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本編
友兄が婚約…するの?
しおりを挟む颯と肩を並べて学校に向かう。
遠慮のない視線や僅かに聞こえてくる噂話はとにかく気にしないようにした。
……女子の目がやたらとキラキラしてる気がするのは、なんでだろう。
昼休み。
とりあえずまた購買で昼食を買いこんで、日差しの強い屋上に来た俺たち。
定位置に座り込んで袋を開けて食べ始めた。
「率直に言うと、友敬さんのお見合いのことなんだけどさ」
「うん」
多分そのことだろうとは思っていた。誰かに聞かれたくないから、わざわざこんな場所で。
颯はパックのコーヒーを一口飲んでから、口元に指をあてて何やら考え込んでいる。
「颯?」
「大柴美鈴」
「へ?」
「じゃない?お見合い相手」
心臓がドキドキしてくる。
「…なんで、知ってんの」
そう答えると、颯は溜息をついて小さく頷いた。
「僕の親戚も週末にお見合いするって言っただろ?」
「うん、確かに言ってたけど…」
「その親戚が、大柴なんだ」
「……それじゃ、颯知ってて……」
責めるような口調になってしまった。
颯はそれを感じたのか、苦笑する。
「流石に、僕も相手のことを聞かされてたわけじゃないからさ。ただ、親しくないわけじゃない親戚……って、言いまわしが微妙だけど、つまり、仲のいい親戚でさ。ヤサカって聞こえてきたから、そうなんだろうな、って」
「そう……なんだ」
「うん。だから……、大柴のおじさんたちが、友敬さんのことをすごく気に入ったってことも、…美鈴さんも乗り気だってことも、聞いた」
新しい情報に、胸の中がざわついて、頭の中は真っ白になっていく。
「それから」
颯は一呼吸置いて、俺を見据える。
「婚約の準備を始めてるってことも」
喉の奥が熱くなって引き攣るような感じがした。
「式の日取りも、調整に入った、って」
颯の声がどんどん遠くなる。
手にしていたパンは床に落ちた。
「理玖…。ごめん。でも、これは大柴が言っていることだから、どこまで両者の間で話し合いがされたのかはわからない。……だけど、どうしても理玖には話しておきたかった」
鈍器で殴られたような衝撃を胸に抱えているのに、涙はでなかった。
ただ、全てが凍りついて行くような……そんな気がするだけだった。
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