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オリバーを燃やしてから数十年なのか数百年なのか。分からないが、時が経った。
オリバーがいない日々は始めは寂しかった気がするけれどどれくらい前なのか分からない。
寿命があったオリバーの変化を見たり、彼が季節を教えてくれるから私は日々を数えていたのであって、彼がいなくなれば、わざわざ季節も感じず、同じような毎日を淡々と過ごすだけだった。不自由なことなんて一切ない。だって、私の周りには眷属がいるのだから。
でも、眷属は健康のために外に出ようなんて的外れなアドバイスはしてくれない。
でも、眷属は面白い話を自らしないし、質問もしない。
でも、眷属は感情に任せて私を求めない。
「退屈だわ・・・・・・」
いっそのこと、この森の外に出てみようかしら。
そうすれば、退屈しない毎日が待っているかもしれない。
「いいえ、ダメだわ。外の世界にはハンターがいる。嘘つきも、欲張りも、傲慢もたくさんいるはずだわ」
人間は弱い。
けれど、人間はたくさんいるし、知識があるし、弱さを言い訳にしてせこい。
さすがの私でも、多勢に無勢で倒されてしまうだろう。痛い思いをするのは嫌だし、醜い人間共を見てイライラするのも、自分より下等な人間に正体がバレないように暮らすなんて屈辱も耐えられるはずがないのだ。
「となると・・・・・・」
私はヴァンパイア城を離れて、森に出た。
森に出れば、動物たちがいるだろうし、眷属に任せてきたけれど、狩りをしてもいい。もしくは、愛でてやるのも一興だ。
(そういえば・・・・・・あの時も)
同じようなことを考えながら歩いていた。
そして、同じ崖の下に到着すると、
「あっ」
人がいた。
男性だ。
永遠を生きる私の心は身体以上に冷めている。
なのに、私の胸の奥にある心は鼓動を打ち、体中が火照るのを感じる。
柄にも無く私は走って彼に駆け寄った。
「大丈夫・・・・・・ですか?」
「いやあ・・・・・・足を滑らせてしまって・・・・・・あっ」
私の見つめる先には私の好きな色の青い瞳があった。
「今・・・・・・大丈夫になりました」
(人間というのは本当に強欲だ)
「でも、泣いていますよ?」
(そして、弱い・・・・・・けど、一人なら・・・・・・この男なら可愛い)
「貴女様だって、目を真っ赤にして泣いてますよ?」
「愚かな人間。これは、元からです」
「嘘つきですね」
「何が嘘なものですか」
「だって・・・・・・もう泣かないでって言ったら、うん、と言ってくださったじゃないですか」
(やっぱり)
「それはオリバーに言ったものです」
「じゃあ、ボクだ」
「アナタが嘘つきでしょ」
「いいえ、ボクが今もあの時もオリバーで、貴女様を手に入れるために、神様に大切にしたい女性がいるからってお願いして記憶をそのままに生まれ変わって帰って来たんです」
「それなら、やっぱり嘘つきじゃない」
「ヴァンパイアであるスカーレット様が神様をお疑いになられるのですか?」
「いいえ、そうじゃないわ。アナタ、それじゃあ一生じゃなくて、二生じゃない」
「・・・・・・じゃあ、懺悔します。前回も、前々回も、そして今回も、貴女様を襲いに来ました」
そう言って、私を抱きしめるオリバー。
「愛しています。スカーレット様っ」
(そう、アナタはそれでいい・・・・・・それがいいっ)
嘘つきで、強欲で、傲慢で。
感情の起伏が少ないと言われるヴァンパイアの私の心を揺さぶり、愛による奇跡の力で何度も蘇って私のところに来るオリバーのことを・・・・・・
「愛しているわ、私の・・・・・・運命の人」
そう、呼ばざるを得ないようだ。
私たちは森の中であるにも関わらず、数十年なのか数百年ぶりに愛を確かめ合った。
―――新たな奇跡を産むことも知らずに
~fin~
Thank you for reading
オリバーがいない日々は始めは寂しかった気がするけれどどれくらい前なのか分からない。
寿命があったオリバーの変化を見たり、彼が季節を教えてくれるから私は日々を数えていたのであって、彼がいなくなれば、わざわざ季節も感じず、同じような毎日を淡々と過ごすだけだった。不自由なことなんて一切ない。だって、私の周りには眷属がいるのだから。
でも、眷属は健康のために外に出ようなんて的外れなアドバイスはしてくれない。
でも、眷属は面白い話を自らしないし、質問もしない。
でも、眷属は感情に任せて私を求めない。
「退屈だわ・・・・・・」
いっそのこと、この森の外に出てみようかしら。
そうすれば、退屈しない毎日が待っているかもしれない。
「いいえ、ダメだわ。外の世界にはハンターがいる。嘘つきも、欲張りも、傲慢もたくさんいるはずだわ」
人間は弱い。
けれど、人間はたくさんいるし、知識があるし、弱さを言い訳にしてせこい。
さすがの私でも、多勢に無勢で倒されてしまうだろう。痛い思いをするのは嫌だし、醜い人間共を見てイライラするのも、自分より下等な人間に正体がバレないように暮らすなんて屈辱も耐えられるはずがないのだ。
「となると・・・・・・」
私はヴァンパイア城を離れて、森に出た。
森に出れば、動物たちがいるだろうし、眷属に任せてきたけれど、狩りをしてもいい。もしくは、愛でてやるのも一興だ。
(そういえば・・・・・・あの時も)
同じようなことを考えながら歩いていた。
そして、同じ崖の下に到着すると、
「あっ」
人がいた。
男性だ。
永遠を生きる私の心は身体以上に冷めている。
なのに、私の胸の奥にある心は鼓動を打ち、体中が火照るのを感じる。
柄にも無く私は走って彼に駆け寄った。
「大丈夫・・・・・・ですか?」
「いやあ・・・・・・足を滑らせてしまって・・・・・・あっ」
私の見つめる先には私の好きな色の青い瞳があった。
「今・・・・・・大丈夫になりました」
(人間というのは本当に強欲だ)
「でも、泣いていますよ?」
(そして、弱い・・・・・・けど、一人なら・・・・・・この男なら可愛い)
「貴女様だって、目を真っ赤にして泣いてますよ?」
「愚かな人間。これは、元からです」
「嘘つきですね」
「何が嘘なものですか」
「だって・・・・・・もう泣かないでって言ったら、うん、と言ってくださったじゃないですか」
(やっぱり)
「それはオリバーに言ったものです」
「じゃあ、ボクだ」
「アナタが嘘つきでしょ」
「いいえ、ボクが今もあの時もオリバーで、貴女様を手に入れるために、神様に大切にしたい女性がいるからってお願いして記憶をそのままに生まれ変わって帰って来たんです」
「それなら、やっぱり嘘つきじゃない」
「ヴァンパイアであるスカーレット様が神様をお疑いになられるのですか?」
「いいえ、そうじゃないわ。アナタ、それじゃあ一生じゃなくて、二生じゃない」
「・・・・・・じゃあ、懺悔します。前回も、前々回も、そして今回も、貴女様を襲いに来ました」
そう言って、私を抱きしめるオリバー。
「愛しています。スカーレット様っ」
(そう、アナタはそれでいい・・・・・・それがいいっ)
嘘つきで、強欲で、傲慢で。
感情の起伏が少ないと言われるヴァンパイアの私の心を揺さぶり、愛による奇跡の力で何度も蘇って私のところに来るオリバーのことを・・・・・・
「愛しているわ、私の・・・・・・運命の人」
そう、呼ばざるを得ないようだ。
私たちは森の中であるにも関わらず、数十年なのか数百年ぶりに愛を確かめ合った。
―――新たな奇跡を産むことも知らずに
~fin~
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