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17.憂死涙

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「ミシェル・・・」

 マハラジャは走った。
 今は一分一秒でも早くミシェルに会いたかった。

「ミシェル・・・っ!!」

 扉を開けると、祈っているミシェルがいた。

「マハラジャ様・・・?」

「雨が、降ったんだ」

「それは・・・良かったです」

 マハラジャにはそのミシェルが聖女か天使に見えた。ミシェルは外に気を遣う余裕が無かったので、マハラジャに言われてようやく外を見る。

「・・・これだけ」

「十分さっ!!」

 大雨を見慣れているミシェルは自分の非力さを悲しんだが、念願の雨が降ったマハラジャはミシェルの予想を裏切り大喜びした。

「あっ・・・すまない」

 ガラハラ王国の王とガラハラ王国が求めた雨乞いの巫女。お互いがお互いを敬うべき存在だと気が付いてから、二人の距離は遠くなっていたが、マハラジャは喜びのあまり自分の顔をミシェルの目と鼻の先に近づけていて、両手を握っていた。

「いえ・・・」

 マハラジャが距離を取ると、ミシェルも柄にもなく前髪を整える。

「それより・・・国を案内いただけますか?」

「ああ、もちろんです」

 ミシェルは自分の祈祷の力を確認したかった。
 二人が王宮を出ると、多くの国民が雨を見に集まっていて、雨に濡れながらも乾いた肌が潤い、生き生きとしていた。マハラジャはそれが嬉しくて、ミシェルにはその羨望が目で見られると申し訳なかった。

「彼女、雨乞いの巫女、我が国の救世主のミシェル様ですっ!!」

 マハラジャがミシェルを紹介すると訪れていた国民達が拍手喝采する。

「そんなに・・・期待されても・・・」

「「「ありがとう」」」

 国民はミシェルに駆け寄って来て、握手を求める。

「えっ?」

 ミシェルは驚いた。ミシェルにとって人というのは、巫女に何かをしてもらって当然だと思う存在だと思っていたにも関わらず、ガラハラ王国の人々はミシェルに感謝していた。

「ありがとう・・・ございます」

 ミシェルの言葉に国民達は驚く。自分たちが感謝しているのにも関わらず、ミシェルが急に感謝し返してきたのだから。そして、ミシェルの目から何日かぶりに涙が出た。
 今までになかった涙。
 嬉し涙だ。

「こっ、これは―――」

 ミシェルが涙を流すと、国中に黒い雨雲が広がり始め・・・・・・そしてはじけた。
 すると、雲が弾けたときにできた水滴が太陽の光を反射させ、虹色に光る水滴が国中に降り注いだ。

「なんだこれはっ」

 各地で驚きだす国民達。
 その水滴は大地を潤し、植物の成長を促し、人間を含めたすべての動物たちの枯れた肌を潤し、活力を与えていった。まるで、今までの日照りによる苦しみを精算し、さらにこの上ない幸福感に包まれた国民達は視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚、そしてシックスセンスを使って、その神秘的な時を身体全体で味わいつくした。

 その祝福の雨は3日3晩続きその後、7日7晩、ガラハラ王国を半球状に覆う虹となり、ガラハラ王国、そしてガラハラ王国に生きる全ての生物を潤し、幸福に包み込み、ガラハラ王国の今後を憂う者は一人もいなかった。もちろん、ネガティブなことばかり考える救世主、ミシェルも含めてだ。
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