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見てなさいよ・・・、クリスティーヌ。
私は笑顔を作りつつも、心の中でやる気の炎を燃やしていた。
「それよりも、お姉様。外は雨が降っていますの。お姉様、傘、持ってこなかったでしょ? 私の馬車にあるからそれを使ってください」
ん?
なんで、私が傘を持ってこなかったことをこの子は知っているのだろう。やはり、クリスティーヌは今日のことを知っているのだろうという推察が確信に変わった。それにしても、珍しく気が利く。
「ありがとう」
なんで私が傘を持っていないのがクリスティーヌに分かるのかと、ボロが出たところを切り口に文句を言おうかと思ったけれど、珍しい思いやりに感謝して頭を下げた。
「いいえ、お気になさらずに。あと、昨日はごめんなさい。お詫びにこれをお渡ししますわ。ではっ」
クリスティーヌも満面の笑みで私に会釈して、バイデルの部屋に入っていく。妹のクリスティーヌは今回の件の重要参考人ではあったものの、私もチョロインなのか、今は言う気になれなかった。
「・・・ってお母様のイヤリングじゃない」
お母様の気持ちをわからないのか・・・。
私は渡されたイヤリングを大事にハンカチに包んで、カバンに仕舞った。
しばらく歩いて、玄関のあたりに着くと、
「マリー様。お外は雨が降っておりますので、こちらの傘をお使いください」
バイデルの使用人の方が大事そうに両手で持っていた差し出してきた。
「お気遣いありがとうございます。けれど、大丈夫です。妹が傘を用意してくれたようですので」
と、お断りを入れると、
「あのクリスティーヌ様が・・・・・・それは・・・・・・」
使用人は窓の外を見ると、結構強い雨が降っている。
「おっと、いけないいけない」
妹のクリスティーヌが珍しいことをしたから、珍しく豪雨になっていると言いたそうな使用人は笑顔で傘を引っ込めた。けれど、こんなに降っていては、流石に傘で帰るのも困難かもしれない。
「クリスティーヌを待とうかしら?」
クリスティーヌは馬車に傘があると言っていた。つまり、一緒に馬車で帰ればいいのだ。
(というか、この大雨の中、独りで傘を差して帰れという意味・・・・・・いやいや、疑っちゃだめよ私)
これから、探偵のように色々調べなければならないけれど、ヒントを元に誤った捜査をしては善良な誰かを傷つけてしまうのはよくない。
だって・・・・・・今。冤罪で私は嫌な気持ちをしているのだから。
(でも、時間は有限。エディのところまでなら、大雨でも行けるわよね)
どうしようか迷ってしまうくらいの大雨。だけど、その場で立ち止まっていても仕方がない。私は馬車の運転手などお客の使用人が休むようの部屋を案内してもらい、運転手と馬車小屋へと向かった。
「その・・・・・・これですけれど…・・・っ」
申し訳なさそうに運転手が傘を私に差し出す。
「これは・・・・・・っ」
馬車の中から出された傘は私が昔クリスティーヌにあげた傘だった。とてもお気に入りのいい傘だったのに、ほとんど使われずホコリを被っており、その上、手入れも粗悪だったせいか、カビが生えていた。
「お屋敷の方からお借りした方がよろしいのでは?」
「いいえ・・・・・・これを使わせてもらうわ」
傘を開けてみると、穴は開いていなかった。
私は、この傘を差していた日々を思い出しながら、暗い大雨の中、歩き出した。
これは・・・復讐のための道ではない。
―――光り輝く未来へ続く道だ。
私は笑顔を作りつつも、心の中でやる気の炎を燃やしていた。
「それよりも、お姉様。外は雨が降っていますの。お姉様、傘、持ってこなかったでしょ? 私の馬車にあるからそれを使ってください」
ん?
なんで、私が傘を持ってこなかったことをこの子は知っているのだろう。やはり、クリスティーヌは今日のことを知っているのだろうという推察が確信に変わった。それにしても、珍しく気が利く。
「ありがとう」
なんで私が傘を持っていないのがクリスティーヌに分かるのかと、ボロが出たところを切り口に文句を言おうかと思ったけれど、珍しい思いやりに感謝して頭を下げた。
「いいえ、お気になさらずに。あと、昨日はごめんなさい。お詫びにこれをお渡ししますわ。ではっ」
クリスティーヌも満面の笑みで私に会釈して、バイデルの部屋に入っていく。妹のクリスティーヌは今回の件の重要参考人ではあったものの、私もチョロインなのか、今は言う気になれなかった。
「・・・ってお母様のイヤリングじゃない」
お母様の気持ちをわからないのか・・・。
私は渡されたイヤリングを大事にハンカチに包んで、カバンに仕舞った。
しばらく歩いて、玄関のあたりに着くと、
「マリー様。お外は雨が降っておりますので、こちらの傘をお使いください」
バイデルの使用人の方が大事そうに両手で持っていた差し出してきた。
「お気遣いありがとうございます。けれど、大丈夫です。妹が傘を用意してくれたようですので」
と、お断りを入れると、
「あのクリスティーヌ様が・・・・・・それは・・・・・・」
使用人は窓の外を見ると、結構強い雨が降っている。
「おっと、いけないいけない」
妹のクリスティーヌが珍しいことをしたから、珍しく豪雨になっていると言いたそうな使用人は笑顔で傘を引っ込めた。けれど、こんなに降っていては、流石に傘で帰るのも困難かもしれない。
「クリスティーヌを待とうかしら?」
クリスティーヌは馬車に傘があると言っていた。つまり、一緒に馬車で帰ればいいのだ。
(というか、この大雨の中、独りで傘を差して帰れという意味・・・・・・いやいや、疑っちゃだめよ私)
これから、探偵のように色々調べなければならないけれど、ヒントを元に誤った捜査をしては善良な誰かを傷つけてしまうのはよくない。
だって・・・・・・今。冤罪で私は嫌な気持ちをしているのだから。
(でも、時間は有限。エディのところまでなら、大雨でも行けるわよね)
どうしようか迷ってしまうくらいの大雨。だけど、その場で立ち止まっていても仕方がない。私は馬車の運転手などお客の使用人が休むようの部屋を案内してもらい、運転手と馬車小屋へと向かった。
「その・・・・・・これですけれど…・・・っ」
申し訳なさそうに運転手が傘を私に差し出す。
「これは・・・・・・っ」
馬車の中から出された傘は私が昔クリスティーヌにあげた傘だった。とてもお気に入りのいい傘だったのに、ほとんど使われずホコリを被っており、その上、手入れも粗悪だったせいか、カビが生えていた。
「お屋敷の方からお借りした方がよろしいのでは?」
「いいえ・・・・・・これを使わせてもらうわ」
傘を開けてみると、穴は開いていなかった。
私は、この傘を差していた日々を思い出しながら、暗い大雨の中、歩き出した。
これは・・・復讐のための道ではない。
―――光り輝く未来へ続く道だ。
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