けて話そうとするけれど、声が緊張で少し詰まる。

「戦のことは将軍に任せているけれど、それでもボクがやらなければいけないことは山ほどある」

 戦のことは将軍が指揮を執っているということも知らなかった私。きっと、的外れなことしか言えないのかもしれない。ともすれば、私の言葉なんて彼の睡眠を妨げるだけでしかない。

 スーーーッ

 気持ちを落ち着けようと鼻で大きく息を吸う。

(ん?)

 クンクンッ

「ねぇ、リチャード・・・お風呂一緒に入ろ」
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

父が転勤中に突如現れた継母子に婚約者も家も王家!?も乗っ取られそうになったので、屋敷ごとさよならすることにしました。どうぞご勝手に。

青の雀
恋愛
何でも欲しがり屋の自称病弱な義妹は、公爵家当主の座も王子様の婚約者も狙う。と似たような話になる予定。ちょっと、違うけど、発想は同じ。 公爵令嬢のジュリアスティは、幼い時から精霊の申し子で、聖女様ではないか?と噂があった令嬢。 父が長期出張中に、なぜか新しい後妻と連れ子の娘が転がり込んできたのだ。 そして、継母と義姉妹はやりたい放題をして、王子様からも婚約破棄されてしまいます。 3人がお出かけした隙に、屋根裏部屋に閉じ込められたジュリアスティは、精霊の手を借り、使用人と屋敷ごと家出を試みます。 長期出張中の父の赴任先に、無事着くと聖女覚醒して、他国の王子様と幸せになるという話ができれば、イイなぁと思って書き始めます。

妹に婚約者を取られましたが、辺境で楽しく暮らしています

今川幸乃
ファンタジー
おいしい物が大好きのオルロンド公爵家の長女エリサは次期国王と目されているケビン王子と婚約していた。 それを羨んだ妹のシシリーは悪い噂を流してエリサとケビンの婚約を破棄させ、自分がケビンの婚約者に収まる。 そしてエリサは田舎・偏屈・頑固と恐れられる辺境伯レリクスの元に厄介払い同然で嫁に出された。 当初は見向きもされないエリサだったが、次第に料理や作物の知識で周囲を驚かせていく。 一方、ケビンは極度のナルシストで、エリサはそれを知っていたからこそシシリーにケビンを譲らなかった。ケビンと結ばれたシシリーはすぐに彼の本性を知り、後悔することになる。

始まりはよくある婚約破棄のように

メカ喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」 学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。 ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。 第一章「婚約者編」 第二章「お見合い編(過去)」 第三章「結婚編」 第四章「出産・育児編」 第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始

“代わりに結婚しておいて”…と姉が手紙を残して家出しました。初夜もですか?!

みみぢあん
恋愛
ビオレータの姉は、子供の頃からソールズ伯爵クロードと婚約していた。 結婚直前に姉は、妹のビオレータに“結婚しておいて”と手紙を残して逃げ出した。 妹のビオレータは、家族と姉の婚約者クロードのために、姉が帰ってくるまでの身代わりとなることにした。 …初夜になっても姉は戻らず… ビオレータは姉の夫となったクロードを寝室で待つうちに……?!

母が病気で亡くなり父と継母と義姉に虐げられる。幼馴染の王子に溺愛され結婚相手に選ばれたら家族の態度が変わった。

window
恋愛
最愛の母モニカかが病気で生涯を終える。娘の公爵令嬢アイシャは母との約束を守り、あたたかい思いやりの心を持つ子に育った。 そんな中、父ジェラールが再婚する。継母のバーバラは美しい顔をしていますが性格は悪く、娘のルージュも見た目は可愛いですが性格はひどいものでした。 バーバラと義姉は意地のわるそうな薄笑いを浮かべて、アイシャを虐げるようになる。肉親の父も助けてくれなくて実子のアイシャに冷たい視線を向け始める。 逆に継母の連れ子には甘い顔を見せて溺愛ぶりは常軌を逸していた。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

その出会い、運命につき。

あさの紅茶
恋愛
背が高いことがコンプレックスの平野つばさが働く薬局に、つばさよりも背の高い胡桃洋平がやってきた。かっこよかったなと思っていたところ、雨の日にまさかの再会。そしてご飯を食べに行くことに。知れば知るほど彼を好きになってしまうつばさ。そんなある日、洋平と背の低い可愛らしい女性が歩いているところを偶然目撃。しかもその女性の名字も“胡桃”だった。つばさの恋はまさか不倫?!悩むつばさに洋平から次のお誘いが……。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

処理中です...