失敗を絶対に許さない夫と失敗に前向きな上司。

西東友一

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共働き期

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 私が働きだした夕食。
 その日の成宮家は何かが違った。

「でね、鈴木係長も、新山さんも、他の人もみんないい人そうだったの」

「今は、パワハラ、セクハラが厳しくなったから、当たり前。お前が辞めてから社会も色々アップデートされてるの。それに、入ったばっかの奴なんてすぐ辞めるから知れないから一番デリケートに扱うに決まってるだろ」

「あっ、そうなんだ」

「そっ」

「りく、今はみんな働く時はいい人なんだって」

「いいひとーーーっ」

 りくがそう言うと、たくやがふっと鼻で笑った。

「その鈴木って奴、人の女捕まえて、笑顔が素敵なんて言うなんて、ロクな奴じゃないな。というか、セクハラだぞ、セクハラ」

「えー、そんな感じじゃなかったよ」

「そいつ、独身か?」

 たくやはじぶんの左手の薬指のリング、つまり結婚指輪を弄りながら私に尋ねる。

「指輪はしてなかったと思うけど、大丈夫よ、安心して」

 私が笑顔でそう言うと、たくやはめをぱっちりと見開いて私を見るので、「ん?」と尋ねると、たくやは「なんでもない」と答えた。

「まっ、その・・・なんだ、笑顔は・・・・・・笑顔だけはその・・・・・・最高だからな、なるみは」

 そう言って、ご飯に目線を逸らして、黙々と食べるたくや。

(久しぶりに、名前呼んでくれたな)

 昔よりは全然優しくないたくや。
 でも、この頃の中では一番夕食の会話が弾んだし、私を女性として見るような言葉をかけてくれた。私はりくを見ると、りくは欠伸をして眠そうだった。

「今日、一緒に寝る?」

 私はテーブルの上で手を組みながら、たくやに尋ねる。

「馬鹿か・・・・・・」

「馬鹿かって夫婦なんだし。りくも兄弟欲しいわよね?」

「きょうだい?」

「弟とか妹。家族が増えるってことよ」

 私がそう言うと、りくはわからなかったかもしれないけれど、私の笑顔を見て、

「きょうだい、ほしいっ」

 と言った。
 
 その夜、

「ごめんな・・・・・・なるみ」

「ううん、そういう日もあるわよ」

 暗い寝室で一つの布団に入って小声で話をする私とたくや。けれど、私たちは不完全燃焼だった。

「ねぇ、たくや・・・・・・」

 意気消沈して、自分の布団へ入るたくやの背中は少し寂しそうで、何かを抱えていた。

「明日も仕事だろ? 寝よう。睡眠不足だと注意力散漫になってミスするぞ」

「何かあるんじゃないの、たくや。ねぇ、お願い。私もミスしないように頑張るから。アナタも隠しごとは止めて」

 私の言葉は聞こえているはずなのに、たくやは私と逆側を向いてこちらに背中を向けて横になった。

「ねぇってば」

「うううううんっ」

 私が大きめの声を出すと、りくがうめき声をあげる。私はりくが起きないように「大丈夫よ」と言いながら、掛け布団の上からお腹を優しく擦った。たくやはそんな私たちを無視して、背中を向けていたけれど、妻の勘だろうか。たくやが闇を曇った目で見つめているような気がした。
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