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本編

1話 咲き誇る笑顔の花

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「きゃっ」

「大丈夫ですか?」

 町の道路。
 私は走っていたら男性とぶつかってしまった。
 ぶつかって跳ね返されて倒れそうになった私の背中にそっと優しく腕を回して支えてくれる男性。

(あ・・・っ、良い香り)

 男性は片手にも関わらず、優しく私が体勢を整えるのを手伝ってくれた。

(すらっとしているのに・・・男の人ってすごいな)

「すっ、すいませんっ」

 私の体勢が整うと、男性はすーっと離れ、私は速やかに謝る。

 だって、私が前方不注意のまま走ってぶつかったんだもの。
 目に焼き付いた大切な思い出を思い出すために目を閉じて走っちゃった。

「いえいえ。大丈夫ですよ」

 男性の紳士な態度に育ちの良さが垣間見えた私は、思わず安堵して笑顔がこぼれる。

(うん、やっぱり今日は人生で一番素敵な日だわ)

 人とぶつかるなんてそうあることではないけれど、倒れて怪我することも怪我させることもなかったのはツイている証拠だ。


「それより、お嬢さん。何か素敵なことがあったみたいですね。とっても魅力的な顔をしてますよ」

 男性が微笑んで訪ねてくる。

「やだ、魅力的だなんて困りますぅ・・・」

 私は両手で両頬を抑えると、照れたせいか熱を帯びている。
 
「じつは・・・っ。ちらっ」

 上目遣いで男性を見る。だって、話を聞いてほしくて仕方ないけれど、自分勝手に見ず知らずの男性に迷惑をかけちゃまずいもの。嫌な顔をしていたら、我慢しなきゃ。

「どうされたんですか?よろしければ教えてください」

 人のよさそうな彼は嬉しそうに微笑みながら尋ねてくれる。
 いつもの私ならそんな無理やり尋ねさせるようなことを決してしないけれど、今日は特別。だって―――

「今日、プロポーズされたの!!」

 思ったよりも大きい声が出てしまった。
 でもいいの。
 誰に聞かれたって構わない。
 むしろ、みんなに聞いてほしい。

「彼ったら、『君が一番好きだ』なんて言ってくれて、『ぜひとも、妃になって欲しい・・・』なんて言ってきての!!だから、私も照れたし、とーーーっても、ドキドキだったけど『・・・はい。よろこんで・・・』って言ったの!!!うふっ」

 私は低い声を出して彼の物まねをしながら、目の前にいる男性に話しかける。

「そうでしたか・・・。それはおめでとうございます。あなたのような愛らしい女性をお迎えする男性はあなたと同じくらい・・・いや、それ以上に幸せでしょうね」

「もうっ、やだっ。お世辞がお上手なんだからぁ」

 私はその男性の腕をバシバシ叩く。

「それに、ダ・メですよ?さっきからぁ。魅力的とか愛らしいとか私にはフィアンセがいるんですからぁ」

「あぁ、そうですね。失礼しましたミセス」

「あぁ、お気に触ったならごめんなさい。実は言ってみたかったの。私にはもう相手がいるの・・・みたいなやつ?えへへっ。ミ・セ・ス・・・。あぁ、そうね、私はミセスになったのね・・・」

 私は自分に酔っている。
 自覚をしている。
 ちらっと男性を見るけれど、彼も微笑んで私を見ている。

「お兄さん、良い人ね?」

「そうですか?あなたのような人に言われれば嬉しい限りですよ」

「もうっ、本当にぃ~~~っ。女性の扱いに慣れてますね、お兄さん。モテますでしょ?」

「ははは・・・っ」

 こういうところで変に否定しないのもモテる人だなと思った。

「今恋している人・・・、あっ、奥様とかいらっしゃるの?」

「妻はいません。恋は・・・まぁ、していると言えばしているかもしれませんね」

「そうなの?じゃあ、お兄さんならしっかり想いを伝えれば、相手はきっとイチコロだから頑張って。恋って、とーーーーっても、素晴らしいものなんだから」

 私が恋について語りたいだけかもしれない。
 でも、こんなに心が春の始まりのような芽吹きだす気持ちをみんなにも味わってほしい。

「えぇ、ありがとうございます」

 男性は謙虚に返事をしてくれる。

「なーーんて、お兄さんならそんなことを言わなくても、大丈夫かしらね?ごめんなさいね。テンションが、もう・・・ねっ」

「大丈夫です。ちゃんとお嬢さんの気持ちは伝わりましたから」

 本当に笑顔がすてきな男性だ。

「なんか、ぶつかった相手がお兄さんで良かった」

「?」

「だって、とっても嬉しい気持ちがもーーーっと、もーーーーっと大きくなって、今、私。世界で一番幸せだものっ」

 クスッ

 男性は思わず表情を崩して笑った。

「失礼・・・そうですね。私もあなたみたいな世界一幸せな女性にぶつかって、幸せを分けてもらった気分です。私も幸せですよ。だからこちらこそありがとうございます」

「えへへへっ。あっ、早くお父様とお母様にも報告しないとっ!!!じゃあね、お兄さん」

 私は駆け出す。
 今度はしっかりと前を向いて行かないと。

「お嬢さん!!!」

 男性の声に私は振り返る。

「よろしければ、お名前を!!!」

「シャーロットっ。ラフィン・シャーロットよっ」

「素敵な名前だ!!」

 私はお辞儀をして、お父様とお母様の元へと向かう。

―――本当に今日はいい日だわ。
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