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「待ちなさいよっ」

 そう言って、私とウィルが旅立とうとしているのを妹のリリスが止めて来た。

「なに?」

 私は優しくリリスの言いやすいように返事をした。

「結婚式っ」

「あぁ、ちゃんとあなたたちの・・・」

「違うっ!!」

 イライラしながら、否定するリリス。

「・・・お姉様たちの・・・に決まってるじゃない」

 どう決まっているのか教えて欲しい気持もあったけれど、リリスがお姉様と呼んでくれたこと、私たちの結婚式のことを考えてくれたことが嬉しかった。

「来てくれるの?」

「行かないわよ、そんなよくわからないとこっ!!」

 内弁慶と言うか、リリスは新しいことをやるのがビビリなのだ。

「じゃあ、こっちでやるね」

「もー、物分かりが悪いわね、今やりなさいよっ!!」

(いや、絶対あなたの説明不足よ、リリス)

 私も思わず苦笑いしてしまう。

「おっ、それいいね」

 けれど、ウィルはその言葉に乗り気になった。

「そうは言っても準備が・・・」

「ボクを忘れたのかい? 聖女ミーシャ。こういうことなら、ボクの方が得意さっ。それっ」

 ヒュイッ

「わおっ」

「すてき」

「うわぁ~~~っ」

 ウィルが手を振ると、みんなの衣装がパーティー用になる。

 ヒュイッ、ヒュイッ

 ウィルの手から出る光が旗などを吊るしたり、お花の置かれた白いテーブルが生み出されて行く。
 そのままウィルはまるで指揮者の用に手を振って行くと、どんどん盛大なパーティーのようになっていく。

「最後は・・・えいっ」

 火あぶりの刑ように燃やしていた炎を今度は、聖火へと変えて、筒状の柱の一番上から炎が出る形にアレンジしてしまった。

「あぁ、それとキミたちっ」

 ウィルが手を振ると、裁判官たちは黒い服から白い服へと変わった。

「ウィル・・・そんなにみんな単純じゃ・・・」

「よしっ、やろうぜ」

「聖女様の結婚式よっ」

「待ってろ、俺たちの家の野菜を持ってきてやらぁ」

「なら、それを料理するわよ」

「私、音楽が得意だから、楽器を持ってくるわ」

「じゃあ、私は踊る」

「ぼくもぼくも」

 みんながやる気になって、逆にもう止めることができそうもない。
 まったく、裁判と言い、結婚式と言い・・・みんな流されやす過ぎでしょ。

(まぁ、それが人間らしさかもね)

 人間には忘れる機能も備わっている。
 辛いことや悲しいことがあっても、忘れることができるのは、神様の設計ミスか?
 私は違うと思う。

 神様は罰を与えるけれど、煉獄の炎のようにやり直すチャンスもくれる。悔い改めたのであれば、引きずらないようにするための神様の気遣いだと私は思っている。

「さっ、最高のドレスを用意するよ」

 ウィルがそう言うと、

「駄目です」

 そう言って、衣服屋さんが私を連れて行く。

「こういうのは、新郎に見せて驚かせるのも楽しいんですから。ねー、ミーシャ様」

「えっ、あっ、ちょっと」

「ちょっとお待ちください」

 私が拉致されそうになると、お母様が私に近づいてきて、

「これをあなたに」

 そう言って、家宝の赤い宝石を私に握らせて、渡してきた。

「ベールを降ろすのは任せて」

「ヴァージンロードのエスコートは任せなさい」

 お母様もお父様も今日やる気満々だ。
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