1 / 7
1話 野良ネコのミーヤ、飼いイヌのタロウ
しおりを挟む
憧れだった。
「行くぞ、ミーヤ」
「ウィッス、タロウさん!!」
海岸沿いで、いつものように自由奔放に走り回るネコのボクとイヌのタロウさん。生え代わりの時期であっても整えられた毛並みは人に飼われているから。飼われていると言うと、どうしても従属的な感じがするのだが、イヌのタロウさんは違う。誰よりも自由で、誰よりも高貴だ。ボクもタロウさんに付き従う身として、なるべく身なりを整えたいと、毛を舐めては、毛玉を作って吐き出しているけれど、それでもなかなか完璧とはいかない。だって、ボクは野良ネコだから。
飼いイヌのタロウさんと野良ネコのボクが一緒にいるのは変だと思うかもしれない。だから、この海の見える街でボクらのことを知らないニンゲンもネコもイヌもそして、トリたちもいないだろう。
「ほら、そんな小さいサカナに苦戦してどうするっ?」
「はいっ!!」
そんなボクらの出会いを話そう。
ボクは野良ネコとして生まれて、どんくさいし、気が弱いからいつもお母さんからのオッパイを兄弟に取られて、痩せこけていた。そうやって他の兄弟に栄養を取られて、ボクが取れなければ、どんどん身体能力は開いて行き、お母さんですらボクに見向きもしなくなっていった。でも、それは仕方がないこと。この海の街では漁師のニンゲンたちが傷物のサカナをくれることもあるけれど、それだって毎回じゃない。限られた食料の中で、ボクらのような野良ネコが自分のDNAを残すためには、ボクのような弱いやつを見捨てなければならない。だから、ボクはお母さんや兄弟のことを恨んじゃない。
生きるためなら仕方がない。
けど、意地の悪い野良ネコっていうのもわずかばかりいて、ただの暇つぶしにボクをイジメる奴らがいた。ボクをイジメてボクが嫌がる姿を見て喜ぶ奴ら。悔しくて、惨めでとても苦しかった。ボクはイジメられ続けて生きるより、そのまま死んでしまった方が幸せなんじゃないかと思っていた。
そんな時、現れたのがイヌのタロウさんだ。
ネコには出せないような迫力のある声で叫び、ボクをイジメていた意地の悪い野良ネコたちの全身の毛がよだった。タロウさんはこちらに吠えながら来ると、ヤツらはおもらしをしながら、逃げて行った。そして、
「大丈夫か?」
凛々しい声。
ボクの目の前にヒーローが現れたんだと思った。
「・・・はい。ありがとうございます」
タロウさんはボクのことをじーっと見て、顔をしかめた。
(そりゃ、そうだよな。こんなに惨めなんだもん)
ガラスや、水に映る自分を思い返したボクはその場から立ち去ろうとするけれど、足が痛くて、上手く歩けなかった。
「うわっ!!」
すると、タロウさんがボクの背中を噛んだ。
「ボッ、ボクなんて食べても旨くないですよ!!」
さっきまで、死んでもいいなんて思っていたのに、ボクはそんな風に命乞いなんかをした。けれど、タロウさんはボクをまるでイヌの親が子どもにする甘噛みだったし、食べる気なんて全くなかったので、すぐに離した。そんなことに気が付かないボクはジタバタとその場から逃げようとするけれど、身体には力が入らなかった。
「ちょっと、待っていろ」
そう言って、タロウさんはどこかに行ってしまった。ボクは身体が動かない分、頭を働かせようとしたけれど、まったく何が起きているか理解できなかった。
しばらくすると、タロウさんがサカナを咥えて戻って来た。
「ほら、食べろ」
「太らせてから・・・食べるんですか?」
「お前は、旨くないんだろ?」
ボクが尋ねると、タロウさんは微笑みながら答えた。
その時のサカナは、生きてきた中で一番旨かった。
「行くぞ、ミーヤ」
「ウィッス、タロウさん!!」
海岸沿いで、いつものように自由奔放に走り回るネコのボクとイヌのタロウさん。生え代わりの時期であっても整えられた毛並みは人に飼われているから。飼われていると言うと、どうしても従属的な感じがするのだが、イヌのタロウさんは違う。誰よりも自由で、誰よりも高貴だ。ボクもタロウさんに付き従う身として、なるべく身なりを整えたいと、毛を舐めては、毛玉を作って吐き出しているけれど、それでもなかなか完璧とはいかない。だって、ボクは野良ネコだから。
飼いイヌのタロウさんと野良ネコのボクが一緒にいるのは変だと思うかもしれない。だから、この海の見える街でボクらのことを知らないニンゲンもネコもイヌもそして、トリたちもいないだろう。
「ほら、そんな小さいサカナに苦戦してどうするっ?」
「はいっ!!」
そんなボクらの出会いを話そう。
ボクは野良ネコとして生まれて、どんくさいし、気が弱いからいつもお母さんからのオッパイを兄弟に取られて、痩せこけていた。そうやって他の兄弟に栄養を取られて、ボクが取れなければ、どんどん身体能力は開いて行き、お母さんですらボクに見向きもしなくなっていった。でも、それは仕方がないこと。この海の街では漁師のニンゲンたちが傷物のサカナをくれることもあるけれど、それだって毎回じゃない。限られた食料の中で、ボクらのような野良ネコが自分のDNAを残すためには、ボクのような弱いやつを見捨てなければならない。だから、ボクはお母さんや兄弟のことを恨んじゃない。
生きるためなら仕方がない。
けど、意地の悪い野良ネコっていうのもわずかばかりいて、ただの暇つぶしにボクをイジメる奴らがいた。ボクをイジメてボクが嫌がる姿を見て喜ぶ奴ら。悔しくて、惨めでとても苦しかった。ボクはイジメられ続けて生きるより、そのまま死んでしまった方が幸せなんじゃないかと思っていた。
そんな時、現れたのがイヌのタロウさんだ。
ネコには出せないような迫力のある声で叫び、ボクをイジメていた意地の悪い野良ネコたちの全身の毛がよだった。タロウさんはこちらに吠えながら来ると、ヤツらはおもらしをしながら、逃げて行った。そして、
「大丈夫か?」
凛々しい声。
ボクの目の前にヒーローが現れたんだと思った。
「・・・はい。ありがとうございます」
タロウさんはボクのことをじーっと見て、顔をしかめた。
(そりゃ、そうだよな。こんなに惨めなんだもん)
ガラスや、水に映る自分を思い返したボクはその場から立ち去ろうとするけれど、足が痛くて、上手く歩けなかった。
「うわっ!!」
すると、タロウさんがボクの背中を噛んだ。
「ボッ、ボクなんて食べても旨くないですよ!!」
さっきまで、死んでもいいなんて思っていたのに、ボクはそんな風に命乞いなんかをした。けれど、タロウさんはボクをまるでイヌの親が子どもにする甘噛みだったし、食べる気なんて全くなかったので、すぐに離した。そんなことに気が付かないボクはジタバタとその場から逃げようとするけれど、身体には力が入らなかった。
「ちょっと、待っていろ」
そう言って、タロウさんはどこかに行ってしまった。ボクは身体が動かない分、頭を働かせようとしたけれど、まったく何が起きているか理解できなかった。
しばらくすると、タロウさんがサカナを咥えて戻って来た。
「ほら、食べろ」
「太らせてから・・・食べるんですか?」
「お前は、旨くないんだろ?」
ボクが尋ねると、タロウさんは微笑みながら答えた。
その時のサカナは、生きてきた中で一番旨かった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
夫と愛人が私を殺す計画を立てているのを聞いてしまいました
Kouei
恋愛
結婚してから3か月。
夜会である女性に出会ってから、夫の外出が増えた。
そして夫は、私の物ではないドレスや宝飾の購入していた。
いったい誰のための物?
浮気の現場を押さえるために、クローゼットで夫と愛人と思われる女性の様子を窺っていた私。
すると二人は私を殺す計画を立て始めたのだった。
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
フレンドシップ・コントラクト
柴野日向
ライト文芸
中学三年に進級した僕は、椎名唯という女子と隣同士の席になった。
普通の女の子に見える彼女は何故かいつも一人でいる。僕はそれを不思議に思っていたが、ある時理由が判明した。
同じ「period」というバンドのファンであることを知り、初めての会話を交わす僕ら。
「友だちになる?」そんな僕の何気ない一言を聞いた彼女が翌日に持ってきたのは、「友だち契約書」だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる