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アナザーストーリー

AS4 剛剣と師匠 ダンゼンの師匠

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 ギオンヌが腕を切断した。

「きゃーーーっ」

 貴族の女性たち中心に騒ぎ出す。

「何を・・・しているのだ。貴様はっ」

 指示したはずのボトム公爵が一番びっくりしている。
 しかし、ギオンヌはボトム公爵の指示通りダンゼンの右腕を切ったのではなく、自分の右腕を切ったのだ。

「しっ、止血をっ」

 ラッセルが従者のツェペリに指示をして、ツェペリが急いで止血を始める。

「まったく、ご無茶を」

「へへっ、おいらは馬鹿だから・・・身体を張んねえと・・・よ」

「痛いと思いますが、我慢をっ」

「くっ」

 ツェペリがギオンヌの腕を一気に腕を締め付ける。

「大丈夫そうか、ツェペリ」

「はい、ラッセル様。これでなんとか一命は取り留めたかと思われます」

 ラッセルがギオンヌの腕を見ると、勢いよく流れていた血が、滴る程度になっていた。

「弟子の腕よりも師匠の腕の方が価値がありまっせ。ボトム公爵。なので、これで落とし前ってことで・・・お願いいたしますわ」

 右腕を無くしながら、出血しながらも頭を下げるギオンヌに恐怖を覚えたボトム公爵。それは、タングスがダンゼンに恐怖を覚えた以上の恐怖だった。

(こいつら、頭がおかしい。こんな奴らを推挙したとなれば・・・私の品位に関わるっ)

 ボトム公爵はその言葉を一蹴しようと思った。自分がこいつの頭はおかしいと言えば、貴族たちも賛同するしてくれるだろうと。

 しかし、ボトム公爵は自分に対しての強い視線を感じる。
 フリードリヒ家のラッセルだ。

 ボトム家の方が歴史が長く、王家への信頼も厚い。しかし、この頃、外交戦略や商いで大成功を収め、国の発展寄与して台頭してきたフリードリヒ家のラッセルが再度異を唱えれば、状況は一変する可能性がある。

 フリードリヒ家の前で支持を得ようとして、意見が二分した時、負けてしまうことは今後の、貴族として序列に影響しかねないとボトム公爵は考えた。
 
「ぐぬぬぬぬっ」

(何か、何か・・・ないかっ、打開策はっ!?)
 どちらを取っても、ボトム公爵にとってはデメリットしかない。

「・・・その腕に一体どれほどの価値があったかわからない以上、それで手落ちというのはいかがかと」

「失礼ですが、貴方は?」

 足音を一切させずに近寄ってきた金髪の騎士に、ラッセルは警戒しながら尋ねる。

「申し遅れました。私はギレット。柔剣を扱っている聖騎士にございます」

 綺麗な顔をしていたが、生気のない瞳はどこの何を捉えているのかわからず、マリオネットのような男だとラッセルは思った。

「おおっ、彼が噂のキラービー。狙った獲物を瞬殺するという男か」

 貴族たちがざわつく。

「しかし、ギレット氏。彼はこの通り腕を落としました。それでも足りないと言うにはいささか、お求め過ぎでは」

「はははっ、ラッセル様。私たちは商いをしているのではありません。それに、この国ではいささか、剛剣が増えてまいりましたが、腑抜けが多い。ボトム公爵が仮にそのダンゼンという男を推挙して、彼が先ほどのように無防備な貴族に剣を向けたとなれば、この国とっても、推挙されるボトム公爵にもよろしくありません」

「むむっ、そうだな。いやはや、さすがギレット。柔剣の使い手は立ち振る舞いがわかっているな。はっはっはっ」

(でかした、ギレット。そして、ギレットを呼んでおいて本当によかったぁ)

 ボトム公爵は再び笑顔を取り戻す。

「そうです、そんなに彼を聖騎士にしたいのであれば、貴殿が推挙すればいいのでは?ラッセル様」

(いいぞ、いいぞ。ギレットっ!!もっと言えっ)

「・・・それはできかねます」

「それはなぜ?」

「我家はそれにたりうる王家からの信頼がないからです・・・っ」

(よし、よく言わせたぞ、ギレットっ!!これで・・・)

 ボトム公爵は周りを見る。
 フリードリヒ家とボトム家の情勢がボトム家に有利に傾いたのがボトム公爵には目に取るようにわかった。

「おい、ギレット。久しぶりにあったのに、ひでーこというじゃねえか。怪我にをいじめて楽しいか、おいっ」

「情けない姿が、さらに情けなくなりましたな、ギオンヌ」

「てめーみたいな狡い奴がいるから、剛剣が死ぬんだよ。兄いもてめえが協力していれば死ぬことも無かったっ。この腰抜けがっ」

「ふっ、それを貴方が言いますか、ギオンヌ。貴方が逃げなければその青年も簡単に聖騎士に慣れたでしょうに」

「馬鹿言え、お前がいたんじゃ成長する前に前線で殺されちまう。前にも後ろにも敵がいたんじゃ最強になる男、ダンゼンだってひとたまりもないぜ」

「誹謗中傷は僻みからですか?ギオンヌ。どちらにしても、戦いの場から逃げた貴方の腕など安いんですよ」

「んだとぉ!?」

 睨み合う剛剣使いと柔剣使い。
 平行線を察して、先に折れたのはギオンヌだった。

「ボトム公爵・・・お願いです」

「なっ、なんだ」

 少し青ざめつつも気迫のこもった顔でギオンヌがボトム公爵を睨むような目で見つめる。

「こいつ、ギレットにおいらが勝ったら、ダンゼンを聖騎士に推挙してくれ」

「なっ・・・」

(何を言っているんだ・・・こいつは?)

「無茶ですよ、ギオンヌ氏」

「すいません、ラッセル様。おいらの生きる意味はそれしかないんで。それを曲げたら、死んでるのと同じでさぁ」
 
 今にも倒れそうなギオンヌに恐怖を感じるボトム公爵と心配するラッセル。

「大丈夫です。ボトム公爵。私が負けることはありませんので」

「しかしだな・・・」

「さぁ、皆様。若輩ではありますが、このキラービーの名を持つ柔剣使いギレットの剣技、早々見れぬものではございません。それも、双剣の剛剣との剣闘。刺激を求めた貴族の皆様、どうかご覧いただければと思います」

 パチッ、パチッパチパチパチ・・・ッ

 パラパラとした拍手がどんどん大きく、そして、多くなっていく。
 怖いもの見たさ。
 そう言えばかわいらしいが、人の、貴族の悪意と狂気の波をダンゼンは感じた。

(ちっ、こいつもこいつで喰えぬ奴だ・・・っ。まぁ、いい)

「よかろう・・・っ。ではでは、今日お越しの皆様の期待にお応えして、今日のパーティのフィナーレにギレット対ギオンヌの剣闘を宣言しますっ」

「うおおおおおおっ」

 ボトム公爵の言葉に観客が湧く。

「・・・抜かるなよ、ギレット」

「もちろんです」

 小声で話し合うボトム公爵とギレット。

「無茶だぞ、ギオンヌ。俺が代わりに・・・いてっ」

 ギオンヌはダンゼンに頭突きを喰らわせる。

「お前、おいらの実力を見くびっているだろ。おいらはお前の一億万倍強い」

「でも・・・利き腕が・・・っ」

「おいらは左利きだぞ?」

「嘘だっ」

「しししっ、バレたか。くっ」

 ギオンヌは左手で右手を抑える。
 ダンゼンもラッセルもツェペリも心配そうにギオンヌを見つめる。

「ダンゼン、剣は何を手に入れ、何を失うものだと思う?」

「えっ?」

「剣は人の命を奪い去るものだとおいらは思っている。それは剣を振った相手も、自分のもだ。だけんど、命を奪うぞって気合を入れて振るもんじゃない。それを見せてやらぁ」

「ギオンヌ・・・っ」

「剛剣の極意はなぁ、魂を剣に込めまくることだ。覚えとけっ」

 ギオンヌは満面の笑みで笑った。

(さてと・・・剛剣使いとして・・・師匠として・・・いっちょやるかっ)


 ◇◇

「王国最強騎士に勝てるわけがない」

「なら、賭けるか?」

 一度は恐怖した貴族たちだったが、見慣れたせいか、平民の命を軽んじているのか、とにかく楽しそうに盛り上がっていた。

「おっ、いいなっ。ギレットに100ゴールド」

「私もっ、50ゴールド」

「俺もだ。300ゴールド」

 多くの貴族がギレットの勝ちに賭け出す。

「はははっ、これじゃあ賭けにならないじゃないか」

「じゃあ、僕はギオンヌに1000ゴールド」

「へっ」

 ギオンヌに賭けたのはラッセルだった。

「へへっ、毎度っ」

「優しいのね、ラッセル様は」

 大人たちが優しい顔でラッセルを見ていた。
 ラッセルの容姿に見惚れて、素直にそう言った大人もいる。
 しかし、多くの貴族は心の中では「偽善者な馬鹿な奴」とあざけ笑っていた。
 
「いえいえ、僕は勝つ自信がありますから。勝てない勝負はしませんよ」

 ラッセルは断言した。

「あらっ、そう」

 貴族たちは思い思いに賭けていきオッズはギレットが1.1倍、ギオンヌが99倍になった。

「よろしいのですか、ラッセル様」

「あぁ・・・ここがフレーンリヒ家の正念場だ、ツェペリ。商いを扱っているうちがもし、この賭けに勝てば、僕の目利きを信じて、人々はフレーンリヒ家の商談に乗ってきてくれるだろう。そういうときにインパクトのある数字ってのは大事だと僕は思ったんだ。まぁ・・・分が悪いのは数字の通りだろうけど・・・」

 ラッセルは剛剣使い同士で会話しているダンゼンとギオンヌを温かい目で見た。

「商いも最後は人と人の関係性だからね。僕は彼らを信じた。それで駄目なら駄目で父上にこっぴどく怒られるだけさ」

 その言葉に微笑むツェペリ。

「ラッセル様がそこまで考えていらっしゃったのであれば、フレーンリヒ公爵は怒りませぬ」

「うーん、怒らないで呆れられるのが一番いやだけど・・・。やっぱり、結果を出して褒めてもらいたいな。『さすが、わが息子』ってさ。だから、他力本願になってしまうけど、彼らには頑張ってほしいし、応援しないとね。だから、君も応援してね、ツェペリ」

「はっ、かしこまりました。ラッセル様」

 フレーンリヒ家の次期当主ラッセルとその従者ツェペリは剛剣使いの師弟を見守る。

「本当に・・・大丈夫なのか?」

「大丈ばねぇ」

「おい・・・っ」

「ははっ、任せろい。ただ、約束しろ」

「何をだ」

「簡単に死ぬんじゃねーぞ。あと読み書きと礼儀をしっかり覚えろ。前にも言ったが、馬鹿は簡単に死んじまう」

 ギオンヌはギレットを見据えながら、ダンゼンに話す。

「あと、仲間想いのいい奴になれっ」

「なんだよそれ、まるで遺言みたいじゃねえか。やっぱり、俺が・・・剣を・・・」

「ばーか、師匠よりも先に剣を持てなくなる弟子がどこにいるんだ。おいらの門下生ではおいらより先に死ぬのは許さん」

「もしかしてお前・・・、戦場に出させないために・・・」

 ダンゼンはギオンヌがいつもふざけていたのは、門下生を戦場に出させないためだったと悟った。

「はっ?なんのことだ?全員ちゃんと育たねえから戦場に出さねーだけだ。ったく、おいらが認めるレベルになんでなれねーかなーっ」

「それはギオンヌがちゃんと教えてくれないからだろ・・・っ」

「はぁ!?おいらはちゃんと、いいことはいい、だめなことはだめだと教えているだろうが」

「それじゃあ、わかんねーよ、ばーか」

 ダンゼンはギオンヌの言葉を聞いて、教え方が雑なのは本気だったのか、照れ隠しだったのか、わからなくなったが、叔父であるギオンヌに愛着が湧いた。

「なぁ・・・ギオンヌ」

「なんだっ」

「最強の剣士になりたいって言ったのは本当か?」

 ギレットを見ていたギオンヌがダンゼンの顔を見る。
 今にも泣きそうな顔をしている。

「だから言ってんだろ、おいらはすでに最強の剣士だって」

「やせ我慢すんなよ、俺に一度も勝ったことがないのに」

「はははっ、そういや、そうだったけか」

 大声でギオンヌが笑うのでギレットも貴族たちもギオンヌを見る。

「だがな、おいらは無駄には剣を振らねえ。楽してえからな。さっきも言ったように剛剣の極意は魂を込めることだ。別にダンゼンに勝ったところで疲れるだけだし、魂込めるほどやる気が出ねえ。でもな、この戦いは違う」

「それって俺の・・・」

 ギオンヌは歩き出す。

「じゃあ、いってくらあ」

 審判の前に相対するギレットとギオンヌ。

「待たせたな」

「いいや、結構。死ぬ前にちゃんと弟子に遺言は残せたか?ギオンヌ」

「死なねーけど、これで引退するつもりだ。そろそろ最強の剣士を名乗るのも疲れたもんでな」

「ふん、ほざけ。ガキが。そんなことを言っているのは貴殿一人であろう?」

「まぁーそうかもな、でも事実だからな。そんで、あいつがお前やおいら、そして兄いを簡単に越して最強の剣士、最強で最高の騎士になるのも事実だ。時代は変わるぜぇ?あいつらによって」

「戯言は一つだけにしてくれ。それとも笑わせえて力が入らないようにする作戦か?ギオンヌ」

「まぁ、ごたくはいい・・・、はじめようや」

 二人は木刀ではなく真剣を構える。
 片手しかないギオンヌはい合い切りの構えで中腰になっており、ギレットは両手で剣先をギオンヌに合わせる。ギレットの剣先がギオンヌを捉えた瞬間、ギレットの殺気が空気を張りつめさせる。

「始めっ!!!」

 審判の声に、先に動いたのはギレットだった。
 先ほどまであった殺気が嘘のように消した瞬間、ギレットは右手のないギオンヌの左側へと滑り込んでいく。

 敢えて剣を持っている方へ行くわけではない。
 初手さえ受けるか躱せば、返しの剣に力が入らないことを見越してだ。

「・・・っ」

 しかし、間合いを詰めたにも関わらずギオンヌはまだ剣を振らない。

「師匠!!!!!」

 ダンゼンが叫ぶ。

「はぁああああああ・・・・っ」

(馬鹿め、今さら気合を込めても無駄だ。我慢比べをすれば剣の一振りの速さで決まる。柔剣の一撃は必殺っ。終わりだ)

 ギレットの剣がギオンヌの喉元を狙う。

「せいやあああああああっ」

「なっ」

 ギオンヌの渾身の一振りにギレットが驚く。
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