2 / 16
2
しおりを挟む
ピトッ
僕の投げたルアーが水面に入っていく。
浮きが浮いたり、沈んだりして波紋を起こしているのも、なんかいい。僕はその光景を見ながら、ゆっくりとあくびをした。
近くにあった湖。
魚がいるかどうかも、リサーチせずにただただ釣り糸を垂らしている。これが、前世なら市場のリサーチもせずに資金や労力を投資するなんて、馬鹿のやることだ、とゲンコツ2発や3発は貰っただろうか?
「パワハラはパワハラでも、うちの上司はパワー原だよな~、はははっ」
上司の名前は確か「原」。原だけに腹も出ていたけれど、元マッチョのせいか腕は脂肪もありながらもムキムキで、ミスなどをすると拳が飛んできた。奴の言い分はこうだ。
「俺もやられてきた。それで成長した」
まぁ、奴も時代の被害者なのかもしれないが、暴力を振るわれてはかなわない。そんなご時世は一昔前のことなのだから。
「って・・・、ひと昔前かどうかなんて知らないな、僕」
僕は再び暇を理由に、大きく欠伸をする。
僕は転職をしたことも無かったし、僕の会社のことしかほぼ知らない。パワハラは無くなってきたなんて、取引先の人が言っていたし、身内の恥だと思いつつも話のタネになるので、うちの会社の話をしたら、シュっとした好青年が「えっ、原始時代ですか」なんて言われたのをよく覚えている。あの時は苦笑いだったな。
ただ、睡眠時間を削ってまで読んでいた新聞や、視聴したテレビなどではごくごくたまーに、パワハラについて訴訟が起きたと情報を発信してくれるが、それだって少ない気がしていた。絶対、パワハラの横行していた世代でうちの原のように、時代のトレンドをアップデートできない大人なんてごまんといたはずだ。それなのに、あの程度しか発信されないということは、あの好青年の会社が宝くじ当選者と同じ確率と言われる優良企業にいただけなのかもしれない。
「あーやめやめ、せっかくの美味しい空気が台無しだ」
僕は大きく深呼吸をする。
ぽつぽつある木々に囲まれた湖のほとりで僕一人。
空気が美味しくないわけない。
「今がチョー最高だけど、前世の僕は絶対ソロキャンプなんてしなかっただろうな」
今は人里離れた山の中で独りでのびのびと暮らしている僕だけれど、当時の僕は暇があるなら仕事をしなければ罪悪感を持ってしまったし、それが無理なら睡眠時間を確保したかった。そんな僕がソロキャンプの計画を立てて、道具を揃えて、テントを張ったりするなんて、プライベートまで肩肘を張るのなんてごめんだし、そもそも、プライベートの予定なんて仕事の予定に簡単に負けるのだから、予定をすること自体無意味だった。
「でも、やってみると案外楽しいし、人が人らしく生きるのに必要だよな~」
僕は半日くらい釣り糸を垂らしていたけれど、魚は1匹も釣れていなかった。
けれど、成果はあった。
僕は背伸びをして、背中が伸びる快感を味わい、のこのこ家へと帰っていった。
僕はスキル『明鏡止水』を手に入れた。
僕の投げたルアーが水面に入っていく。
浮きが浮いたり、沈んだりして波紋を起こしているのも、なんかいい。僕はその光景を見ながら、ゆっくりとあくびをした。
近くにあった湖。
魚がいるかどうかも、リサーチせずにただただ釣り糸を垂らしている。これが、前世なら市場のリサーチもせずに資金や労力を投資するなんて、馬鹿のやることだ、とゲンコツ2発や3発は貰っただろうか?
「パワハラはパワハラでも、うちの上司はパワー原だよな~、はははっ」
上司の名前は確か「原」。原だけに腹も出ていたけれど、元マッチョのせいか腕は脂肪もありながらもムキムキで、ミスなどをすると拳が飛んできた。奴の言い分はこうだ。
「俺もやられてきた。それで成長した」
まぁ、奴も時代の被害者なのかもしれないが、暴力を振るわれてはかなわない。そんなご時世は一昔前のことなのだから。
「って・・・、ひと昔前かどうかなんて知らないな、僕」
僕は再び暇を理由に、大きく欠伸をする。
僕は転職をしたことも無かったし、僕の会社のことしかほぼ知らない。パワハラは無くなってきたなんて、取引先の人が言っていたし、身内の恥だと思いつつも話のタネになるので、うちの会社の話をしたら、シュっとした好青年が「えっ、原始時代ですか」なんて言われたのをよく覚えている。あの時は苦笑いだったな。
ただ、睡眠時間を削ってまで読んでいた新聞や、視聴したテレビなどではごくごくたまーに、パワハラについて訴訟が起きたと情報を発信してくれるが、それだって少ない気がしていた。絶対、パワハラの横行していた世代でうちの原のように、時代のトレンドをアップデートできない大人なんてごまんといたはずだ。それなのに、あの程度しか発信されないということは、あの好青年の会社が宝くじ当選者と同じ確率と言われる優良企業にいただけなのかもしれない。
「あーやめやめ、せっかくの美味しい空気が台無しだ」
僕は大きく深呼吸をする。
ぽつぽつある木々に囲まれた湖のほとりで僕一人。
空気が美味しくないわけない。
「今がチョー最高だけど、前世の僕は絶対ソロキャンプなんてしなかっただろうな」
今は人里離れた山の中で独りでのびのびと暮らしている僕だけれど、当時の僕は暇があるなら仕事をしなければ罪悪感を持ってしまったし、それが無理なら睡眠時間を確保したかった。そんな僕がソロキャンプの計画を立てて、道具を揃えて、テントを張ったりするなんて、プライベートまで肩肘を張るのなんてごめんだし、そもそも、プライベートの予定なんて仕事の予定に簡単に負けるのだから、予定をすること自体無意味だった。
「でも、やってみると案外楽しいし、人が人らしく生きるのに必要だよな~」
僕は半日くらい釣り糸を垂らしていたけれど、魚は1匹も釣れていなかった。
けれど、成果はあった。
僕は背伸びをして、背中が伸びる快感を味わい、のこのこ家へと帰っていった。
僕はスキル『明鏡止水』を手に入れた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
俺のスローライフを邪魔するやつは返り討ち
黒猫
ファンタジー
主人公、真木翔太はある日、トラックに跳ねられ死んでしまった。死んだかと思うと目が覚めると、目の前に神が居て、転生できると言われ、転生することにした翔太。社畜として、毎日残業で1日ぶっ続けで仕事をしていた。そのため、異世界ではまったり、スローライフしようと思い、ゆっくりしようと決めたが、魔物や魔族や竜族、人間に邪魔され、返り討ちにすると噂が噂を呼びスローライフが邪魔されてしまう。この物語はスローライフを手に入れるために邪魔者を倒していく物語である
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
収納持ちのコレクターは、仲間と幸せに暮らしたい。~スキルがなくて追放された自称「か弱い女の子」の元辺境伯令嬢。実は無自覚チートで世界最強⁉~
SHEILA
ファンタジー
生まれた時から、両親に嫌われていた。
物心ついた時には、毎日両親から暴力を受けていた。
4年後に生まれた妹は、生まれた時から、両親に可愛がられた。
そして、物心ついた妹からも、虐めや暴力を受けるようになった。
現代日本では考えられないような環境で育った私は、ある日妹に殺され、<選択の間>に呼ばれた。
異世界の創造神に、地球の輪廻の輪に戻るか異世界に転生するかを選べると言われ、迷わず転生することを選んだ。
けれど、転生先でも両親に愛されることはなくて……
お読みいただきありがとうございます。
のんびり不定期更新です。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる