1 / 1
明日が地球最後の日だったら。
しおりを挟む
下校のバスの中。
ど田舎のバスなので、乗る人は限られており、今日は私とハルトだけ。
18年間にも続く腐れ縁の幼馴染のハルトと私はほぼ指定席になっているバスの一番後ろの右端と左端に座る。同じ高校に通っているけれど、昔のようにクラスが一クラスしかないわけではないので、クラスが別になり、帰宅も部活の終了時間が異なるので、同席することもほとんどなく、ほとんど話をしていなかった。
「なぁ、イチカ。もし、明日が地球最後の日だったら、何する?」
けれど、お互い部活動を引退し、バスに乗る時間が同じになったので、再び話をするようになった。とはいえ、空白の2年間はなかなか埋めることはできず、昔のように些細なことでキャッキャ盛り上がって話をすることはない。ハルトなんか質問したくせにスマホでゲームをしている。昔は肩がぶつかるくらいの距離で話をしていたのに。
「観たかったけど、まだ観れていない映画を全部見る」
私はハルトに対抗するように、ハルトを見ずに正面を見て回答する。このバスの右端から左端の距離を私から縮めるつもりはない。それに、このままいけば、来年にはお互い別の大学へと進学する。腐れ縁もここまでだ。
「ふっ、しょーもな」
スマホの画面を連打しながら、私の回答を鼻で笑うエイト。せっかく回答してあげたのにそんな仕打ち。私もさすがに腹が立った。
「しょーもないのは、この質問でしょっ。じゃあ、ハルトは何するのよ?」
さぞ、面白い回答をしてくれるのだろう。
(でも、私は絶対に笑わないし、絶対に感心しないし、絶対に同意なんてしてやるものか)
私は鉄の意志を心に秘めて、ほくそ笑んでハルトの回答を待つ。ハルトは丁度ゲームが終わったのか、ゲームをポケットに仕舞い、私を真剣な瞳でまじまじと見つめてくる。
「オレは、こうやってイチカとしょーもない時間を過ごしたい。最後の、その一瞬まで」
私の鉄の意志は温かい気持ちで簡単に溶けてしまった。
私ははやる気持ちを抑えながら、真ん中の方へ座る位置をずらした。すると、ハルトは私の隣、肩の触れ合う位置まで来た。私たちの距離は縮まることはないと自分に言い聞かせていたけれど、昔とは違い、同郷の仲としてではなく、男女の仲として近づくことになった。
どちらからということもなく、私たちは指を絡めた。ただ、どんなに身体の距離を縮めたとしても、ハルトの心も私の心も、「もし、私たちが男女の仲になったらどうする? というかなったんだけどどうする?」という問に対して、「そんなの信じられない」と言っているのか、現実を見ようとせず、お互い顔を見ることができなかった。
どうやら、キスは当分先に違いない―――とも言えないか。
だって、2年間で埋まらなかった距離が一言にして一瞬で近づいたのだから。
ど田舎のバスなので、乗る人は限られており、今日は私とハルトだけ。
18年間にも続く腐れ縁の幼馴染のハルトと私はほぼ指定席になっているバスの一番後ろの右端と左端に座る。同じ高校に通っているけれど、昔のようにクラスが一クラスしかないわけではないので、クラスが別になり、帰宅も部活の終了時間が異なるので、同席することもほとんどなく、ほとんど話をしていなかった。
「なぁ、イチカ。もし、明日が地球最後の日だったら、何する?」
けれど、お互い部活動を引退し、バスに乗る時間が同じになったので、再び話をするようになった。とはいえ、空白の2年間はなかなか埋めることはできず、昔のように些細なことでキャッキャ盛り上がって話をすることはない。ハルトなんか質問したくせにスマホでゲームをしている。昔は肩がぶつかるくらいの距離で話をしていたのに。
「観たかったけど、まだ観れていない映画を全部見る」
私はハルトに対抗するように、ハルトを見ずに正面を見て回答する。このバスの右端から左端の距離を私から縮めるつもりはない。それに、このままいけば、来年にはお互い別の大学へと進学する。腐れ縁もここまでだ。
「ふっ、しょーもな」
スマホの画面を連打しながら、私の回答を鼻で笑うエイト。せっかく回答してあげたのにそんな仕打ち。私もさすがに腹が立った。
「しょーもないのは、この質問でしょっ。じゃあ、ハルトは何するのよ?」
さぞ、面白い回答をしてくれるのだろう。
(でも、私は絶対に笑わないし、絶対に感心しないし、絶対に同意なんてしてやるものか)
私は鉄の意志を心に秘めて、ほくそ笑んでハルトの回答を待つ。ハルトは丁度ゲームが終わったのか、ゲームをポケットに仕舞い、私を真剣な瞳でまじまじと見つめてくる。
「オレは、こうやってイチカとしょーもない時間を過ごしたい。最後の、その一瞬まで」
私の鉄の意志は温かい気持ちで簡単に溶けてしまった。
私ははやる気持ちを抑えながら、真ん中の方へ座る位置をずらした。すると、ハルトは私の隣、肩の触れ合う位置まで来た。私たちの距離は縮まることはないと自分に言い聞かせていたけれど、昔とは違い、同郷の仲としてではなく、男女の仲として近づくことになった。
どちらからということもなく、私たちは指を絡めた。ただ、どんなに身体の距離を縮めたとしても、ハルトの心も私の心も、「もし、私たちが男女の仲になったらどうする? というかなったんだけどどうする?」という問に対して、「そんなの信じられない」と言っているのか、現実を見ようとせず、お互い顔を見ることができなかった。
どうやら、キスは当分先に違いない―――とも言えないか。
だって、2年間で埋まらなかった距離が一言にして一瞬で近づいたのだから。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【7】父の肖像【完結】
ホズミロザスケ
ライト文芸
大学進学のため、この春に一人暮らしを始めた娘が正月に帰って来ない。その上、いつの間にか彼氏まで出来たと知る。
人見知りの娘になにがあったのか、居ても立っても居られなくなった父・仁志(ひとし)は、妻に内緒で娘の元へ行く。
短編(全七話)。
「いずれ、キミに繋がる物語」シリーズ七作目(登場する人物が共通しています)。単品でも問題なく読んでいただけます。
※当作品は「カクヨム」「小説家になろう」にも同時掲載しております。(過去に「エブリスタ」にも掲載)
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
スパイスカレー洋燈堂 ~裏路地と兎と錆びた階段~
桜あげは
ライト文芸
入社早々に躓く気弱な新入社員の楓は、偶然訪れた店でおいしいカレーに心を奪われる。
彼女のカレー好きに目をつけた店主のお兄さんに「ここで働かない?」と勧誘され、アルバイトとして働き始めることに。
新たな人との出会いや、新たなカレーとの出会い。
一度挫折した楓は再び立ち上がり、様々なことをゆっくり学んでいく。
錆びた階段の先にあるカレー店で、のんびりスパイスライフ。
第3回ライト文芸大賞奨励賞いただきました。ありがとうございます。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で2/20頃非公開予定ですが読んでくださる方が増えましたので先延ばしになるかもしれませんが宜しくお願い致します。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
猫にまつわる三択人生の末路
ねこ沢ふたよ
ライト文芸
街で黒猫を見かけた・・・さてどうする?
そこから始まる三択で行方が変わります。
超簡単なゲームブックです。
基本コメディで楽しく遊べる内容を目指しています。
彼女は『好き』という方程式が解けない【読み切り】
カシューナッツ
恋愛
女の子を、しかも親友を好きだなんて絶対に言えない。
長い髪に触れたいなんて思ったなんて絶対に言えない。
そう恋を騙し、自分も騙し、親友であり続けようとした私──二条奏。
それでも良かった。
そうするつもりだった。
高校最後の冬が来る。別れの冬が──。 ソフトGLです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる