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 これはある少女の昔話です。

 一人の少女が雪の国に生まれました。白髪に透き通るような白い肌の少女の名はスノウ。少女は雪に愛され、物心ついたころから雪の魔法が使えました。雪の国の中では凍死とは無関係だったスノウは誰も寄り付かない雪山の頂上に雪の城を作り、人々がお目にかかれないような雪男のイエティや、白ウサギからシロクマまでの大小入り混じった動物たち、そして、雪だるまや雪人形に魂を込めて、楽しく遊んでいました。

 そんなある日、吹雪の中、いつものように森の中で雪上を滑って移動していると、倒れているオレンジ色の髪の男を見つけました。スノウは男の息があるのを確認して、自分の城に連れて行き、看病しました。男はスノウのおかげで目を覚まし、プロミネンスと名乗りました。彼はサファイア王国の王子でスノウを探していたとのことです。余談ですが、のちに書かれる彼の自著では助けられたとの記載は一切なく、自分が見つけたと書いてあったそうです。

 彼は片膝をつき、スノウの両手を握り、

「おぉ、美しきスノウ。この清らかなる白い御手で我が国・・・いや、私を救ってはくれまいか?」

 プロミネンス王子のオレンジ色の瞳に見つめられて、スノウは心が温かくなるのを感じました。
 見たこともない色鮮やかなオシャレな服装を見たのも、そんな風に男の人に褒められるのは生まれて初めてでした。

「でも・・・・・・」

 けれど、彼女は生まれ育った雪の国が好きでした。だから、そこから離れることは躊躇していました。

「ボクはキミを愛している」

 そう言って、プロミネンス王子はスノウの手の甲を優しく擦り、続けて、

「一目惚れだ。きっと、キミを幸せにする・・・そう、今の暮らしの10倍幸せにして見せる。今のキミでは見れない景色をいっぱい見せてみせる・・・・・・あぁ、そうだ。キミにプレゼントだ、きっと気に入ってくれるに違いない」

 プロミネンス王子はスノウの薬指を触りながら、自分の荷物の中から指輪を出し、スノウの薬指にはめた。

「うん、ぴったりだ・・・どうだい?」

 指輪にはきれいな赤い宝石、紅蓮がついていました。

「ステキ・・・」

 スノウは彼について行くことを決めました。
 吹雪は止み、スノウはプロミネンス王子の手を引きながら、雪山を滑走していきました。これもプロミネンス王子の自著ではプロミネンス王子がスノウの手を引いてなんて書いてあるそうです。スノウが雪の国を出ると、雪は寂し気にポツリポツリと降ったそうです。

 スノウがサファイア王国に着くと、そこは荒廃し、干からびた土地と干からびた人たちが暮らしている国でした。けれど、プロミネンス王子が連れてきたスノウを見つけると、国民達は歓喜の声を振り絞って迎えてくれました。中には大粒の涙を流している人々もいましたが、乾いた声と乾いた肌の彼ら彼女らを見て、それ以上水分を出したらいけないと思ったスノウが泣いている人たちの頬を撫でて、雪の魔法をかけると潤っていきました。

 国民から歓迎されたスノウはお城のベランダに立ち、雪の大魔法「アイスエイジング」を国中にかけました。大魔法ではありましたが、一度では潤いは広がらなかったので、スノウは何度も、何度もアイスエイジングを使いました。代償は大きいことはスノウは知っていましたが、困っている人たちを放って置けなかったのです。

 すると、国中の土地に潤いが戻りました。人々の笑顔も、振り絞ったような切なる笑顔ではなく、今度は幸せに満たされて溢れ出たような笑顔が広がりました。それを眺めて、スノウも幸せに感じました。すると、その幸せをさらに包み込むようにプロミネンス王子が優しくスノウの肩を抱いてくれました。

「スノウ。キミのおかげでこの国は幸せに溢れかえった。感謝する」

「そう言っていただけると、光栄です。プロミネンス王子」

 温かい視線でスノウを見るプロミネンス王子。スノウは心が温かくなるのを感じました。

「スノウ、結婚しよう」

 プロミネンス王子はそう言って、スノウを自分の方に引き寄せ、後ろから抱きしめます。

「二人で、この国を治めるんだ」

 スノウはその甘い言葉に酔いしれて、身体も心もプロミネンス王子に委ねました。すると、

「うわあああああああああああっ」

 プロミネンス王子の悲鳴にハッと目を覚ましたスノウが目を開けると、プロミネンス王子の両腕が凍っていました。そして、自分の腕を見ると、皮膚から氷が出る氷結化が現れていました。それを見た王子や王子の臣下、そして国民たちの恐怖した顔は彼女の頭から離れません。

 スノウは過去を思い返します。
 あの時、プロミネンス王子を見つけていなければ、どうだったのだろうかと。
 あの時、プロミネンス王子に付いて行かなければ、どうだったのだろうかと。
 あの時、魔法を使いすぎていなければ、どうなっていたのだろうかと。
 あの時、魔法を使い切った状態で油断しなければ、どうなっていたのだろうかと。

 けれど、運命の歯車は元には戻れないのです。
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