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「お見舞いの品はございませんが、義妹のエリスの体調が心配です。会わせてもらえますか、ロイド?」

 私がそう伝えると、ロイドは申し訳なさそうに、

「キミには本当に済まないと思っている、ニーナ。妹のエリスはやつれた顔を僕以外に見せたくないんと言うんだ」

 そう言って、頭を深々と頭を下げるロイド。
 彼のそういう思いやりのあるところに魅かれた私は「わかりました」と言って、再び馬車に乗る。

「この埋め合わせは必ず・・・」

「ええ、楽しみにしていますわ。ロイド」

 私は会釈をしながら微笑み、運転手に目線で合図を送って、馬車をUターンしてもらう。ロイドの子犬のような顔を思い出しながら、そのかわいらしい顔で心を癒そうと自分を納得させようとしたけれど、やっぱり心は寂しくて満たされなかった。

 寂しくなった私は馬車から顔を出して、ふり返ると、ぼんやりと小さな灯りを持ったロイドがまだ見送ってくれていた。
 
(ありがとう・・・ロイド)

 ロイドは私たちが見えなくなるまで、見送ってくれた。

「ニーナ様、絶対怪しいですよ」

 アンがプンプンしながら、私に話しかけてきた。

「なにがかしら? アン」

「何がって、ロイド様ですよ、ロイドさ・ま。浮気とかしてるんじゃないんですか?」

「ロイドはそんなことをしないわ」

 私は笑い飛ばした。ロイドは確かに他の女性にも優しいけれど、ちゃんと私を特別な女性として扱ってくれるし、良識ある男性だ。

「えー、男なんてわからないですよ、ニーナ様」

「それでも、私はロイドを信じるわ」

 私がアンの目を真っすぐ見て伝えると、アンも納得してくれた。
 
「じゃあ・・・エリス様はどうです?」

 私は聞きたくない名前を聞いて、一瞬固まる。つかさず、アンは続ける。

「エリス様は、ニーナ様とロイド様が皆様の前に参加されるようなときは必ず具合悪くなっているじゃないですか」

 確信をつくアン。そのことについては、私もアンと同じことを思っていた。

「うーん、たまたまじゃないかしら? それか、ロイドがいなくなる不安で悪化するのかもしれないし・・・」

 私は目線を逸らして、外を見る。今の私の行き場のない気持ちと同じでお先真っ暗だ。

「知ってますか!? 周りの伯爵家から二人の不仲説があるんですよ!?」

「ええっ!!?」

 私はアンからの言葉にびっくりして、アンの顔を見る。だって、私たちとロイドはとても仲良しだ。時々普通のデートの時も、エリスの体調不良に邪魔されることがあって、あまり遠出はできないし、ほとんどがお互いの家でお話することが多いけれど、私は義妹のエリスのこと以外、まったく不満はないし、ロイドもとても幸せそうな顔をしてくれている。けれどアンが「本当です」という顔をしている。

「それに、優秀なロイドを金でニーナ様が買ったなんて不名誉な噂まで・・・」

「あなたって、結構情報通なのね・・・」

「違いますよっ、こんな私にまでそんな噂が聞こえるくらい広まっているのが問題なんです!!」

 私とロイドの恋。
 エリスに邪魔されることはあっても、婚約中の今が少し切ない思いをしても、結婚して一緒に暮らすようになれば、変わると思っていたけれど、どうやら問題はそれだけじゃ済まなそうだ。

「やっぱり、今度、義妹のエリスに会うわ」

 私は、家へと向かう馬車の中で、義妹のエリスに会うことを決めた。

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