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本編

3話 芽吹きの夕暮れ

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「あ~ぁ、パパとママになんて言えばいいんだろう・・・」

 夕暮れの帰り道。
 
 私は一人、ボットがいた王宮から帰り道を歩いていた。

◇◇

「おい、シャーロット。馬車はまだ準備できてないぞ?」

「ありがとう、お父様。でも、私は歩いて行きますっ。だって、待っていられないもの」

 私は振り返って、お父様に笑顔で答える。

「でも、馬車の方が・・・てっ、もういないし」

「ふふふっ」

 後ろの方でパパとママが笑っていたけど、私は立ち止まらなかった。
 だって、フィアンセのボットに早く会いたかったのだから。
 それに、その笑い声は私の背中を押してくれた。
 
「なのに・・・」

 今となってはその笑顔が私に罪悪感を与え、足に枷を与えて足取りを重くさせる。

 視界がぼやけてきたのを感じて空を見る。

 だって、あんなやつのせいで流す涙なんてもったいないし、泣いてしまえば私の負けのような気がしたんだもの。

 夕焼けの赤い空。

「なんで、夕焼けって寂しい気持ちになるんだろう・・・」

「なんでですかね?」

「うわっ」

 独り言を言っている最中に、急に後ろからして男性の声がしてびっくりする。

「あぁ、どうも。またお会いしましたね。シャーロットさん」

 この前の男性だった。

「あぁ、この前の・・・えーっと・・・」

「クリストファーです。クリスとお呼びください」

「お久しぶりです・・・クリス」

「ん?」

 クリスが私の顔を見て反応したので、思わず私は逆の方向を向き手の甲で唇を抑える。

 強い西日が私の顔を隠してくれていたとは思うけれど、じーっと見られてしまえば目頭がもっと熱くなってしまうきがした。

「寂しい気持ちは嫌いですか?」

 クリスの優しい声に私はぎこちなくゆっくりとクリスを見た。

「好きなわけないじゃない」

「僕は好きですよ」

 クリスはにこっと笑う。
 よく笑う青年だ。

「どうして?」

 私はぶっきらぼうに質問をする。

「そうですね・・・」

 クリスは私を見た後、夕日を見る。

「寂しいときにゆっくりと愛を育むんです。自分の中の愛を。それはとても切なくて、それはとても美しくて、そして、それはとても愛おしくて・・・」

 クリスは目を閉じながら胸にある何かを慈しむように手を胸に当てる。

「だから、私は大好きなんです」

 キレイだった。
 
 恋している人はこんなにもキレイなんだと見惚れてしまった。

 魔法だった。

 その言葉は私の心臓は大きく脈を打たせ、私の中にあった暗い感情の全てを吹き飛ばしてくれた。

 私はクリスのことをよく知らない。

 けれど、彼のようになりたい、彼のことをもっと知りたい。

 そう思った。
 




 
 
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