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本編

8話 大事なもの

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「おやおや、どうされたんですか、ゼロス?こんな早くからそんなしかめっ面をして?幸せが逃げますよ?」

 私が家族にボッドのことを話をした翌朝に、私はお父様に連れられて嫌な思い出がある王宮の客室へ再び訪れた。

「ボッド様、そんなこともおわかりにならないのですか?」

 素知らぬ顔と声のボッド王子。

 そんなボッドの態度にお父様は嫌悪を露わにした声で質問で返す。

「「・・・」」

 睨むお父様とにやにやするボッド。
 本当に憎たらしい顔をしているボッド。

 王子とはいえ、こんな男に一度は惚れてしまった自分が恥ずかしい。

「反省の色はないようですな・・・ボッド王子」

「反省?ハハハッ、何を反省すればいいのです?ゼロス。僕はあなたの娘のシャーロットに婚約を破棄された身ですよ?なんならお宅の娘さんに反省してほしいものですが?」

 煽っている・・・というのもあるだろうけれど、ボッド王子の本音だろう。
 ボッドは本気で悪いことをした気がないのだろうし、私には正妻にはふさわしくないと思っているようだ。

「ハッハッハッ」

 お父様が天を仰いで大笑いした。

「ご冗談でしょ、ボッド王子。うちの娘、シャーロットはあなたの側室・・・はもちろん、あなたごときには相応しくない」

 力強いお父様の一言。
 お父様は煽る気満々だ。

「何を、どの立場でおっしゃっているかわかっていらっしゃるんですか、ゼロス」

 ボッド王子は王家の肩書きに相応な尊大な態度を取る。

「えぇ、もちろん。親族になるなんて話もあったが、あなた方の血は汚らわしい。俺たちはあなた方とは交流も商いも断絶する。今日はそれを言いに来た」

 お父様の発言に王宮の客室の空気が張りつめる。
 ボッド王子も奥歯を噛みしめるような顔をしている。

「まぁ・・・、言葉遣いはこの際置いておこう・・・。ゼロス、僕らと商いをしないということは君らは太客を失うと言うことなんだよ?わかってるのかい?」

 ボッド王子は少し笑いながら、執事などに相槌を促す。

「それくらい、どうにでもなる。それよりも大事なモノがある」

「ふふっ、大事なモノとは?」

「心だ」

「ふっ」

 ボッド王子は吹き出す。
 けれど、お父様は毅然とした態度を撮り続けている。
 それを見て、ボッド王子も睨むような顔に変貌していく。

「心じゃ、飯は食えないぞ、ゼロス」

「俺たちの領民は優秀な奴が多くな。高い技術はどこにでもニーズがある。俺の娘を側室にしようなんてする、見る目のない奴らよりも、しっかりと価値がわかるような人々に売り込むさ」

「・・・」

 ギロっとボッド王子が私を見てくるけれど、そんな目で見られても私も困ってしまう。
 私は目線を合わせるのを避けて、視線を下に落とした。

 そんな私の肩をしっかりと心強くお父様が抱きしめてくれた。
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