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本編
最終話 未来の…と師匠 ~僕らのこれから~
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「あれっ、どこやったっけ。ルーク」
師匠と僕は荷物の整理をする。
ダンゼンは「おめでとう」とだけ言ってその場を去った。
僕は返事ができなかったが、その去っていく背中に深々と頭を下げて見送った。
「あの・・・師匠。お話が・・・」
「なんだい?でも、手を動かしてやらないと、駆け落ちはできないぞ」
「そのことなんですが、ちょっと手を止めて話を聞いてください」
師匠は手を止めて僕を見る。
そして、真剣な顔をしている僕に気づき、僕の傍まで来てくれる。
「どうした?ルーク・・・、もうキスが足りなくなったか・・・?」
「違いますよ!!それにキスしたがったのは師匠でしょ!!」
そう、あの後から、暇さえあればキスばかりしているのだ。
歩いて家に向かう最中も師匠が唇をチュチュッと動かせば、僕はそれに応えてキスをする。この片づけ中もすれ違うたびにキス。
師匠はあれがない、これがない、と何がないかわからないが、わざわざキスをするために探すふりをしてすれ違ってきた。
「それに、大人のキスは時と場所を考えてしろっていったのに、師匠すぐにあれを入れてくるから・・・」
「キス・・・嫌だった・・・?」
上目遣いでうるうるした目で師匠が僕を見てくる。
(かわいいな、ちきしょー)
僕は前髪をかき分けておでこにキスをする。
「えー、おでこー?」
「真面目に聞いてください」
「はーい」
全く、どっちが年上かわかったもんじゃない。
「かわいい顔。やっぱり、いじめがいがあるなぁ」
「師匠!!」
「はいはい、それでどうしたの?ルーク」
むすっとしていても、何してもかわいいと言われてしまう顔も、問題だ。
「ふーーーっ」
大きく息を吐いて、気持ちの整理をする。
「お願いがあります」
「今日の夜からってのいうのは・・・心の準備が・・・」
「だから、真剣に聞いてくださいよ・・・」
「あぁ、ごめんなさい。男の子の真剣な悩みってそういうのかと思って・・・。ほら・・・ねっ」
いや、本当に僕の黒歴史の全てを知っている相手を好きになってしまったというのも恥ずかしいが、そういうところは大人のマナーで弄ってこないところは師匠のいいところだ。
「僕ももう成人になりましたよ・・・師匠・・・」
「そうね、ルーク。いいえ、だ・ん・な・さま。ちゅっ」
これだけ喜んでくれているのは本当に嬉しいが・・・。
「そのことなんですけど、まだ・・・結婚できません」
「えっ」
天国から地獄に落ちた人の顔というのはこういう顔なのだろうか。
僕は師匠を悲しませる奴を許せない、例え自分であろうと。
けれど、僕は言わなければならない。
「僕は第三王子、ルーク・ド・ソルドレイド。無責任にこの国を去り、無責任に婚約もできません」
「・・・」
大事なものを奪うため戦う剣士であり、王族として礼儀を守る責務の両方を守りたい。師匠はそんな僕の言葉に耳を傾け、真剣に聞いてくれる。
「僕はみんなに認められる結婚にしたいです。そして、大人として、王族としての責務を果たしたい。きっと・・・僕と師匠なら冒険者としても生きていけるでしょう。そして、そんな暮らしも楽しいと思います」
僕は師匠の顔色を伺う。先ほどのような絶望した顔ではない。
「続けて」
「はい」
僕は自分の気持ちを落ち着かせるように息を整える。
「僕はもう少年じゃない。大人だ。逃げるのはもうやめて、しっかり父上たちを説得した上で結婚したい。明日のネタリア様との縁談の話もしっかりとお断りをして、迷惑をかけるなら、かけるなりの誠意を見せたい。それが僕の考えです」
「私も・・・歳だ。子どもを考えれば・・・長くは待てない・・・ぞ」
「はいっ」
師匠は急に夜伽の話を出したが、別に色欲魔なわけではない。
25歳。医術が進歩すれば今後はわからないが、20代後半で出産となると、大分リスクがあり、死んでいる人もたくさんいる。さっきの夜の話だって師匠の手は震えていた。
「それでも、僕は成し遂げたい。それが、師匠の元で学んだ僕だから。師匠の元で育った弟子はこんなにすごいんだって証明したいんです。ワガママなのは承知です。1年待ってください。1年で父上たちを説得してみせます!!」
僕は深々と頭を下げた。
「顔を上げて、ルーク」
僕は恐る恐る顔を上げる。
「本当に立派な、男になったな。未来の旦那様」
「ありがとうございます、師匠」
「でも、5年も待ったんだからな、それ以上は・・・待てないぞ?」
頬を赤らめて言う師匠。
「えっ、それって師匠僕のこと10歳からそういう目で見てたんですか?」
「ふぇ、うっ、あっうーーー」
「僕もですよ」
僕はにやりと笑った。
人の人生はおよそ50年
僕らの師弟関係は10年。
そのうち、5年はお互いが恋をしながら、想いを秘めていた。
そして、この1年は勝負の年。恋人関係を続けながら、僕は今まで放置してきた問題と向き合うことを決めた。
どんな手段を使っても大陸全土を支配する野望がある父上を説得し、兄上や姉上らとの派閥争いをうまく立ち回らなければならない。
1年で解決するのは難しいけれど、それでもやるんだ。
僕はやる気に満ち溢れている。
だって、最高の師弟関係の証明であり、愛しい人と結ばれるためだから。
「でも、やっぱり長いから、3ヶ月じゃダメ?」
「師匠!結婚はあと1年待ってくださいよ!!」
いや、本当に。
Fin
師匠と僕は荷物の整理をする。
ダンゼンは「おめでとう」とだけ言ってその場を去った。
僕は返事ができなかったが、その去っていく背中に深々と頭を下げて見送った。
「あの・・・師匠。お話が・・・」
「なんだい?でも、手を動かしてやらないと、駆け落ちはできないぞ」
「そのことなんですが、ちょっと手を止めて話を聞いてください」
師匠は手を止めて僕を見る。
そして、真剣な顔をしている僕に気づき、僕の傍まで来てくれる。
「どうした?ルーク・・・、もうキスが足りなくなったか・・・?」
「違いますよ!!それにキスしたがったのは師匠でしょ!!」
そう、あの後から、暇さえあればキスばかりしているのだ。
歩いて家に向かう最中も師匠が唇をチュチュッと動かせば、僕はそれに応えてキスをする。この片づけ中もすれ違うたびにキス。
師匠はあれがない、これがない、と何がないかわからないが、わざわざキスをするために探すふりをしてすれ違ってきた。
「それに、大人のキスは時と場所を考えてしろっていったのに、師匠すぐにあれを入れてくるから・・・」
「キス・・・嫌だった・・・?」
上目遣いでうるうるした目で師匠が僕を見てくる。
(かわいいな、ちきしょー)
僕は前髪をかき分けておでこにキスをする。
「えー、おでこー?」
「真面目に聞いてください」
「はーい」
全く、どっちが年上かわかったもんじゃない。
「かわいい顔。やっぱり、いじめがいがあるなぁ」
「師匠!!」
「はいはい、それでどうしたの?ルーク」
むすっとしていても、何してもかわいいと言われてしまう顔も、問題だ。
「ふーーーっ」
大きく息を吐いて、気持ちの整理をする。
「お願いがあります」
「今日の夜からってのいうのは・・・心の準備が・・・」
「だから、真剣に聞いてくださいよ・・・」
「あぁ、ごめんなさい。男の子の真剣な悩みってそういうのかと思って・・・。ほら・・・ねっ」
いや、本当に僕の黒歴史の全てを知っている相手を好きになってしまったというのも恥ずかしいが、そういうところは大人のマナーで弄ってこないところは師匠のいいところだ。
「僕ももう成人になりましたよ・・・師匠・・・」
「そうね、ルーク。いいえ、だ・ん・な・さま。ちゅっ」
これだけ喜んでくれているのは本当に嬉しいが・・・。
「そのことなんですけど、まだ・・・結婚できません」
「えっ」
天国から地獄に落ちた人の顔というのはこういう顔なのだろうか。
僕は師匠を悲しませる奴を許せない、例え自分であろうと。
けれど、僕は言わなければならない。
「僕は第三王子、ルーク・ド・ソルドレイド。無責任にこの国を去り、無責任に婚約もできません」
「・・・」
大事なものを奪うため戦う剣士であり、王族として礼儀を守る責務の両方を守りたい。師匠はそんな僕の言葉に耳を傾け、真剣に聞いてくれる。
「僕はみんなに認められる結婚にしたいです。そして、大人として、王族としての責務を果たしたい。きっと・・・僕と師匠なら冒険者としても生きていけるでしょう。そして、そんな暮らしも楽しいと思います」
僕は師匠の顔色を伺う。先ほどのような絶望した顔ではない。
「続けて」
「はい」
僕は自分の気持ちを落ち着かせるように息を整える。
「僕はもう少年じゃない。大人だ。逃げるのはもうやめて、しっかり父上たちを説得した上で結婚したい。明日のネタリア様との縁談の話もしっかりとお断りをして、迷惑をかけるなら、かけるなりの誠意を見せたい。それが僕の考えです」
「私も・・・歳だ。子どもを考えれば・・・長くは待てない・・・ぞ」
「はいっ」
師匠は急に夜伽の話を出したが、別に色欲魔なわけではない。
25歳。医術が進歩すれば今後はわからないが、20代後半で出産となると、大分リスクがあり、死んでいる人もたくさんいる。さっきの夜の話だって師匠の手は震えていた。
「それでも、僕は成し遂げたい。それが、師匠の元で学んだ僕だから。師匠の元で育った弟子はこんなにすごいんだって証明したいんです。ワガママなのは承知です。1年待ってください。1年で父上たちを説得してみせます!!」
僕は深々と頭を下げた。
「顔を上げて、ルーク」
僕は恐る恐る顔を上げる。
「本当に立派な、男になったな。未来の旦那様」
「ありがとうございます、師匠」
「でも、5年も待ったんだからな、それ以上は・・・待てないぞ?」
頬を赤らめて言う師匠。
「えっ、それって師匠僕のこと10歳からそういう目で見てたんですか?」
「ふぇ、うっ、あっうーーー」
「僕もですよ」
僕はにやりと笑った。
人の人生はおよそ50年
僕らの師弟関係は10年。
そのうち、5年はお互いが恋をしながら、想いを秘めていた。
そして、この1年は勝負の年。恋人関係を続けながら、僕は今まで放置してきた問題と向き合うことを決めた。
どんな手段を使っても大陸全土を支配する野望がある父上を説得し、兄上や姉上らとの派閥争いをうまく立ち回らなければならない。
1年で解決するのは難しいけれど、それでもやるんだ。
僕はやる気に満ち溢れている。
だって、最高の師弟関係の証明であり、愛しい人と結ばれるためだから。
「でも、やっぱり長いから、3ヶ月じゃダメ?」
「師匠!結婚はあと1年待ってくださいよ!!」
いや、本当に。
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