8 / 20
7
しおりを挟む
「ギャアアアアアアッ!!!」
リリスの肌はただれて、炎を振り払うように身体を振り回すけれど、その炎はリリスを逃さない。
「だずげでええええっ」
「くっ、くるなっ」
アレクに助けを求めたリリスだったけれど、アレク自身も私を焼くはずだった炎の風だけで苦しそうなのにリリスの炎なんて耐えられないと鼻水や涙を流して逃げる。
まさに地獄。
「やめてよ・・・やめて・・・っ。魔法使いさん」
私は手を組んで祈る。
「なぜだい? キミの罪を煉獄の炎で裁きたいというご所望に合わせて、煉獄からわざわざ取り寄せたのに」
私の背中の高い位置から優しく純粋な男性の声が聞こえた。
振り向かなくても、こんな状況でも心に余裕を忘れない人は間違いない、魔法使いさんだ。
「妹なの・・・」
私は振り向かずに魔法使いさんに話しかける。
「キミを殺そうとしたのに?」
「ええ・・・そうよ」
「まぁ、血は繋がっていないけれどね」
「えっ」
私が振り返ると、懐かしい顔をした魔法使いさんがいた。
別れてから、数年経っていると言うのに魔法使いさんは老いることなく、あの頃と同じ顔をしていて、私が歳を取ったせいなのか、若返ったようにも見えた。
パチンッ
魔法使いさんが指を鳴らすと、世界が止まる。
先ほどはチェンジの魔法、今度はポーズの魔法だ。
「久しぶり、ミーシャ」
「お久しぶりです、魔法使いさん」
こんな状況だったのに、久しぶりに魔法使いさんに会えて、こみ上げてくるものがある。
それは相も変わらず、詠唱無しで膨大な魔法を涼しい顔でする師匠に対して弟子としての気持ちと、あとは・・・もしかしたら、初めての気持ち?
「それにしても、外界は空気が悪い」
私が自分の気持ちを分析しようとしているのなんて、お構いなしに魔法使いさんは周りを見渡す。
大人たちは周りの人を風よけにしたり、相手を払いのけてでも煉獄の炎の風から逃げようとしていた。
確かに普段見たら怖さしかないけれど、私はこの必死な人間らしさを嫌いにはなれなかった。
恩人でもあり、その・・・じつは・・・・・・私の初恋でもあった魔法使いさん。
あの穢れなき場所にいた魔法使いさんがそう仰る気持ちもわからないわけではないけれど、人間を捨てきれない私は少し悲しくもあり、なんとも言えなかった。
(だって・・・)
私はお父様とお母様を見る。
きっと鎮火するためだろう。
お父様は自身の上着を脱ぎながら、炎に苦しんでいるリリスの元へと走っている。
「そうそう。彼女は捨て子だよ? アナライズを使わなかったのかい?」
(捨て子・・・)
「彼女はそれをキミのお父さんとお母さんから聞かされて、コンプレックスを抱えていたようだよ。だから、キミを殺して、キミから全てを奪えば自分は幸せになれると考えた」
魔法使いさんに言われてもう一度、リリスを見る。
その言葉のせいか、リリスの顔はどんな叫びよりも悲痛で、誰かに愛情に求めている孤独な顔に見えた。
リリスの肌はただれて、炎を振り払うように身体を振り回すけれど、その炎はリリスを逃さない。
「だずげでええええっ」
「くっ、くるなっ」
アレクに助けを求めたリリスだったけれど、アレク自身も私を焼くはずだった炎の風だけで苦しそうなのにリリスの炎なんて耐えられないと鼻水や涙を流して逃げる。
まさに地獄。
「やめてよ・・・やめて・・・っ。魔法使いさん」
私は手を組んで祈る。
「なぜだい? キミの罪を煉獄の炎で裁きたいというご所望に合わせて、煉獄からわざわざ取り寄せたのに」
私の背中の高い位置から優しく純粋な男性の声が聞こえた。
振り向かなくても、こんな状況でも心に余裕を忘れない人は間違いない、魔法使いさんだ。
「妹なの・・・」
私は振り向かずに魔法使いさんに話しかける。
「キミを殺そうとしたのに?」
「ええ・・・そうよ」
「まぁ、血は繋がっていないけれどね」
「えっ」
私が振り返ると、懐かしい顔をした魔法使いさんがいた。
別れてから、数年経っていると言うのに魔法使いさんは老いることなく、あの頃と同じ顔をしていて、私が歳を取ったせいなのか、若返ったようにも見えた。
パチンッ
魔法使いさんが指を鳴らすと、世界が止まる。
先ほどはチェンジの魔法、今度はポーズの魔法だ。
「久しぶり、ミーシャ」
「お久しぶりです、魔法使いさん」
こんな状況だったのに、久しぶりに魔法使いさんに会えて、こみ上げてくるものがある。
それは相も変わらず、詠唱無しで膨大な魔法を涼しい顔でする師匠に対して弟子としての気持ちと、あとは・・・もしかしたら、初めての気持ち?
「それにしても、外界は空気が悪い」
私が自分の気持ちを分析しようとしているのなんて、お構いなしに魔法使いさんは周りを見渡す。
大人たちは周りの人を風よけにしたり、相手を払いのけてでも煉獄の炎の風から逃げようとしていた。
確かに普段見たら怖さしかないけれど、私はこの必死な人間らしさを嫌いにはなれなかった。
恩人でもあり、その・・・じつは・・・・・・私の初恋でもあった魔法使いさん。
あの穢れなき場所にいた魔法使いさんがそう仰る気持ちもわからないわけではないけれど、人間を捨てきれない私は少し悲しくもあり、なんとも言えなかった。
(だって・・・)
私はお父様とお母様を見る。
きっと鎮火するためだろう。
お父様は自身の上着を脱ぎながら、炎に苦しんでいるリリスの元へと走っている。
「そうそう。彼女は捨て子だよ? アナライズを使わなかったのかい?」
(捨て子・・・)
「彼女はそれをキミのお父さんとお母さんから聞かされて、コンプレックスを抱えていたようだよ。だから、キミを殺して、キミから全てを奪えば自分は幸せになれると考えた」
魔法使いさんに言われてもう一度、リリスを見る。
その言葉のせいか、リリスの顔はどんな叫びよりも悲痛で、誰かに愛情に求めている孤独な顔に見えた。
10
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
薬屋の一人娘、理不尽に婚約破棄されるも……
四季
恋愛
薬屋の一人娘エアリー・エメラルドは新興領地持ちの家の息子であるカイエル・トパーヅと婚約した。
しかし今、カイエルの心は、エアリーには向いておらず……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
【完結】無能に何か用ですか?
凛 伊緒
恋愛
「お前との婚約を破棄するッ!我が国の未来に、無能な王妃は不要だ!」
とある日のパーティーにて……
セイラン王国王太子ヴィアルス・ディア・セイランは、婚約者のレイシア・ユシェナート侯爵令嬢に向かってそう言い放った。
隣にはレイシアの妹ミフェラが、哀れみの目を向けている。
だがレイシアはヴィアルスには見えない角度にて笑みを浮かべていた。
ヴィアルスとミフェラの行動は、全てレイシアの思惑通りの行動に過ぎなかったのだ……
主人公レイシアが、自身を貶めてきた人々にざまぁする物語──
夫のかつての婚約者が現れて、離縁を求めて来ました──。
Nao*
恋愛
結婚し一年が経った頃……私、エリザベスの元を一人の女性が訪ねて来る。
彼女は夫ダミアンの元婚約者で、ミラージュと名乗った。
そして彼女は戸惑う私に対し、夫と別れるよう要求する。
この事を夫に話せば、彼女とはもう終わって居る……俺の妻はこの先もお前だけだと言ってくれるが、私の心は大きく乱れたままだった。
その後、この件で自身の身を案じた私は護衛を付ける事にするが……これによって夫と彼女、それぞれの思いを知る事となり──?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
妹の嘘を信じた王子は私との婚約を破棄してきましたが、その後私には良き出会いがありました。~悪しき者には罰がくだるでしょう~
四季
恋愛
最高位精霊遣いであるレルフィアはオロレット王国の王子レブス・オロレットと婚約していた。
しかし裏ではレルフィアの妹がミルキーがレブスに嘘を吹き込んでいて。
その話を信じたレブスはレルフィアとの婚約を一方的に破棄し彼女を城から追放するのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる