僕を裏切らないと約束してください。浮気をしたら精算書を突きつけますよ?

ゆずは

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竜司と子猫の長い一日

僕が目覚めると竜司さんの腕の中だった件

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 悲しい夢と、幸せな夢を見た。

 悲しい夢は、竜司さんがいなくなった夢。のぞみ、のぞみ、って呼んでくれていた竜司さんの声が聞こえなくなって、すぐ傍にいたはずの竜司さんが消えてしまった。
 どこを探してもいなくて。
 名前を呼んでも答えてくれなくて。
 寂しくて、悲しくて、やりきれなくて泣いた。
 泣いて、泣いて、ああ、やっぱりな、って思った。
 僕の傍に、いてくれるわけがないんだ、って。
 僕のそばには誰もいてくれないんだ、って。
 諦めたら、涙は引っ込んだ。
 その代わり、足元に開いた大きな真っ黒の穴に、体が沈んだ。

 幸せな夢は、竜司さんが暗闇から救い出してくれた夢。
 傍にいるよ、って言ってくれた。
 のぞみだけだよ、って言ってくれた。
 優しく抱いてくれて、優しくキスをしてくれて、優しく声をかけてくれた。
 寒くなかった。暖かかった。
 僕が欲しかったぬくもりだった。
 のぞみは可愛いな、って笑ってくれる。
 どこにも行かず俺のところにいればいい、って笑ってくれる。
 僕は嬉しくて嬉しくて、幸せで幸せで、涙がぽろぽろこぼれた。

「………ゆ、め」

 ふと、目が覚めた。
 目が覚めた途端、悲しい夢も幸せな夢も、中身が思い出せなくなった。
 でも、どっちも竜司さんがいた。
 僕の悲しさにも幸せにも、竜司さんがいた。

 あったかいと思った。
 ちょっとごつっとした枕も、布団も、あったかくて気持ちいい、って。
 でも、違った。
 しっかり目を開けたら、目の前には隆々とした胸元があった。
 だからびっくりして「竜司さん」って名前を呼びそうになって、口を抑えた。
 これも夢かもしれない。
 もしかしたら、声を出したら覚めてしまうかもしれない。
 硬い枕だなぁ…って思ったのは竜司さんの腕。当然のように腕枕されてた。
 僕の体は逆の手で抱き込まれてて、ぴったりくっついてた。
 ……これ、本当に、本当?
 夢じゃ、ない?

 できる限り顔を巡らせて何時か確認しようと思ったけど、部屋の中は暗くてよくわからない。
 かろうじてカーテンの隙間から明るい光が漏れてくるから、多分朝だってことはわかる。
 ……僕、寝ちゃったんだ。
 マッチング相手と朝を迎えるなんて今まで一度もなかった。
 付き合ってた人とも、こんなにくっついて朝を迎えるなんてこと、片手で足りるくらいしか経験したことない。
 ……いつ終わったのか記憶にない。それだって、初めてのことかもしれない。
 僕が達しても達しなくても、シてる方が満足したらそれで終わるから。意識を飛ばすなんて、ほんと……、はじめて、だ。

「ぅわ…」

 カカカーって、一気に顔が熱くなった。
 どうしよう。はずかしい。どんな顔で竜司さんに会えばいいの……って、待って、会うどころか目の前にいる。竜司さんの切れ長の目が開いたら、否応なく僕を見られる。
 え、ほんとどうしよう。無理。この状態で「おはよう」なんて言われてら、恥ずかしすぎていたたまれなくて、多分、僕、死んじゃう。

「えっと……」

 ちら…っと、竜司さんの顔を見る。
 ……寝顔も、格好いい。

「ひゃ」

 もぞ…っと動いたら、股間同士が触れ合った。
 ……竜司さんのそこが、めちゃくちゃ硬い。朝勃ちって理解しても、ドキドキしてしまう。それに引きずられて僕の息子も硬くなってるのがわかって、更に恥ずかしさが増してしまう。
 これは駄目だ。
 僕が保たない。
 僕を拘束するようなこの腕から逃れられるかな。
 そっと、腕を持ち上げてみる。
 ちらっと確認した竜司さんの顔は、特に変化がない。
 これならいける…!と、腕を持ち上げてそこから抜け出した。
 念のため、放置されてたクッションを僕の身代わりに腕の下に置いて、ぱっと見、抱きまくらに抱きつくように寝ている竜司さんがなんか可愛いな……とほっこりしつつ、そんな場合じゃないだろっ、って、そろりそろりとベッドを降りた。

「……ねまき」

 自分の素足が目に入って、改めて自分の格好を認識した。
 でも、慌てる場合じゃないし場所じゃない。
 こっそり寝室を出て、キッチンに行こう。
 勝手に冷蔵庫を開けるのは気が引けるけど、落ち着くためには料理に限る。
 そろり、そろり。
 足音をたてないように、寝室の中を移動する。真っ暗じゃないから、足元も見える。
 やっとドアまでたどり着いて、ちょっと開けた。
 気づかれてないかと後ろを振り返って竜司さんを見たけれど、大丈夫。ちゃんと寝てた。
 寝室から出て、ほーっと息をついた。
 続きの居間は明るかった。カーテンが引かれてない。

「えっと…、……………く、じ」

 部屋の中に置かれた時計の表示を見て、愕然とした。
 何時に寝たのかはわからないけど、九時って寝過ぎじゃないかな。……眠りの浅い僕がこんな時間まで寝ちゃうって言うのも不思議でならない。
 まあ、でも、考えても仕方ない。
 キッチンキッチン……ってあるき出してから、下半身の違和感に気づいた。
 長い袖を折りまくって、おそるおそる寝巻きの裾を持ち上げた。

「……っ」

 申し訳無さそうに頭を持ち上げた僕の僕。それを覆うものは何もなかった。
 うん、そう、だよね。そうだわ。よくよく考えれば当たり前のことだ。昨日、竜司さんが僕の下着をただの布にしてた。引きちぎって。……ま、そうじゃなかったとしても、竜司さんが僕に合う下着を持ってるはずもなく、これは致し方のない状況………だ。

「……それにしたって」

 竜司さんサイズだから丸出しにならないけど、落ち着かない。せめてズボンを穿きたい。
 ……人様の家で、我儘なんて言っちゃ駄目だ。全裸じゃなかっただけでも良しとしなきゃ。

 キッチンの前にトイレを探した。
 玄関側で見つけたトイレの中にも、浴室で見た洗浄用の道具が無造作に置いてあって、すん…って真顔になった気がした。
 ……やっぱり竜司さんは、変態さんだ。



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