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本編
友兄と週末デート…!
しおりを挟む季節は夏。
目前ではないけれど、あと二週間ほどで夏休みに入る。俺が部活を引退する時期でもある。
日々暑さを増していて、学ランでいるとかなり汗だくになるから、半袖のワイシャツだけのやつがちらほら出始める。多分俺もそろそろそいつらの仲間入りだな。
「世の中確実に真夏に向けて進んでるのに、理玖の頭の中は常春みたいだね。お花畑が満開なんじゃないの?」
「んなわけないけど」
颯の言葉を否定しつつ、口元にはニンマリと笑みが浮かんでしまった。
週の真ん中の水曜日。
昨日の電話で、今日また友兄が帰ってこれるって言っていた。
「……初デートだし」
「今週末だったっけ?」
「そ」
しかも泊りだから、朝から晩まで友兄と一緒にいられる。
金曜の夜から。日曜の夜まで?それとも月曜日は友兄のところから登校……してもいいのかな。
デート、どこ行くんだろう。友兄と一緒なら、本気でどこでもいい。
「僕もこっそり後をつけてみようかな」
いつものパックコーヒーに口をつけながら、颯が俺をチラ見して言ってくる。
「駄目に決まってるだろ」
「だから、こっそり」
どこまで本気なのか、むしろ、全然本気じゃないのか、颯の言葉は顔を見ていてもさっぱり真意がつかめない。こいつはそうやって他人をはぐらかすことが得意だし、比較的付き合いの長い俺にだって判別が難しい。
こっそり……って、友兄の車でドライブ…とかだったらどうするつもりなんだか。
「とにかく理玖が元気そうでなによりだよ」
そう言葉にする颯だけど、そこだけいつもと少し違っていた。からかうような目と口調だったのに、どこか違和感がある。
何かを言いたそうな、迷っているような目をしている。
颯がこんな表情をするのは本当に珍しい。
「……何か隠してる?」
そう聞いたら、一瞬だけ颯が俺に視線を投げかけてきた。
鋭さを思わせるそれは、本当に一瞬のことで、すぐにいつもの颯に変わっていたけれど。
「………少し親戚がごたごたしていてね。それがちょっと気になってるくらいだよ」
「ふーん…」
颯の親戚。
颯がそれ以上話さないってことは、話したくないってことだよな。
というか、親戚なんて初耳だ。幼馴染をしているけれど、こいつのそういった話しを今初めて聞いた。
「……まあ、お前に親戚がいるのも当然だよな」
「親戚の話しなんて、煩わしいだけだし」
颯らしい意見だ。
それから話題が変わって暫く笑いながら話していた。
そして十分後。昼休みの終わりを告げるチャイムが、鳴り響いた。
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