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竜司と子猫の変わる日々
僕が竜司さんに大学まで送ってもらった件
しおりを挟む竜司さんと一緒に朝ごはんを食べた。これで、二回目。
僕のこの部屋で誰かと朝ごはんを食べるのは初めて。
たくさんキスをして、着替えるから……って寝室に入ったら、いきなり竜司さんが入ってきて。
……僕の秘密の箱の中身が、バレた。
「りゅーじさん……ひどい」
人には一つや二つ、隠しておきたい秘密があるものなのに。
僕の秘密を暴いた本人の竜司さんは、ハンドルを握りながらくつくつ笑うだけ。
「狼狽えるのぞみも可愛いな」
「……ひどいっ」
知られたくなかったのに。
あんなたくさんの玩具……、見られたら絶対節操なしとか遊んでるとか思われる。……色んな人とシてきたことは、事実だけど。
「……なぁ、のぞみ」
ちらりとだけ僕を見た竜司さんは、視線をすぐに前に移したけど左手を僕の方に伸ばしてきて、膝の上で握りしめてる僕の手を包み込むように握ってきた。
「そこまで気にしなくていいだろ?」
「……だって」
笑ってた竜司さんは、笑ったままため息をつくっていう器用なことをしてみせた。
「お前のディルドコレクションより俺のとこにある洗浄道具やらブジーやら他の玩具の方が量も種類も豊富だ。何倍もやばいだろ」
……コレクションって。
あまりな言い方が面白くて、つい笑ってしまった。
「……まあ、でも、知られたくないこともあるよな?」
「竜司さん」
「お詫びに何かしてほしいことないか?」
「……してほしいこと?」
「ああ。俺にできることならなんでもいいぞ」
「なんでも……」
してほしいこと。
なんだろう。
「あ」
「ん?」
「あのね、これ」
竜司さんのカーディガン。
僕は今日もこれを着てる。
「ずっと僕が着てるから竜司さんの匂いが消えかかってて……、今度洗濯した後に竜司さんの匂い付けて欲しい」
「っ」
「ちょ、竜司さん、まえ、まえっ、あか、赤!!」
響く急ブレーキの音。
してほしいことなんてそれくらいしか思いつかなくて言葉にしたのに、何故か竜司さんが固まって、赤信号の交差点に突っ込みそうになった。
「あっぶな……っ、竜司さんっ、運転中にぼーっとしたら」
「のぞみ」
「なにっ」
「俺を殺す気か」
「いやいやいや、僕も死ぬとこだったからね!?」
「駄目だ……この子猫絶対駄目だ。萌え殺しする気なのか。あー……?今どこ向かってんだっけ?……ああ、ホテルか。ホテルだな。……いや、飛ばして自宅に戻れば道具もあるし準備はできてるし、何も問題ない。あ、いや、それより役所に行って縁組の手続きが先か?ああ……それいいな。……養子縁組より先に指輪……、ああ、そうだ指輪だ。首輪もいいがまず指輪だ。駄目だ。もうほんとこいつ放っておけない。野良はだめだ絶対駄目だ。首輪だな。鎖付きの子猫にも重くない首輪が先だな。ああ、そうだ。それが必要───」
「不気味な独り言いってないで、ほら、信号変わったしっ、行くのは僕の大学だからね!!」
「……ああ」
最初の方しか聞き取れなかった謎な独り言をやめて、竜司さんはまた車を走らせた。
左手はさっきよりもしっかりと僕の手を握ってる。
……匂いつけてもらいたいって、駄目だったんだろうか。
「匂い……だめ?」
駄目なら……仕方ない。
「いや。いくらでもつけてやる。……すまんな。想定外で思考が吹っ飛んでた」
あ、よかった。
いつもの竜司さんに戻った感じ。
「嫌ならいいよ…?」
「嫌じゃない。……のぞみがそうしてほしいって思ったんだろ?」
「うん」
「俺の服を着て、俺の匂いに包まれていたいって思ったんだろ?」
「う、ん?」
「俺に抱きしめられてるみたいでそれがいいんだろ?」
「う………んん?」
「つまり俺にもっと傍にいてほしいってことだよな?」
「え……そう……なる?」
「なる」
「そっか……」
なる……のか。
僕……、竜司さんに傍にいてほしいって思ってるのか。……うん、思った、な。
うわ……。
なんか、僕の思考がすごく恥ずかしいんですけど……っ。
というか、竜司さんが何も指摘してこないから、このカーディガンだって自分のもののような顔して着てるし。それに匂いをつけてほしいとか……、我儘すぎるよ自分……っ。
……あ、でも、竜司さん、嫌な顔しなかった。怒ったりもしなかった。ただ笑ってた。
図々しいやつとか、面倒なやつとか、思われてない?
「竜司さん」
「匂い付けなんていくらでもやってやるから、他にないのか?もっと甘えたおねだりでいいんだぞ?」
「甘え……」
これも、想定外。
嫌、とは思われてないようだけど。
でも、僕が甘えるなんて。…きっと、甘えすぎて、嫌がられて───
「のぞみ、またなんか考えすぎ」
「竜司さん」
「のぞみはもっと俺に甘えろ。大志に甘える以上に俺に甘えて頼れ」
「え」
なんでここでマスター。
「のぞみは大志には遠慮なく甘えるのに俺には遠慮気味に甘えてるから」
「マスターは僕のお兄さんみたいな人だし…」
「じゃあ俺は?」
「……えと、……マスターの親友さんで、変態な人」
「おい」
「でも、僕とデートしてくれる人!」
僕の夢を叶えてくれた人。
初めて僕が家に招いた人。
僕のご飯を美味しいって食べてくれた人。
僕を抱きしめて眠ってくれた人。
朝ごはんを一緒に食べてくれた人。
僕を優しい目で見てくれる人。
一緒にいてほしいって思う人。
離れると寂しいって思う人。
僕にとっての竜司さんは、一言でなんて言い表せない人。
「のぞみ」
さらりと顎を取られて、唇が吸われた。
車がいつの間にか止まってる。
「デートはこれからいくらでもできるし、色んなところに連れてってやる。今よりもっと俺に甘えろ。全部受け止めてやる」
「ん……ぅ、ん」
くちゅりと舌を絡めて、僕の唇を舐めながら竜司さんが離れていった。
「……行ってくるね」
「ああ。何かあれば電話しろよ」
「……なにかなかったら電話しちゃだめ……?」
頬に触れてくる竜司さんの大きな手に、自分の手を重ねる。
笑った竜司さんが、僕の額にキスを落とした。
「いつでもいいに決まってるだろ」
「ん。わかった」
僕の口元にも笑みが浮かぶ。
「じゃあ、竜司さんは遅刻したことちゃんと怒られてね」
「怒られねぇよ。ほら、行って来い」
「ふふ。送ってくれてありがと。竜司さん、気をつけていってらっしゃい」
「行ってきます」
二人で笑い合って、手を離す。
なんか心がポワポワしてるのを感じながら、車を降りて正門の方に足を向けた。
周りから視線を感じたけど、気にならない。
振り返ったらまだ車を出してない竜司さんと目があって、手を振ったら振り返してくれた。
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