【４話完結】好きなだけ愛しているとは言わないで

３

　最初は楽しかった。
　けれど、中学に入ると、部活と勉強で忙しくなって手話を覚える余裕が俺には無かった。
　友達も変わり、やりたいことは増え、価値観が変わり、竜崎さんも竜崎さんでなぜか楽しくなさそうにすることが増えた。

『ごめん、別れよう』

『･･････嫌』

『でも･･････』

『･････････分かった』

　俺たちは別れた。
　俺はクラスが違った竜崎さんに別れを手話で告げて、去ろうとすると、竜崎さんが俺の袖を掴んだ。俺が振り返ると、険しい顔をした竜崎さんがいて、俺はビンタされるのを覚悟した。

『言っておかなきゃいけないことがあるの』

『何？』

「ごめんなさい」

　竜崎さんは流ちょうな言葉で俺に謝った。

『桜井さんも、タツヤくんのことが好きだったの。私、それを知ってて、桜井さんにタツヤくんの告白をお願いしたの』

　びっくりした。

（えっ、はっ？　ありえないだろ･･･？）

　桜井とはあれ以来話をしていない。
　幼馴染とはいっても、小学校高学年になれば男女で遊ぶことも減って異性と意識し出したし、恋人でもなければそれが当たり前だと思っていた。だから、疎遠なのも必然だと思っていた。

『いや、にしたって、アイツのせいで･･･俺たちは』

　桜井のせいで俺たちは遠ざけられた。そして、二人の努力が無ければ付き合うことにはならなかった。けれど、付き合っている時にも竜崎さんは罪悪感を覚えていたそうだ。

『仲直りして欲しい。これが最後のお願い』

『･･････最後とか言うな。これからは友達だろ』

『うん。恋の相談にも乗ってね』

『ああ』

　そう言うと、嬉しそうに竜崎さんは笑った。それを見て俺もホッとした。
　手話ができる生徒は少ない。振った男の偽善だったとしても、できる範囲で彼女の役には立ちたいと思っている。それを素直に受け入れてくれて俺は嬉しかったのだ。
　ただ、俺が手伝うまでもなく、竜崎は別の男と付き合った。俺の時よりも幸せそうで嬉しかったけれど、ちょっぴり寂しかった。