大浴場がないってどういうことです? 悪役令嬢は婚約破棄して、僻地でドワーフと温泉を発掘します。

西東友一

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「もっ、申し遅れました。私はユーフェミア・シュバイン・アズベルトです」

「アズベルト・・・・・・? 知らない名前だ」

 その男性はファミリーネームを聞いて、私を見定めるように見る。

「あなたは、クロムウェル様ですか?」

「他の誰がこの家に住んでいると思っているんだ・・・・・・まったく。まぁ、いい。立ち話もなんだ。中に入れ」

 そう言って、扉に開けようとする男性。

「あの、カギは?」

 私が質問すると、クロムウェルは振り返り、私を見てニヤッと笑い、

「見てろっ」

 と言いながら、ドアノッカーの黒ジャガーの頭を撫でる。すると、先ほどまでただの金属だったはずの黒ジャガーが生きているかのようにあくびをしながら、首を回す。

 カチャッ

 黒ジャガーの首が一周すると、カギが開いた音がした。そして、重そうな扉は開き、クロムウェルは入っていくので、私も一緒に入る。

「うむ、コソ泥ではないようだな」

 チッと舌打ちするクロムウェル。

「どういうことですか?」

「なーに、もし、悪意がある者が扉を通れば、そこの黒ジャガーが喉笛を噛みちぎっていたからだ」

 私は背筋がぞっとして、首が涼しく感じた。私は首を擦りながら、クロムウェルとの距離を詰めると、クロムウェルは愉悦を覚えた顔をしていた。

(この人と、都築くんを重ねた私が馬鹿だったわっ)

 私はクロムウェルから魔法を教わることなんて忘れて、プンプンしながら彼に着いていった。

「そこに座って構わない」

 家の中も外観よりは幾分かましだったが、ボロい、と言うよりはホコリっぽくて、彼が指さした椅子はホコリを被っていた。

(これは・・・・・・踏み絵じゃないわよね?)

 私はちらっとクロムウェルを見るが、飲み物の準備をしている様子で、こちらに興味を全く示していない。私はそっと、手で椅子のホコリを払って、綺麗になったところに座る。

「さっ、それで今回はどういった用件だ」

 私の前に紅茶のカップを置きながら話すクロムウェル。私は美味しそうだと思って、口元までカップを運ぶと、クロムウェルが笑っているのが目に入った。

(もっ、もしかして・・・毒が入っているんじゃ?)

「どうした? 温かいうちに飲まないのか?」

 そう言って、自分の紅茶を飲むクロムウェル。どうやら、紅茶自体には毒はなさそうだけれど、相手は魔法使い。そして、私は魔法の知識0。さっきの黒ジャガーの件もあったし、自分は大丈夫なようになっている罠かもしれないし、もしかしたら・・・・・・

「媚薬とか入ってませんよね?」

 ブーーーーッ

 うわ、最低だ。

 クロムウェルの口に含んだ紅茶が私の髪や、顔を汚した。
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