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本編

54話 つがいの勾玉

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 私とクリスはランチを食べた後、町を見て回りながら、どのタイミングで私のお父様とお母様に私がマクアス王国に行くことを告げるか話し合った。好きな人と分かり合えた中、一緒に企画を考えるというのはとても楽しかったし、クリスは町にあるいろいろな物に興味をもってくれた。

「ねぇ、クリス。これっ、どうかしら」

 私は雑貨屋さんで面白いものを見つけた。

「この緑で透き通る感じだと・・・材質はヒスイかな。うん、シンプルだけど面白い形だね。イモムシ・・・いや、オタマジャクシ・・・でも、生物の象徴と言うよりもっと、神話的な意味がありそうな・・・どちらにしてもきれいだね」

 クリスが手に取り観察する。

「それは・・・勾玉というんじゃよ・・・」

 雑貨屋さんのおじいちゃんがよっこいしょと、立ち上がって教えてくれる。歳のせいで力がなくなっているのか、少し震えている。

「「マガタマ?」」

 私とクリスは思わず一緒に口に出してしまい、お互い照れながら目線を交わして表情がほころんだ。

「そう・・・これは東洋の方で・・・魔除けの効果があるらしいぞい」

「へぇ、そうなんですね」

 私はその勾玉に興味を奪われてしまった。そして、それはクリスも同様のようだった。

「あっ、そうだ。クリス。せっかくだから、お土産にプレゼントさせて」

「えっ」

「あっ」

 クリスが驚いたのを見て、私もやってしまったことに気が付く。

「ごめんなさい・・・王子様にプレゼントするにはその・・・」

 店主のおじいちゃんにも悪いけれど、キラキラ光る宝石や貴金属を身に着けることが相応しいクリスには、安いものをプレゼントするなんて失礼にあたってしまうに違いない。だから、クリスがあんなにもびっくりした顔をしたのだろう。そういえば、ボッド王子にも私が気に入ったものをプレゼントしようとしたら、「僕がこの程度の男だとおもっているのか!!痴れ者!!」と怒られて、プレゼントを投げつけられたことがあった。

「嬉しいよ、シャーロット」

 私が嫌な記憶を思い出して震えていると、その手をクリスが優しく握りしめて、私はその温かさで震えが止まる。
 クリスの顔を恐る恐る見ると、クリスはいつも通りやさしい笑顔で私を見つめていた。

 ジワーーーッ

 私は心に感動が広がっていくのを感じた。

(本当に・・・良かった)

「おじいちゃん、これ一つちょうだい」

 私はそれ以上クリスを見ていたら、嬉しくて泣いてしまいそうになったので店員のおじいちゃんの方へ向かう。
 クリスから離れても胸の鼓動は高まったままだ。

「ひとつで・・・ええんか?」

 おじいちゃんが、震えながら尋ね返す。

「どういうことですか?」

 おじいちゃんは震えながら、ゆっくりと歩き勾玉を展示してあったところへ歩く。

「ほれ・・・っ」

 そう言って、おじいちゃんはピンクパールでできた勾玉を手に取って、私に手を出すように促してきたので、私は手に取る。

「それはなぁ・・・1つでも意味を持つが、2つで1つでもあるんじゃ」

「なら、僕からシャーロットにプレゼントしよう」

 クリスが私の斜め後ろに立って、私に手の中にあるピンクパールの勾玉を覗き込む。
 クリスの髪なのか、首のあたりなのかほんのり花の香りがして、私は自分の匂いがどうなのか心配になりながら、その匂いにドキドキする。

「いっ、いいの?」

「お揃いの方が僕はうれしいけど、シャーロットはどう?」

「・・・うん」

 目と鼻の先の距離で余裕のある顔で私の顔を見るクリス。私は恥ずかしくてちらっとしかクリスの顔を見れない。

「ふぉっふぉっふぉ、毎度あり」

 おじいさんはまるで、教会の神父のように私たちを温かく見守っていた。

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