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1話 野良ネコのミーヤ、飼いイヌのタロウ

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 憧れだった。

「行くぞ、ミーヤ」

「ウィッス、タロウさん!!」

 海岸沿いで、いつものように自由奔放に走り回るネコのボクとイヌのタロウさん。生え代わりの時期であっても整えられた毛並みは人に飼われているから。飼われていると言うと、どうしても従属的な感じがするのだが、イヌのタロウさんは違う。誰よりも自由で、誰よりも高貴だ。ボクもタロウさんに付き従う身として、なるべく身なりを整えたいと、毛を舐めては、毛玉を作って吐き出しているけれど、それでもなかなか完璧とはいかない。だって、ボクは野良ネコだから。

 飼いイヌのタロウさんと野良ネコのボクが一緒にいるのは変だと思うかもしれない。だから、この海の見える街でボクらのことを知らないニンゲンもネコもイヌもそして、トリたちもいないだろう。

「ほら、そんな小さいサカナに苦戦してどうするっ?」

「はいっ!!」

 そんなボクらの出会いを話そう。
 
 ボクは野良ネコとして生まれて、どんくさいし、気が弱いからいつもお母さんからのオッパイを兄弟に取られて、痩せこけていた。そうやって他の兄弟に栄養を取られて、ボクが取れなければ、どんどん身体能力は開いて行き、お母さんですらボクに見向きもしなくなっていった。でも、それは仕方がないこと。この海の街では漁師のニンゲンたちが傷物のサカナをくれることもあるけれど、それだって毎回じゃない。限られた食料の中で、ボクらのような野良ネコが自分のDNAを残すためには、ボクのような弱いやつを見捨てなければならない。だから、ボクはお母さんや兄弟のことを恨んじゃない。

 生きるためなら仕方がない。

 けど、意地の悪い野良ネコっていうのもわずかばかりいて、ただの暇つぶしにボクをイジメる奴らがいた。ボクをイジメてボクが嫌がる姿を見て喜ぶ奴ら。悔しくて、惨めでとても苦しかった。ボクはイジメられ続けて生きるより、そのまま死んでしまった方が幸せなんじゃないかと思っていた。

 そんな時、現れたのがイヌのタロウさんだ。
 ネコには出せないような迫力のある声で叫び、ボクをイジメていた意地の悪い野良ネコたちの全身の毛がよだった。タロウさんはこちらに吠えながら来ると、ヤツらはおもらしをしながら、逃げて行った。そして、

「大丈夫か?」

 凛々しい声。
 ボクの目の前にヒーローが現れたんだと思った。

「・・・はい。ありがとうございます」

 タロウさんはボクのことをじーっと見て、顔をしかめた。

(そりゃ、そうだよな。こんなに惨めなんだもん)

 ガラスや、水に映る自分を思い返したボクはその場から立ち去ろうとするけれど、足が痛くて、上手く歩けなかった。

「うわっ!!」

 すると、タロウさんがボクの背中を噛んだ。

「ボッ、ボクなんて食べても旨くないですよ!!」

 さっきまで、死んでもいいなんて思っていたのに、ボクはそんな風に命乞いなんかをした。けれど、タロウさんはボクをまるでイヌの親が子どもにする甘噛みだったし、食べる気なんて全くなかったので、すぐに離した。そんなことに気が付かないボクはジタバタとその場から逃げようとするけれど、身体には力が入らなかった。

「ちょっと、待っていろ」

 そう言って、タロウさんはどこかに行ってしまった。ボクは身体が動かない分、頭を働かせようとしたけれど、まったく何が起きているか理解できなかった。
 しばらくすると、タロウさんがサカナを咥えて戻って来た。

「ほら、食べろ」

「太らせてから・・・食べるんですか?」

「お前は、旨くないんだろ?」

 ボクが尋ねると、タロウさんは微笑みながら答えた。
 
 その時のサカナは、生きてきた中で一番旨かった。
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