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 私の名前はメリッサ。
 王宮では、若くして周りのメイドからは期待の新星と言われたメイドだ。

 時には、メイド以外からは「メイドなんて誰でもできる仕事なのに、ふっ。なんだよ、期待の新星って」なんて笑われていた。

 けど、誇りを思っていたし、素人目には変わらないなんていっても、私たちがお仕えしている一流の方々には分かる、分かってくれる。

 そう、キリル様は。
 キリル様は理解してくだり、評価してくださった。

 違いが分かるキリル様、そして、おそらくそのキリル様がお呼びする方々も細かいところまで目が届く方々に違いない。

 来客者に対して確かな品質の物を売買するのに当たって変なことで足を引っ張りたくないし、微力ながら協力したい。

 だけど、私は元々ただの一介のメイド。

 メイド長の仕事、そして、私が執事をすることの逆風は強く、メイドとして鍛えた二本の足では少し頼りなかった。

 キリル様はすぐに使用人たちをお雇いになられた。メイドは4名、シェフ3名、庭師2名、秘書1名の計10名。執事は本当にいなかった。

「何人かはまた後日雇用するつもりだけれど、ひとまず、このメンバーでこの屋敷の内外とボク、そしてお客様の管理を任せたい」

 10名の使用人が真剣な目で見つめる。ただ、全ての人の感情は違うようだ。

 羨望、猜疑、好奇、嫉妬、憎悪、憐憫、期待・・・様々な目が私を見つめる。

(覚悟はしていたけれど、あまり歓迎ムードではないようね・・・それなら・・・)

 私は10名の視線を跳ね返すように、目に力を入れる。

「かしこまりました・・・。皆様、はじめましてこんにちは。この家の使用人の統括をさせて頂きますメリッサです。ここにいらっしゃるキリル様はとても高貴なお方です。キリル様のお顔に泥をならないよう各々己の力を発揮して頂きますようよろしくお願いしますね」

 数名の使用人は強めの言葉で、考えを改めてくれた様子だった。ただ、そのほとんどが女性。一部の男性は私の言葉を聞いて歯を食いしばってさらに睨んでいた。

(さてと、今度はいつも通り・・・)

「とは言え、緊張し過ぎたせいで、ミスをしたり、ミスを隠したり、足の引っ張りあいとか、最低限のことしかしなくなったりしちゃういますよね? 大丈夫です。キリル様はとてもお優しい方ですので、真面目にやる時はやる、楽しくやる時はやるで、適度な緊張感を持ちつつも楽しくコミュニケーションを取ってやっていきましょう。おーーー!」

「おーー!」

「「おーー・・・」」

 1人、元気のいい女の子がいた。笑顔が素敵な感じのいい子だ。それを見て私も緊張していたけれど、少しホッとした。

 私の持論は飴と鞭は鞭からの方が良い。おかげで、初日から新たな仲間の人となりが大体分かった。それを踏まえてアプローチしていくつもりだ。
 
(大丈夫・・・大丈夫よ、メリッサ)

 私はチラッと横を見ると、暖かい目で微笑んでいる我が主、キリル様がいらっしゃった。
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