僕を裏切らないと約束してください。浮気をしたら精算書を突きつけますよ?

ゆずは

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竜司と子猫の長い一日

回想:僕の初めての男は早漏だった件

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 家族というものがわからなくなった。
 父さんも母さんもお互いのことを知っているんだろうか。
 父さんの女は僕が見ていたことに気づいていたけど、父さんと母さんは全く気づいていないんだろうか。

 僕はあからさまに無口になった。
 母さんは家を空けることが多くなったし、父さんは帰宅が深夜になることが多くなった。
 ……どうせ、お互いの恋人とセックスしてるんだろう。
 不思議なもので、父さんと母さんは口喧嘩をしなくなった。当然だ。会話もほとんどなくなったんだから。
 ただ、必要最低限の会話をする体裁のための家族、そんな感じだった。
 家族って枠組みの中にいるはずなのに、無関心で無干渉。同じ家の中にいる他人だった。

 僕が高校に進学してから、家にお金だけが置かれるようになった。
 父さんも母さんも、家に帰ってきてるのかいないのかわからない生活が続いた。
 僕も、頼ることをしなくなった。
 洗濯や掃除や炊事……といった家事を覚えた。やってくれる人がいないから、自分でやるしかなかったんだ。
 週に一度テーブルの上にお金が置かれていく。お金だけは十分に用意されていたのは助かった。何をどう計算したお金なのかわからなかったけど、僕は自分のためにそれを貯めた。それすらいつ無くなるかわからなかったから無駄遣いはしなかった。おかげで節約もお金の管理も身についた。
 学校関連での必要経費は家族用の連絡アプリにいれれば翌日には用意された。既読はつくけど、返信は一切ない。
 寂しいとかは感じなかった。逆にほっとしていたくらいだった。

 修学旅行には行けた。お金だけは出してくれたから。特別親しい友人をつくったりはしなかった。広く浅くで良かった。
 周りの友達は彼女と夜に出かけるとかなんとか言っていたけど、僕は全く興味を持てなかった。女のどこがいいんだろう。そんなふうに思いながら、他の友達同様、頑張れよーと、部屋を出ていく友達を見送ったりしてた。

 同室になってた奴の中で、出かけて行かなかったのは僕と、もう一人いた。
 名前……何だったかな。
 僕の、最初の男。
 ……あは。思い出せないや。

 その友達のタロウ君(仮)は、僕の前髪をかきあげるとじっと僕を見てきた。

「なに?」
「…伊東って、顔かわいいよな」
「は?」
「や、結構噂になってんだけどさ。お前、あんまり前髪あげないし」
「噂って……」
「伊東美少年説」
「何それ」

 僕は笑った。
 ……まあ、僕は僕の顔が嫌いで、前髪で隠すようになったんだけど。母さん似のこの女顔が大嫌いで仕方なくて。

「……噂は噂って思ってたんだけどな」
「なに」
「伊東、美少年だわ。髪型変えればいいのに。そしたらモテるよ?」
「……いいよ別に。女子に興味ないし」
「ふーん……興味ないんだ?」
「うん。いいだろ、別に」

 興味ないどころか嫌悪すら覚える。
 でもそんなことはタロウ君に言うことじゃないから、僕は何も言わない。
 それで話は終わったんだと思っていたら、タロウ君は僕の方に身を乗り出してきて、酷く真面目な顔で言った。

「じゃ、男に興味あるってこと?」

 って。

「は?」
「なら、俺は?試してみない?」
「ちょ」

 何故かそのまま布団に押し倒されて、無理やりキスをされた。がっちり手を掴まれて抵抗らしい抵抗はできなくて、むに、むに、ってつけられる唇に、噛み付いてやろうかと思ったけど、不思議と嫌悪感がなくてあっさりと受け入れてしまった。

「舌、入れてみてもいい?」
「……うん」

 タロウ君は僕にお伺いを立てて、またキスをしてきた。今度は触れるだけじゃなくて、口を開けて舌を伸ばしてくる。
 一瞬、母さんが他人と舌を舐め合ってたのを思い出して悪寒が走ったけど、それもすぐに消えて、なんだかんだ受け入れてた。
 お互いにテクニックなんてなにもないキスだった。でも、ぎこちないなりに気持ちが良くて、お互いの興奮は勃起っていう形で表に表れた。

「……こすっても、いい?」
「……うん」

 タロウ君の声は掠れてた。
 寝間着用のハーフパンツを下着ごと降ろされると、僕のペニスは頭をもたげていた。
 タロウ君も自分のハーフパンツと下着をずり降ろすと、僕のペニスなんかより、よほど立派にご起立したものが出てきた。
 タロウ君はその勃起ペニスと、僕の半勃起ペニスをこすり合わせるように腰を動かして、手で扱いてきた。

「あ…………」

 それは初めて感じた快感だった。
 しゅこしゅこと擦られながら、腰がぐいぐいと揺らされて、気持ちよくて声が出た。

「……、うぁ…っ」

 呻いたのはタロウ君が先だった。
 僕はペニスの裏筋を何度も擦られて、半分だった勃起が完全に勃起するところだった。

「でる……っ」
「………」

 目の前で、タロウ君がいった。
 く……っと眉間に皺が寄って、なにかに耐えるように目を閉じてる。
 僕は若干冷静になった頭で、射精してるタロウ君を見続けた。
 ……意外と嫌悪感がないことに驚きながら。

 結局その後、僕のペニスは何も出さないまま萎えていたし、なんとなく気まずくなって、そのことにはお互い触れずにいたんだっけ。
 懐かしくもない思い出だけど、僕が男とやることには嫌悪感がないって大事なことに気づかせてくれたタロウ君には感謝してる。名前覚えてないけど。そしてタロウ君は早漏だったけど。



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