僕を裏切らないと約束してください。浮気をしたら精算書を突きつけますよ?

ゆずは

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竜司と子猫の変わる日々

僕の心臓が壊れそうになった件

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「ほら、俺の家に帰ろう。……今なら昼間のことは許してやる。お仕置きが必要だとは思うけどね」
「や……やだ…………っ」
「聞き分けのないこと言わないで、のぞみ。今ここで裸に剥かれて縄で拘束して欲しいの?俺は恋人にそんな無体働きたくないけど、のぞみが悪いんだよ。いつまでもへそを曲げたままで、俺にあんなことをするし。まあ、怪我はしてないから、今すぐだってのぞみに挿れることもできるけどね?これ以上俺を怒らせないで。ね?のぞみ」

 聞いたことのない甘ったるい声にまた背筋にぞくりと寒気が走った。
 つかまれてる右腕も痛い。

「のぞみ」

 咄嗟に左足を振り上げた。
 昼はそれで乗り切ったけれど、僕の行動を予測したのか、あっさりとかわされてしまう。

「のぞみ」
「ひ」
「これ以上怒らせないで?」

 低くて昏い声。
 腕に食い込む指の感触。

 いやだ。
 いやだいやだ。

「おいで」
「や……っ」

 強く引かれる。
 足に力を入れて抵抗するけど、引き摺られるように動いてしまう。

「やだ……っ、りゅ、……っ」

 声が震える。
 竜司さんを呼びたくても声が思うように出ない。
 でもお腹になけなしの力を入れる。

「りゅ……じ、……っ」

 助けて。
 いやだ。
 この人と行きたくない。

 視界が涙で滲んだとき、左腕を誰かに掴まれた。
 それからすぐに右腕が軽くなって、大きな背中に庇われた。

「……っ、なんだよ、お前……っ」
「お前こそ、のぞみに何をしている」

 いつも聞かない地を這うような低い声。それは僕に向けられる甘くて温かい声とは全然違うものだった。

「りゅ……、じ、さ、んっ」

 竜司さんだ。
 竜司さんが、また、助けてくれた。

 大きな背中。
 スーツ越しなのに、竜司さんの体温も匂いも感じることができる。
 そのことに少なからず安堵を覚えたとき、あからさまな舌打ちが聞こえた。

「『俺の』だと!?」

 突然の大きな声に体がまたびくりと震えてしまう。

「のぞみは俺の恋人なんだ!俺のものなんだ!!あんたみたいなおっさんのものじゃない!!」
「あぁ?」

 僕は樋山君の恋人なんかじゃない。
 もう終わった。
 精算書だって突きつけた。
 …それは竜司さんにも言ったけど、竜司さんが本当はどう思ってるのか、……どう思われたかわからない。
 樋山君の態度が怖かったのに、今は竜司さんの反応のほうが怖く感じてる。

「恋人だと?」

 竜司さんはちらりと僕に振り返ると、かすかに笑って頭を撫でてくれた。
 たったそれだけで僕の中から不安感が消えていく。

「……ああ、そうか。『元』恋人か。浮気してのぞみを裏切った最低な『元』恋人の。別れたのに付きまとっているのか。とことん最低な奴だな」
「な……っ」

 あの人が激高してる。
 ビリビリした空気が伝わってくるけど、竜司さんはいつも通りだった。……や、僕が知ってる竜司さんよりも余程落ち着いてるように感じる。

「……っ、赤の他人が俺たちのことに首を突っ込むなよ!!淫乱なのぞみがおっさん相手に満足するわけねぇだろ!!どうせ俺への当てつけに選んだ相手なんだろ?
 のぞみ、いい加減にしろよ。こんなやつの後ろにいないで俺のところに戻ってくるんだ」
「い…」

 淫乱、て。
 ……そりゃ、僕は気持ちいいこと好きだし、いっぱいしてきたけど、恋人がいるときはその人一筋だった。気に入られたくて、好きって思ってもらいたくて、その人の好みに合うように振る舞って。
 一生懸命頑張った。
 僕なり、尽くしてきた。
 それを、『淫乱』って言われるなんて。樋山君が僕のことをずっとそう思ってきたってことで。
 胸がぎゅって痛くなる。
 竜司さんにだって最初に望んだのは、抜かず三発だとか結腸攻めだとか、そんな内容だった。
 ……もしかしたら竜司さんにもそう思われてるのかもしれない。
 誰でもいいわけじゃないけど、気持ちいいことは好き。たくさんの人と関係を持ってきたことは事実で。

「─⁠─⁠─⁠淫乱、ねぇ」

 竜司さんの低い声に体がこわばる。
 竜司さんは僕がこれまでいろんな人と関係してきたことを知ってる。でも、蔑むような言葉を投げつけられた僕を、どう、思うのかはわからない。
 竜司さんの背中に添えてた手が震えた。
 どうしよう。
 離れたほうがいい?
 離したほうがいい?

「淫乱、いいじゃないか」
「え」

 笑みを含んだ声。
 腕を引かれて、半分くらい後ろを向いた竜司さんが、僕を見て笑う。それから、形のいい唇が僕の口を覆い尽くした。

「んっ」
「なっ」

 ぐちゃぐちゃにかき回される。
 竜司さんのキス。
 大好きな、貪るような、熱いキス。

「淫乱大いに結構なことだ。こんなに一途で可愛くてエロい、手放したくないね」

 ……恋人!?

「恋人、だと……!?」

 樋山君の声と僕の心の中の叫びが重なった。
 心臓がバクバクと早く打っていて、息まで苦しさを覚える。
 竜司さんは僕の腰に腕を回して自分の方に抱き寄せると、また、樋山君に向き直った。

「のぞみ…っ、なんだ恋人って!?お前の恋人は俺だ…!!」
「『元』な。のぞみの今の恋人は俺だ。お前の出る幕じゃない。さっさと清算して浮気相手に腰でも振っていろ、ガキが」
「な…っ」

 なんだかもう、樋山君のことがどうでもよくなってきた。
 だって、淫乱でも、……ううん、淫乱で、いい、て。
 恋人、て。
 僕の頭の中がぐるぐるになって心臓が壊れそうで、支えてもらってなかったら、多分きっとこの場にへたり込んでたと思う。
 でも、樋山君の声があまりにも大きいせいか、人のざわめきが聞こえてきた。……裏とは言ってもお店の出入り口と近いから、揉めてる声はダダ漏れだ。

「りゅ」
「ああ、もう行こうか」

 優しい声音。
 ちゅ…って音つきで、こめかみに口づけられる。

「お前……っ」
「文句あるならここに連絡しろよ、お坊ちゃん」

 竜司さんは胸ポケットから何が出すと、樋山君にむけて放った。
 一瞬呆けた顔をした樋山君を残して、僕は竜司さんに腰を抱かれたままいつもの車へと誘われた。




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感想 52

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みんなの感想(52件)

ciiiii0821
2025.01.13 ciiiii0821

ゆずは様ꔛ‬🤍˒˒*

明けましておめでとうございます????

…には、時期が遅いんですけど💦💦💦

お元気ですか??

ご家族皆さん、元気でお過ごしになっていると願って!

またお会い出来たらいいな、とは思いつつも無理はして欲しくないので、こちらで失礼致します🙇🏻

まだまだ、寒い日が続きますので、どうぞご自愛ください✨

解除
ねこの
2024.11.23 ねこの

更新ありがとうございます😍
あぁぁぁぁ
もうたまらない!!
かっこいい竜司さん✨
うわぁ
おもしろかったぁ🤭

解除
momonga
2024.11.22 momonga

おかえりなさい(*^^*)

解除

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