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「えっ・・・・・・」

「メイドだったキミに教えてあげよう。ボクはね、あの家から出るためにキミを利用したんだ」

「キリル様が・・・・・・私を?」

「なぜって顔をしているね。それはね、アーノルド兄さんがキミのことを好きだったことは知っていたんだ」

「えっ、あれは本当なんですか」

 てっきり、アーノルド様こそキリル様への当てつけに私に婚約を申し込んだと思った。

「ボクがキミにアクションを起こせば、張り合うのが好きでボクに負けっぱなしの兄さんのことだ。きっと、ボクより先にキミにアプローチすると思ったんだ」

(ん? 話の流れが・・・・・・少し、おかしい?)

「そして、兄さんが婚約を申し込んだことを母上が知れば、必ず怒ると踏んでいた。家出のきっかけを待っていたボクには好都合。兄さんもボクがメリッサのことを好きだと勘違いしていたし、ボクがキミを庇って逃走するとなれば、動機としては十分だ。そして今、こうしてボクは晴れてあの家を出ることができたんだ」

「そんな理由が無くても、キリル様なら・・・・・・」

 私が尋ねると、キリル様は外をご覧になった。

「できれば、ボクも誰も傷つけたくはないのさ」

 表情は分からない。けれど、

(そうでしたか・・・・・・それでしたら)

 私にも利用価値があったのだと思うと、肩の荷が下りて気が楽になった。
 それにしても、感情的、短絡的に行動したように見えても、しっかりと計画されているというのは、さすが、キリル様だ。私のような浅はかな人間ではキリル様を捉えることはできないのだろう。

 少しだけ。
 ほんの少しだけ、絵本で読んだようなシンデレラストーリーを期待してしまった。
 でも、それもそうだ。
 どんなに頑張ってもメイドはメイド。

 私は主の皆様に快適な生活を提供することを心掛けていたけれど、それは仕事であり当然のこと。キリル様は私やそれ以外の従者にも感謝のお声がけをしていただき、私もみんなも嬉しいと思っているが、王家のメイドということで十分な報酬はいただいているから、王家の方々に私はそれ以上に評価をいただいたり、労いや配慮も望んでいない。

 ときどき感じるのだ。
 従者が主に気を遣われているのはいいのだろうか、と。

 会話が終わった後、キリル様はずーっと外を向いていらっしゃってこちらを見てくださらなかった。さらっと言ったけれど、一大決心に違いない。きっと、一人で考えたいこともあるのだろう。だから、いつものように楽しい会話がないのは寂しいけれど、気を遣われないのはそれはそれで嬉しくて、私からもお声がけはせず、いつものように主からいつ声を掛けられてもいいようなニュートラルな状態で過ごした。

 ただ、何もせずにいたためか、目的地に着くまでかなり時間がかかったように感じた。
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