【完結】最低な婚約者と何でも欲しがる妹。私から婚約者を奪うのは止めた方がいいと言っているのに妹はまったく聞きません。

西東友一

文字の大きさ
上 下
9 / 19

しおりを挟む
「僕はエディだよ? どうしたんだい?」

 手を差し出しながら、ゆっくり私に近づいてくるエディ。だけど、私は彼が一歩近づけば二歩下がり、彼が二歩近づけば、三、四歩後退りする。けれど、彼の方が身長が高く一歩が大きく、私は後ずさりなので歩幅が狭いので二人の距離は必然的に近づいていく。

「嘘よっ」

「どうして?」

 ろうそくの灯りに照らされるシュっとしたエディのニコッと笑う笑顔が爽やかなのに今は怖かった。

(どうしようか・・・・・・)

 頭がしっかり回らない。
 「好奇心は猫を殺す」なんてことわざがあるけれど、まさにそれだ。「知らぬが仏」で暮らしていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。

(って、余計なことは頭が回るのにちっともこの状況を打破するアイディアが浮かばない)

 さっきから、感受性というか心はこんなにも働くのに、頭は全然機能していない。

(なら・・・・・・出たとこ勝負しかない)

 私は持っていた書類の一部分を指差して、彼に見せつける。

「ここには『king』と書かれているわっ!! それと、ここっ、ここには現国王の名が書かれているっ!! つまり、わざわざ国王が調査するなんて始めから必要なかったのよっ」

「・・・・・・それで?」

 それでって・・・。
 私が後退りしていると、頭にコツンと固いものが当たり、後ろを確認すると石の壁だった。もう一度エディを見ると、「だから落ち着けよ」といった顔で笑顔だ。

「つまり、国王の勅書はでたらめで、貴方は国王の家臣じゃない。もしくは・・・・・・」

 こうやって、おびき寄せて、私のような獲物が餌に食いついたタイミングで捕まえる・・・・・・。そうだとすれば、なんといやらしい性格をしているのだろう。私の頭の中に先ほどの記録がフラッシュバックし、怖くなった。

「正解だよ、マリー」

 ニコっと笑ったエディ。
 手が震えるし、足も力が入らなくて、私は石の壁に寄りかかる。

「僕の正体と本当の目的はね・・・・・・」

 エディは私に近寄って来て壁に右手で寄りかかると、私は彼のテリトリーに全て包まれてしまい、彼の影が私を覆う。私は必死になって見つけた書物を抱きしめ、目を閉じる。冷静に対処するのであれば、彼が油断している隙を狙って、予備動作もわずかにして、一瞬に全力を注いで攻撃もしくは、逃げる方がいいのかもしれない。けれど、そんなのは物語だけか、訓練を受けた人くらいなものであろう。ローブを脱いだとは言え、服の一部は濡れて重く、体温だって冷えて筋肉も固まっていたし、私は運動も苦手という物理的条件もそうだけれど、何より恐怖は人を動けなくする。そして、目を閉じているのは、身体の本能というより心の本能かもしれない。さっきまで他人事だったせいか怖いものが見たかったくせに、自分のことになると、怖いものは一切見たくなくなり、ぎゅっと目を閉じた。

 ―――ああもう、駄目だ


 
 誰か・・・・・・・・・助け・・・・・・て。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

純白の牢獄

ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

君のためだと言われても、少しも嬉しくありません

みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は……    暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

婚約破棄?私、貴方の婚約者ではありませんけれど

oro
恋愛
「アイリーン・ヒメネス!私は今この場で婚約を破棄する!」 王宮でのパーティにて、突然そう高らかに宣言したこの国の第1王子。 名前を呼ばれたアイリーンは、ニコリと微笑んで言った。 「あらあらそれは。おめでとうございます。」 ※誤字、脱字があります。御容赦ください。

妹よ。そんなにも、おろかとは思いませんでした

絹乃
恋愛
意地の悪い妹モニカは、おとなしく優しい姉のクリスタからすべてを奪った。婚約者も、その家すらも。屋敷を追いだされて路頭に迷うクリスタを救ってくれたのは、幼いころにクリスタが憧れていた騎士のジークだった。傲慢なモニカは、姉から奪った婚約者のデニスに裏切られるとも知らずに落ちぶれていく。※11話あたりから、主人公が救われます。

婚約破棄?から大公様に見初められて~誤解だと今更いっても知りません!~

琴葉悠
恋愛
ストーリャ国の王子エピカ・ストーリャの婚約者ペルラ・ジェンマは彼が大嫌いだった。 自由が欲しい、妃教育はもううんざり、笑顔を取り繕うのも嫌! しかし周囲が婚約破棄を許してくれない中、ペルラは、エピカが見知らぬ女性と一緒に夜会の別室に入るのを見かけた。 「婚約破棄」の文字が浮かび、別室に飛び込み、エピカをただせば言葉を濁す。 ペルラは思いの丈をぶちまけ、夜会から飛び出すとそこで運命の出会いをする──

婚約破棄ですか? それはこれから、私が貴方に行うものですよ?

柚木ゆず
恋愛
 嘘を吐いている、私の婚約者様へ。  皆様の前で婚約破棄を行うのは、貴方ではありません。この私です――。

処理中です...