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 商談が済んだ後、私とお父様はナダルを食事に誘った。
 ナダルはとても喜んで「ぜひ」と言ったので、私たちは客室から食堂へと移った。

 食事にはお母様も参加し、4人で食べることになった。ナダルはお母様にも気に入られた。それは、やはりナダルが宝石を商いとして扱っていて、お近づきの印と言ってお母様に宝石をプレゼントしたことも大きな要因だとは思う。けれど、お母様が気に入った理由は、ナダルの食事のマナーも大きかったと思う。ナダルはナイフやフォークを使うのがとても上手だった。

 商人と言っても、ピンキリだ。
 お父様やお母様、そして私も様々な品物を見たり、触ってきたけれど、世界は広いから、まだ知らない物も多い。それが安価な物でもこの国で新しいものだというのであれば、ババを掴まされるだけ、損するだけ、恥をかくだけで済むけれど、贋作や偽物に関わっていたとなれば、家の名に傷が付く。さらに、王家にそれを献上してしまえば、爵位のはく奪、場合によって禁錮刑などの処罰があるかもしれない。

 だから、心配性のお母様は食事のマナーなどを見る。外見はどうにか取り繕い、雄弁に騙ったとしても、教養や作法などにはその商人の本質が滲み出る。例えば、その商人が多くの貴族と商いをしているか、さらに言えば、小さい頃から学べる環境にあったような商人、つまりは自分たちと同じように守るべき「信用」「ブランド」を持っていて、「信頼できるか」が滲み出る。

 でも、どこまでいっても「絶対」というのはこの世界にない。
 それが、お父様のよく言うセリフだ。
 今言った、教養や作法だって取り繕うと思えば取り繕えるし、優秀な商人だってできないことはある。

 さらにお父様がよく言うのが、

『だがな、情報は鮮度が命だ』

 である。

 もしかしたら、別の商人に売ってしまっては、自分たちの儲けにはならない。なので、その商人を信用するかどうかにはどこかで折り合いをつけなければならない。

 お父様は自分の過去の経験や知識、そして自分の目でそれを判断する。けれど、心配性のお母様はそれだけだと判断できない。とはいえお父様の商売を邪魔することを避けたいお母様は、食事の作法を基準に信頼できる商人か判断しているのだ。

 事業拡大、自分の家の富と名声を大きくしたい果敢なお父様。
 心配性でありながら、愛したお父様のことを理解するお母様。

 私はレオンに「じゃじゃ馬娘」なんて言われるくらい新しいことにも挑戦してしまうのは、お父様に似たのだろう。

(そして・・・・・・)

 かなりグイグイくるけれど、いたって好青年なナダル。
 
 彼に対して、少し疑心暗鬼になっているのはお母様に似たのかもしれない。
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