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本編
友兄が帰ってきた
しおりを挟む「理玖、今度、美鈴が食事にでも行かないかって言っていたけど。どうする?」
「食事…って」
美鈴さん、駆け落ちしてるんだからそうそう出歩いていたら見つかっちゃうんじゃ……。
「…友兄と一緒なら、いいけど…」
あの行動力でどうして今まで実行に移せなかったのか不思議でならない。
「それじゃ、そう返事をしておくから」
友兄はそう言いながら俺の隣に座りなおした。
「………あのさ」
「なに?」
「なんで……俺に教えてくれなかったのさ」
今回のこと説明さえしてくれていれば、あんなに考え込むことも落ち込むこともなかったのに。友兄を、疑うことも。
友兄は俺の頬を何度もなでて、尖ってしまったらしい唇にも触れていった。
「理玖は、すぐに顔に出るから」
「…それは…そうかもしれないけど…」
だからって、なんか……蚊帳の外っていうか、仲間はずれにされたっていうか……。
「理玖」
むすっとしていたら、友兄に呼ばれた。
ふいっと目をあげたら、そのままソファに押し倒されて唇を塞がれた。
「ん…っ!!」
数日ぶりの、深くて激しいキスだった。
押し戻そうにも腕にも体にも力が入らない。
…そもそも、本気じゃないから。
「ん…んっ」
口の中をまさぐっていく熱い舌が、……ずっと、欲しくて。
心臓が、早くて。
舌に痺れたような感覚が走る頃、友兄が音を立てて唇に軽いキスをして離れた。
体中が、熱くなっていて、俺は起き上がることもできないまま。
「……正直、つらかった。理玖に触れてしまったら折角の仮面は取れてしまいそうだったし」
友兄はそう言いながら、自分のシャツのボタンを上から二、三個外した。
それから、まだ息が整わない俺の服の裾から、手を忍ばせてくる。
「っあ」
思っていたより冷たく感じた指先に、背中が震えた。
「どうしても、今日までに全部終わらせたかった」
「……なんで、今日……?」
するすると、俺の肌をなでていく友兄の手。
わけがわからなくて、凄く激しく打ってる心臓を自覚しながら、友兄に聞いた。
友兄はす…っと目を細めて俺を見る。
「誕生日だからね。……俺たちの」
「あ」
「おめでとう、理玖。十八歳になったね」
忘れてた。俺たちの、俺と友兄の誕生日。
「友兄……友兄も……、おめでと……っ」
「ん」
唇同士が触れて、また、食べられそうなキスをされる。
「……自分なりのケジメはつけようと思ってたから、この日を待ってた。……なのに、美鈴の計画に乗ることを決めてしまったから……、とにかく今日までに全部終わらせたくて。理玖……ごめんね。泣かせたくなかったのに、泣かせてしまった」
「友兄……っ」
「愛してる。愛してるよ。俺には、理玖だけ」
「友兄……っ、俺も……っ」
友兄がやっと帰ってきた。
嬉しいのに、涙が出る。
「理玖……この間の言葉、まだ有効かな」
掠れた声で耳元で囁かれた言葉に、頭の芯まで痺れたような心地で、頷くことしかできなかった。
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