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本編
友兄の匂いが近くて久しぶりに良く眠れた
しおりを挟むそのままキスをされるのかと思ったら、すぐに信号が変わって友兄の指は離れて行ってしまった。
「……信じたよ」
嘘ではない。……嘘では、ない。
颯に指摘されるまで、友兄のことが許せなかった、けど。なにを信じればいいのか、何もわからなかったけど。
だけど、「俺の言葉だけを信じて」って言葉を、最後にはちゃんと……信じることができたと思うから。
「ついこの間までかなり怒っているように見えたけど」
からかうような友兄の口調。
「あれ……は、その………」
言い訳なんてできません。
「………ごめんなさい」
言い訳より素直に謝ってしまえ…って感じで項垂れていたら、友兄の面白がるようなくすっていう笑い声が聞こえてきた。
「俺……頭の中真っ白になって……、悲しくて……。……怒った?」
「怒っているわけでも、責めているわけでもないよ。それでも結果的に信じてくれたんでしょう?」
「うん。この間颯が来て言われた時に、『ああ、そうなのか』って。…気付くの遅くて、ごめんなさい…」
友兄はまたくすくす笑った。
それから…左手を伸ばしてきて、膝の上に置いたままだった俺の手を力強く握る。
「っ」
「嬉しいよ、理玖」
こんな風に触れるの、どれくらいぶりなんだろう。
すごく長い時間じゃなかった。だけど、短い時間でもなかった。
手から伝わってくるぬくもりに、鼓動が速くなる。
「……あのさ」
「うん?」
「…今回のこととか……、ちゃんと話してくれる?」
「そうだね」
一際強く、握られる。
「…明日。理玖にだけちゃんと話すよ」
友兄の本音が聞きたかっただけなのに、今じゃ駄目なんだ。
…きっと、気持ちの整理とかつかせるためには、それくらいの時間も必要なんだ。
「わかった」
頷いて、俺も友兄の手を強く握り返した。
その夜。
友兄の腕の中で眠りについた。
額と頬におやすみのキスをして。
久しぶりの、友兄の匂いと、少し早い鼓動。
優しさに包まれているような感じだった。
けど、…『恋人のキス』は、ない。
俺は、まだ、友兄の恋人、なんだろうか。
久しぶりにぐっすり眠れたような気がする。
全身を包んでいるのは、大好きな人の匂い。
ぬくもりも、鼓動も、とてもとても大切で。
いつまでもいつまでも、このままでいれたらいいのに。
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