僕を裏切らないと約束してください。浮気をしたら精算書を突きつけますよ?

ゆずは

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竜司と子猫の長い一日

僕が竜司さんにぶら下がってキスをした件

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 手を引かれて連れてかれたのは、やっぱり広いバスルームだった。
 ピカピカに磨き上げられた黒い石の床や洗面台。その奥にドラム式の洗濯機が置かれてる。……使うのかな?使ってるとこ想像できない。

「竜司さん、キスはいい?」
「ああ」

 恋人として付き合う人にはこんな確認しない。
 恋人同士なら当然のキス行為でも、マッチング相手とかセフレ関係の相手とはキスはしたくない、って人も多いから。体は許せても唇は許せない、ってことらしい。
 ネコ側に多いと聞くけど、生憎、僕にはそんな「キスはいちばん大事な人のために取っておく」ような感傷的な思いはない。
 キスはセックスの一環。嫌な人にはしないけど、許されるならマッチング相手ともする。

「……竜司さん」
「ん?」
「背、高すぎっ」

 ぐいっと背伸びしても、届かなかった。
 しまいには足が吊りそうになって、普通にかかとを床に付き直してしまった。
 竜司さんはそんな僕を見て、「ぶ」って吹き出して笑う。……色気も何もあったもんじゃない。

「笑うとか酷くないですか!」
「悪い悪い。あんまりにも可愛すぎて」
「竜司さんの背が高すぎなのが悪い!」
「のぞみは小さいからな」

 名前を呼ばれるたびに胸の中がドキドキするのを感じていたら、あっさりと腰をかがめた竜司さんが、笑いながら僕に触れるだけのキスをした。
 少しだけ硬い感触と、温かい感じ。
 あ、って思う暇もないくらい、あっさりと離れてしまった唇。

「……」

 おわり?
 物足りない……ってジト目で竜司さんを見上げた。

「腰が痛い」
「は?」

 口元を手で覆ってあらぬ方を見た竜司さんは、ちらりと俺に視線を流すと、またあらぬ方を見た。

「かがむと腰が痛い」
「…………………え、竜司さん、御老体?」
「んなわけあるか。大志ひろゆきと同い年だ」
「だよね…?でも、腰、って……っ」
「痛いもんは痛い」

 ふう…って、手の中で溜息をついた竜司さんは、また俺に視線を戻して腰をかがめた。

「だから、協力して。のぞみ」

 なにを。
 って聞き返す前に、僕の腕を竜司さんが掴んだ。それを、自分の首に回すと、自分の腕は僕の腰に回る。

「こうしたら届くだろ」
「あ」

 首に腕を回して抱きついてるみたいになってるから、腰を伸ばした竜司さんにしがみつくような………ぶら下がってるような格好になった。
 背伸びしても届かなかったけど、これなら届く。……背伸びどころか、つま先が床につくかつかないかってところなんだけど。竜司さんが腰を抱いてるから、倒れる心配はない。
 キスするのにここまでするか……って思いながら、なんか楽しくなってきて笑ってしまう。

「その気にさせて」
「ん」

 ……だから、さっきから思うんだよ。
 竜司さん、もうその気だよね?
 だってさ、こんだけ密着してたら、少し硬くなったモノが僕に当たるんだ。……子供相手に勃起しないかもとか散々言ってたくせに。

「竜司さん……硬いよ」
「仕方ないだろ。本当にご無沙汰だったんだから」

 ちゅ……って、一回キス。
 少し固めだけど、厚い唇は触れると心地良い。

「……竜司さんって、何歳?」
「大志から聞いてないのか?」
「うん」
「三十だ」
「ぎり一回り行ってない」

 ちゅる…って、上唇をなめて吸った。
 竜司さんは僕がやりたいようにさせてくれてる。
 もしかしたら、動くのが面倒なだけかもだけど。

「おじさんは嫌か?」
「おじさんって……。男盛りの年代でしょ。マスターだって格好いいし。……なんか、『できる男』って感じで羨ましい」

 下唇も食んだ。
 にゅ…って舌が出てきたから、はむはむって、肉厚なそれを唇で挟む。

「できる男、か」
「うん。……竜司さん、最初から僕のことからかってたけど、いかにも仕事のできそうなイケメンだと思ったし。格好良かった」
「……過去形?」

 じゅる、じゅる、って吸うと、唾液が溜まってくる。それを一回飲み込んで、舌を伸ばして竜司さんの口の中に忍ばせた。

「……だって、腰、痛いとか言うから……」

 格好いいけど、可愛くて。
 また笑い始めたら、腰を抱いてた腕に力が入って、口の中に入れてた舌が甘噛された。

「っ」

 痛くはなくて、ただ、ぞくぞくと快感が駆け上がってくる。

「……怒った?」
「いや?」
「僕のキス、何か変?」
「いや。……男を誘うキスだな」
「うん。……教えてもらったから。男を焦らすキス」
「今までの男か」
「うん」

 僕の性技なんて、結局は今まで関係を持った人たち仕込みだもん。調べて頭でっかちにはなったけど、知ってるだけじゃ駄目だった。実体験とあわさって、ようやく身についた。

「……俺は、しっかり重ねるほうが好きだ」

 低い、低い声。

「口を開いて、貪り合うのが好きだ」

 竜司さんの目がすごく真剣なもので、僕は思わず喉を鳴らしてしまった。
 僕の唾液で濡れた唇に目が吸い寄せられて、言われた通り、口を開けて、その唇に重ねる。
 竜司さんの唇も開いていて、すぐに舌が絡む。
 どっちの口にも入ってない。
 境界線で、舌先同士がつつき合って絡まって、攻防戦を繰り返す。

「んんう」

 音を上げたのは僕が先。
 舌先が痺れてきて、侵入を許してしまった。
 竜司さんの舌は僕の上顎をことさらゆっくり舐め回して、ずりずり、力を入れてこする。
 その度に僕の腰がビクビク震えて、性感帯が刺激されてるのを知ってしまう。
 竜司さんの首に回してた腕には、無意識に力が入ってた。
 その気にさせなきゃならないのに、その気にさせられてる。
 ぴったり重なってるのに、ぴちゃぴちゃ濡れた音が耳につく。
 でも、さっきまでの軽口を叩くことはできなくて、ただひたすら、気持ちのいい竜司さんの舌を追いかけて、翻弄された。
 ……確かに、このキス、いい。
 支配、されてる感じがする。
 竜司さんはこんなキスが好き。
 ……覚えておこう。





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