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5.落ち着かぬ心

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 コンコンッ

 馬車の外からノックをされて、ミシェルは顔を上げる。

「はいっ」

 扉をゆっくり開けてきたのは執事のミライオだった。

「ただいま」

 ミライオは険しい顔をしていたけれど、その後ろからマハラジャが愛嬌のある顔を覗かせたので、ミシェルはほっとする。

「おかえりなさい・・・」

 とはいえ、自分のことが話題に出る可能性もあるかもしれないと、マハラジャの顔色を伺うミシェル。

「ふぅ」

 首元を緩めて、リラックスするマハラジャがミシェルの隣に座り、続いてミライオが座ると、馬車が動き出す。揺れる馬車にあわせてミシェルの心も揺れていた。それを助長しているのが・・・

「駄目だよ、ミライオ。そんなに睨んだら」

 目を閉じているように見えたマハラジャだったけれど、ミライオの視線、そして、その視線の先にいたミシェルの怯えた顔に気づいていた。

「申し訳ありませんでした。マハラジャ様」

「謝る先は僕かい?」

 頭を下げるミライオに、ちらっと、片目でマハラジャでミライオに微笑む。

「申し訳ありませんでした。ミシェル様」

 身体の向きをミシェルの方に向けて頭を下げるミライオ。

「いえっ、私は・・・そんな・・・」

 二人に見つめられて心拍数が上がるミシェル。ちょっと涙目になる。
 すると、遠くの方でゴロゴロと雷雲が音を立てる。

「おっと、天気が怪しいな」

 その音を聞いて、マハラジャが呟く。
 
「我が国だと、嬉しいですね」

 ミシェルにはその言葉が不思議に感じて、ミライオを見つめると、その視線に気づいたミライオが再びきつめの目でミシェルを見る。ミシェルは怖くなって、目線を逸らす。

「あっ、光った」

 マハラジャが呟くと、しばらくして音が鳴る。

「どうしましょうか、マハラジャ様」

 真剣な声でミライオが話しかける。

「何がだい?」

「・・・先ほどのエバーガーデニア王国との交渉の件です」

 マハラジャの余裕そうな顔に少し怒っているか、呆れているのか含みのある言い方をするミライオ。

「まぁ、仕方ない。あんな額を吹っ掛けられたら諦めるしかない」

「どうなさったのですか?」

 ミライオがマハラジャを睨むけれど、マハラジャは笑顔でミシェルを見て、

「僕たちの住んでいるガラハラは砂漠に囲まれた国なんです。砂漠とは言っても、雨期には雨が降るんですが、今年は雨が降らないから不作になりそうでしてね。だから、この国の雨乞いの巫女をお借りられないかとお願いに来たんですけど・・・はははっ、貸すには莫大なお金をよこせと言われてしまってね」

 と答えた。

(それって・・・)

 ミシェルが自分のことです、と申告しようとするけれど、気弱なミシェルはなかなか言えずにそわそわするだけだった。 
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