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 カンカンッ

 裁判官の鳴らしたカベルの木槌が音を立てる。
 私たちはお互い目を開けて、唇を離す。

 キスをしている最中は理性が働いていなかったけれど、唇を離すと我に返ってとても恥ずかしい気持ちになって、それは魔法使いさんも同じようだった。けれど、私たちは再び視線を交わす。今までなら長々と見つめていれば、恥ずかしくてどちらかが目線を外すものだったけれど、キスをしたせいか、お互いの唇を求めて、視線を外せずにいた。

「ごほんっ、ごっほんっ!!!」

 裁判官がわざとらしい咳をする。
 私たちは照れながらも、裁判官を見る。

「再び問おうミーシャよ。これは魔法か?」

「・・・は」

「違いますよ。ミスター」

 私が返事をしようとすると、魔法使いさんが間に入る。

(えっ、ダメよ。魔法使いさんっ)

 魔女狩りと言ったって、魔法使いだって処刑は十分にありうる。
 私が魔法使いさんを止めようとするけれど、魔法使いさんは私を守るように、私を庇った。

「彼女が使ったのは、魔法を超えた力。奇跡です。それは魔法使いであるこのジョン=ウィルが証言しましょう」

(あれ・・・)

 私はみんながざわつくのだろうと思っていたけれど、みんなその言葉を素直に聞いていた。

「ボクが神から借りて来た真実の煉獄の炎。それによってみなさんは苦しんだ。神は試練を与えるものであり、罰を与えるもの。だから、みなさんが苦しんでいるのは必然。罪を償い、清めてはい、リセットだと思ってました」

 うん、かっこつけて言うのが、面倒くさくなったのだろう、セリフの最後の方は少し適当だった。

「でも、彼女は違った」

 魔法使いさんは私を見つめて、
 
「彼女は神の与えた苦しみからでさえ、みなさんを救ってあげたいと思った。ボクはそんな彼女が大好きだ」

 と言った。
 私はとても気恥ずかしかったし、とても嬉しかった。

「だから、みなさんは煉獄の炎から逃れ、清々しい気持でいられるのです。もし、これがボクの作った偽物の魔法の炎でみんなを苦しめたのだと言う人がいるのであれば、信じなくてもいい。今のその清々しさが洗脳だと思うのなら、良いよ、別に。疑心暗鬼で自ら不幸になっていけばいいさ。ボクを裁こうとしても、キミらには裁けないし、ボクはキミたちに興味がないし、さっきの炎で焼かれる様な心が醜い人と話をしたくない」

 魔法使いさんは手から空に向けて、綺麗な炎を放出した。

「それと、ミーシャをまだ殺そうとするなら、ボクは世界を壊したくなる」

「魔法使いさん・・・」

「でもね、ミーシャはこういう子なんだよ。ミーシャのお父さんとお母さんと同じ、人の痛みが分かる優しい人の子なんだよ。ミーシャのやったことは神の御業に等しい奇跡だ。ボクは彼女は神に等しいと思っているけれど、彼女は人に一方的に与える存在になるんじゃなくて、人と寄り添う人間になろうとしてるんだ。こんな、聖なる乙女、聖女を殺そうとするなんて、世界一の損失だよ。本当にそれでいいのかい? 人間」

 魔法使いさんは裁判官たちを真っすぐした瞳で見つめた。
 どちらが、どちらを裁いているのか。私にはわからなくなってきた。
 そして、私は一つ魔法使いさんの言葉で切なくなった。

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