【完結】桜を折る馬鹿である貴方は一生馬鹿であるがいい。私と縁を切ったはずの貴方が幸せでいられるでしょうか。

西東友一

文字の大きさ
上 下
7 / 10

7 桜折る馬鹿が捨てる物

しおりを挟む
「本当に・・・・・・馬鹿よ・・・・・・っ」

 私たちは桜の木の下でそっと手を重ねて仲良く座った。
 なぜ、今日に限って来たかと言うと、どうやら妙ちゃんが手紙を勇作に送ったらしい。本当に妙ちゃんは感謝だ。ただ、私が勇作のことは忘れたと彼女に嘘をついていたのもいけないのだが、妙ちゃんは私よりも勇作のことを知っていて、妙ちゃんの家の方がうちよりも情報網に長けているとは言え、妙ちゃんだけ勇作の住所が知っていたのが少し悔しかった。

「ああそうじゃ、俺は桜を折ってしまうくらい馬鹿じゃ」

「そっちじゃなくて・・・・・・って、あーーーっ、やっぱり桜を折ったのね」

 私が勇作を見ると、目のあたりを少し赤らめていた勇作がいたずらっぽく笑っていた。私は「もうっ」と言って、そっぽを向くと、勇作が重ねた手を今度は指を絡めてきた。

「梅子の誕生日が近かったじゃろ、だから、プレゼントしたいと思ったんじゃ」

 嬉しくて、握った勇作の手をぎゅっとしてしまった。すると調子に乗った勇作は私の太ももにもう片手を置く。

「梅子っ」

 勇作に呼ばれて、返事をしてしまえば、さらに調子を乗ると思ったし、返事をせずに恐る恐る勇作を見ると、勇作は真面目な顔をしていた。

「・・・・・・何よ」

「ずーーっと、ずーーっと、梅子のことが好きだった。俺と一緒になってくれっ」

 その言葉はとても嬉しかった。
 でも、どんなに子どもっぽくても私も、もうお見合いをするくらい大人だ。心に身を任せてその言葉に返事をするには不安も大きかった。

「私、お見合いを逃げ出してここにいるの・・・そのうち探しに来るだろうし、家のことが・・・・・・それに、勇作。貴方の家だって・・・・・・大丈夫なの?」

 そう言うと、勇作は暗い顔になった。私よりも賢いはずの勇作が・・・・・・。本当に桜を折ったせいで馬鹿になってしまったのだろうか。

「俺はおそらく・・・・・・家から絶縁されるじゃろう。だから、裕福な暮らしを保証することも・・・・・・できん。それに、梅子のお父さんやお母さんのことは・・・・・・」

(それでも・・・なのね)

 私は持っていた桜の枝を見つめる。
 本当に勇作は全てを捨ててでも私を選びたいと思ってくれたのだ。私は知っている。勇作が持っていたものを。学があり、財産があり、名誉があり、夢があり・・・・・・それらを捨てでも私を選んでくれたのだ。

「駆け落ち・・・・・・しよっか」

 私は桜の枝を握り締めて、呟いた。

「梅子・・・っ」
 
 唇を震えさせて、今にも泣きそうな勇作。
 私は勇作にだけ悲しい思いと、罪を背負わせてはいけないと思った。

「ねぇ、どこかに家を建てることができたら・・・」

「できたらじゃない。絶対建てられるように、俺は絶対頑張る」

「ありがとう、勇作・・・・・・。その時は、この枝を家の庭に植えましょう」

「・・・・・・あぁっ」

 勇作と私は笑顔で抱き合い、自然とお互いの顔を再び見つめ合い、そして顔を近づけ、瞼を閉じ―――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社をクビになった私。郷土料理屋に就職してみたら、イケメン店主とバイトすることになりました。しかもその彼はーー

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ライト文芸
主人公の佐田結衣は、おっちょこちょいな元OL。とある事情で就活をしていたが、大失敗。 どん底の気持ちで上野御徒町を歩いていたとき、なんとなく懐かしい雰囲気をした郷土料理屋を見つける。 もともと、飲食店で働く夢のあった結衣。 お店で起きたひょんな事件から、郷土料理でバイトをすることになってーー。 日本の郷土料理に特化したライトミステリー! イケメン、でもヘンテコな探偵とともに謎解きはいかが? 恋愛要素もたっぷりです。 10万字程度完結。すでに書き上げています。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

Princess story 〜御曹司とは付き合いません〜

鳴宮鶉子
恋愛
Princess story 〜御曹司とは付き合いません〜

幼馴染以上恋人未満 〜お試し交際始めてみました〜

鳴宮鶉子
恋愛
婚約破棄され傷心してる理愛の前に現れたハイスペックな幼馴染。『俺とお試し交際してみないか?』

帝都の守護鬼は離縁前提の花嫁を求める

緋村燐
キャラ文芸
家の取り決めにより、五つのころから帝都を守護する鬼の花嫁となっていた櫻井琴子。 十六の年、しきたり通り一度も会ったことのない鬼との離縁の儀に臨む。 鬼の妖力を受けた櫻井の娘は強い異能持ちを産むと重宝されていたため、琴子も異能持ちの華族の家に嫁ぐ予定だったのだが……。 「幾星霜の年月……ずっと待っていた」 離縁するために初めて会った鬼・朱縁は琴子を望み、離縁しないと告げた。

crazy Love 〜元彼上司と復縁しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
crazy Love 〜元彼上司と復縁しますか?〜

処理中です...