上 下
19 / 20

18

しおりを挟む
 深い深い森の中。
 神樹と言われる太く大きな木にの近く、アルピスの山から流れてくる清らかな川のほとり。
 太陽の日当たりがいい場所にぽつんと一軒の立派なおうちがありました。

「結婚式の日は面白かったねぇ」

 その家の中で、椅子に座りながら、外を見るウィルと私。
 ウィルがふと思い出したように私に話しかけてきました。

「急ね、ウィル。でも、えぇ、本当に。あの時のみんなの変わり身の早さにはびっくりしたわ」

 私も私の人生で5本の指に入る様な素晴らしかったできごとの1つ、結婚式を思い出す。みんながみんな自分ができることで私たちの角出を楽しみながらも楽しませてくれた。

「まさか、裁判官が神父様もできるってのはびっくりしたかな」

「あぁ、そうね」

 私たちは裁判と同じように結婚式でも彼の前で真実の言葉を口にした。裁判官は裁判では厳しい顔だったけれど、結婚式ではとても穏やかで慈愛に満ちた顔で私たちを見守ってくれた。

「でも、あの後すぐに死んじゃったから悲しかったわ」

「そうだね・・・。まぁ、幸せな人生だったからこそ、延命魔法やミーシャの奇跡を使わなかったんだろうね」

 裁判官としても神父としても最高の仕事ができたから思い残すことはないと言って、天へと召されて行った。もしかしたら、煉獄の炎に一度は身を入れるかもしれないけれど、彼ならすぐに天国に行けるはずだ。そんなのも魔法で聞こうかウィルは私に聞いてきたけれど、そんな無粋なことはできないと断った。

「でも、リリスとも歩み寄れて良かったね。てか、歩み寄らなきゃ嫌がらせしたかも」

「もー、冗談でも嫌がらせとかやめて」

「いやいや、ミーシャに悪さするやつを許せないに決まってるって何度も言ってるだろ?」

「そーでーすねー」

 結婚してから数年経つけれど、ウィルは私を大事にしてくれる。里帰りのような形で地元に帰ったときに流れ者の山賊に襲われそうになったときもすぐに対峙してくれたので、本当に頼りがいがある。

 そして、ウィルが話をした様にリリスも謝りはしなかったものの「おめでと。幸せになりなさいよ」と上から言ってきた。お灸を据えられたように、きつい地獄を見たリリスは現世でかなり徳を積まないとあの地獄が待っている。あの距離であんなに燃えると言うことは、少し同情してしまう。

「あとは、あの日から悪さをする子どもには、煉獄の炎でやかれちまうよ、って言われるようになったらしいね」

「ふふっ、でも、みんな自分なら大丈夫って返事をするまでがテンプレートでしょ」

 あの国の子どもたちは本当にいい子たちばかりだ。大人も素直になりつつあるし、きっとどんどん良くなっていくはずだ。

「あぁ、さすがはエンブレスの聖女様・・・いや、慈愛に満ち溢れた聖母様かな」

 ウィルは私の愛に溢れたお腹を温かい眼差しで眺めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

入り婿予定の婚約者はハーレムを作りたいらしい

音爽(ネソウ)
恋愛
「お前の家は公爵だ、金なんて腐るほどあるだろ使ってやるよ。将来は家を継いでやるんだ文句は言わせない!」 「何を言ってるの……呆れたわ」 夢を見るのは勝手だがそんなこと許されるわけがないと席をたった。 背を向けて去る私に向かって「絶対叶えてやる!愛人100人作ってやるからな!」そう宣った。 愚かなルーファの行為はエスカレートしていき、ある事件を起こす。

その公女、至極真面目につき〜デラム公女アリスタの婚約破棄ショー〜

ルーシャオ
恋愛
デラム公女アリスタは、婚約者であるクラルスク公爵家嫡男ヴュルストがいつも女性を取っ替え引っ替えして浮気していることにいい加減嫌気が差しました。 なので、真面目な公女としてできる手を打ち、やってやると決めたのです。 トレディエールの晩餐会で、婚約破棄ショーが幕を開けます。

心読みの魔女と異星【ほし】の王子様

凛江
恋愛
キセノン王国の子爵令嬢ディアナは、ある日突然、触れると人の心が読めてしまうという異能を発症した。そしてその異能のせいで家族から疎まれ、婚約も解消される。この国では魔女狩りが横行し、異能のある者は魔女として裁かれるからだ。 やがて家を追い出され殺されかけたディアナを救ってくれたのは、なんと自称【違う星から来た】青年だった。

私がいなくなっても、あなたは探しにも来ないのでしょうね

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族家の生まれではありながらも、父の素行の悪さによって貧しい立場にあったエリス。そんな彼女は気づいた時、周囲から強引に決められる形で婚約をすることとなった。その相手は大金持ちの御曹司、リーウェル。エリスの母は貧しい暮らしと別れを告げられることに喜び、エリスが内心では快く思っていない婚約を受け入れるよう、大いに圧力をかける。さらには相手からの圧力もあり、断ることなどできなくなったエリスは嫌々リーウェルとの婚約を受け入れることとしたが、リーウェルは非常にプライドが高く自分勝手な性格で、エリスは婚約を結んでしまったことを心から後悔する…。何一つ輝きのない婚約生活を送る中、次第に鬱の海に沈んでいくエリスは、ある日その身を屋敷の最上階から投げてしまうのだった…。

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」 謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。 けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。 なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。 そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。 恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

婚約破棄されたおっとり令嬢は「実験成功」とほくそ笑む

柴野
恋愛
 おっとりしている――つまり気の利かない頭の鈍い奴と有名な令嬢イダイア。  周囲からどれだけ罵られようとも笑顔でいる様を皆が怖がり、誰も寄り付かなくなっていたところ、彼女は婚約者であった王太子に「真実の愛を見つけたから気味の悪いお前のような女はもういらん!」と言われて婚約破棄されてしまう。  しかしそれを受けた彼女は悲しむでも困惑するでもなく、一人ほくそ笑んだ。 「実験成功、ですわねぇ」  イダイアは静かに呟き、そして哀れなる王太子に真実を教え始めるのだった。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

処理中です...