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「ギャアアアアアアッ!!!」

 リリスの肌はただれて、炎を振り払うように身体を振り回すけれど、その炎はリリスを逃さない。

「だずげでええええっ」

「くっ、くるなっ」

 アレクに助けを求めたリリスだったけれど、アレク自身も私を焼くはずだった炎の風だけで苦しそうなのにリリスの炎なんて耐えられないと鼻水や涙を流して逃げる。

 まさに地獄。

「やめてよ・・・やめて・・・っ。魔法使いさん」

 私は手を組んで祈る。

「なぜだい? キミの罪を煉獄の炎で裁きたいというご所望に合わせて、煉獄からわざわざ取り寄せたのに」

 私の背中の高い位置から優しく純粋な男性の声が聞こえた。
 振り向かなくても、こんな状況でも心に余裕を忘れない人は間違いない、魔法使いさんだ。

「妹なの・・・」

 私は振り向かずに魔法使いさんに話しかける。

「キミを殺そうとしたのに?」

「ええ・・・そうよ」

「まぁ、血は繋がっていないけれどね」

「えっ」

 私が振り返ると、懐かしい顔をした魔法使いさんがいた。
 別れてから、数年経っていると言うのに魔法使いさんは老いることなく、あの頃と同じ顔をしていて、私が歳を取ったせいなのか、若返ったようにも見えた。

 パチンッ

 魔法使いさんが指を鳴らすと、世界が止まる。
 先ほどはチェンジの魔法、今度はポーズの魔法だ。

「久しぶり、ミーシャ」

「お久しぶりです、魔法使いさん」

 こんな状況だったのに、久しぶりに魔法使いさんに会えて、こみ上げてくるものがある。
 それは相も変わらず、詠唱無しで膨大な魔法を涼しい顔でする師匠に対して弟子としての気持ちと、あとは・・・もしかしたら、初めての気持ち?

「それにしても、外界は空気が悪い」

 私が自分の気持ちを分析しようとしているのなんて、お構いなしに魔法使いさんは周りを見渡す。
 大人たちは周りの人を風よけにしたり、相手を払いのけてでも煉獄の炎の風から逃げようとしていた。
 確かに普段見たら怖さしかないけれど、私はこの必死な人間らしさを嫌いにはなれなかった。

 恩人でもあり、その・・・じつは・・・・・・私の初恋でもあった魔法使いさん。
 あの穢れなき場所にいた魔法使いさんがそう仰る気持ちもわからないわけではないけれど、人間を捨てきれない私は少し悲しくもあり、なんとも言えなかった。

(だって・・・)

 私はお父様とお母様を見る。
 きっと鎮火するためだろう。
 お父様は自身の上着を脱ぎながら、炎に苦しんでいるリリスの元へと走っている。

「そうそう。彼女は捨て子だよ? アナライズを使わなかったのかい?」

(捨て子・・・)

「彼女はそれをキミのお父さんとお母さんから聞かされて、コンプレックスを抱えていたようだよ。だから、キミを殺して、キミから全てを奪えば自分は幸せになれると考えた」

 魔法使いさんに言われてもう一度、リリスを見る。
 その言葉のせいか、リリスの顔はどんな叫びよりも悲痛で、誰かに愛情に求めている孤独な顔に見えた。
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