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 スーーーッ

 私は入れてもらったお茶を手に取る。名前はカモミールティーと言うらしい。
 どうやら、カモミールという白くて小さな花から作るようだが、うちの国では見たことがない花だった。
 口に近づけると優しい花の香りが心を落ち着けてくれて、私は口にお茶を含む。
 
 滑らかな舌触りにその花の香りが口の中に広がり、私は味わいながらカモミールティーを飲み込んだ。
 涙を出し切った私は頭が痛かったけれど、このお茶は私の身体に優しくしみこんで癒していくようだった。

「おいしい・・・」

 私がぽつりと呟くと、「それは良かった」と言ってリチャードが笑う。

「なんか・・・ムカツク」

「えっ、なんで?」

 驚いた顔に昔のリチャードの面影を強く感じる。

「だって、私は泣きじゃくって今目とか真っ赤で、顔もカサカサでしょ?」

「うん」

 なのに、幼馴染で喧嘩も弱く、頼りなかったあのリチャードがこんなにもかっこよくなっていて、なんだかずるく感じたのだ。

「やっぱり、出て行って恥ずかしいから」

 私は布団で顔を隠す。
 するとその手を優しく握られる。

「何を今さら・・・っ。ボクはキミが鼻水を垂らしていたころから知っているし」

 バッ

「鼻水を垂らしていたのは、私じゃなくてリチャードでしょっ!?」

(はめられた・・・)

 ニホンという国の天岩戸の話のように私が顔を再び出すと、嬉しそうな顔をしてリチャードが待っていた。

「うん、キミは綺麗だよ。今も昔も・・・」

「いつから、そんな言葉・・・覚えたのよ・・・」

「昔から知ってたさ。でも、昔のボクは今以上に非力だったから言わなかっただけ」

 リチャードは私から手を離して、悔しそうに拳を作る。

「本当にごめん・・・アリア。キミの一大事にすぐに駆け付けてあげられなくて・・・」

「いいのよ・・・」

「いいや、ダメだ。ボクはキミを守れるようになるために頑張って来たんだ・・・っ。それなのに・・・」

「大丈夫よ、リチャード。大丈夫」

 私が今度はリチャードの固くなった拳を握った。

「あなたの手のいいところは、優しいところよ」

 すると、リチャードの力を込めた手はみるみるうちに柔らかくなった。

「うん、私がエドワードをやっつけてやるんだからっ」

 今度は私が拳を作る。
 けれど、さきほどのリチャードの拳よりも小さい拳はなんだか頼りない。

「見てなさい、エドワード・・・、絶対復讐してやるんだからっ・・・なーんてね」

 財産も差し止められて、居場所がなくなり、実質国外追放にあった私。
 私はすぐに拳を緩める。

「ねぇ、しばらくの間だけ、ここに住まわせてくれるかしら?リチャード」

「あぁ、しばらくと言わず・・・むぐっ」

 私は人差し指でリチャードの唇を抑える。

「しばらくでいいから。ねっ?」

 ちゃんと仕事を見つけたら、自分でお金を稼いで自分で住む場所を借りて暮らしたい。リチャードは優しいから幼馴染のよしみで住まわせてくれるかもしれないけれど、それは私が嫌だ。

 リチャードは私の手を握って、唇から手を離す。

「あぁ、キミはそういう人だったもんね」

 ニコッと笑うリチャード。
 私のことをわかってくれる人がまだいたことに私は嬉しくなった。

「ちっ」

 しかし、そんな私たちをドアの外から妬みながら見ている人がいるなんて気付かなかった。
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